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14 嵐のようなレイヤード、のち本探し

 次の日。朝から宿に押しかけたレイヤードは、アルトが階下に降りてくるのを待ち構えていたらしい。

 宿の食堂の一番端の席で、木の板に書かれた絵らしきものと本を見比べていたレイヤードは、食事をとるために降りてきたアルトに走り寄った。


「おはようアルトリオ師匠! ちょっと聞きたいんだけどさ」

「ああ、おはよう。朝食をとるからその間待っててくれる?」

「わかった、食べたらすぐ来てくれよな」


 アルトと同じタイミングで食事を摂りにきたミリアは、彼の持っている板が気になった。勇気を出して話しかけてみる。


「おはようレイ。私ミリアっていうの、よろしくね」

「あん? お前、師匠の女か?」


 女? って……ああ! フィアンセとか妻とか、そういう意味の言葉だよね!?

 聞き慣れない表現に一瞬固まったミリアは、慌てて否定する。


「違うよ! 旅の仲間だよ」

「ふーん。なんの用だよ」

「その板、なんなのかなって気になって。見ていい?」

「あ? 勝手に見てんじゃねえよ、散れ」


 とりつく島もない様子のレイヤードにたじろぐミリア。見かねたアルトが助け船を出した。


「レイ、ミリアは俺の大切な仲間だから、もう少し態度を改めてくれないか?」

「チッ、わかったよ。師匠がそう言うなら見せてやる」


 レイヤードがミリアの目の前に札を並べる。絵の方は辛うじてなにか判別できるが、その上に書かれた記号はなんだろう?

 ミリアはしばらく記号について考えてみて、それがものすごく下手なゼネルバ語の文字だということに気がついた。


「あ、わかった! これ、お手製の辞書なんだね」

「見りゃわかんだろ、アホなのか? もういいだろ、俺の邪魔すんな」


 ミリアはすごすごと退散し席に着く。アルトは苦笑いを浮かべていた。


「あまり関わってほしくなさそうだね。でも困ったな、こんな態度だとこの先が思いやられる」

「そうだね、でもフェルにはここまで態度悪くなかったし、なんでかな?」


 二人してレイを見つめると、彼も視線を感じたのか顔を上げた。


「一つ教えておいてやる。俺は強いヤツが好きなんだ。師匠もあの兄さんも強そうだが、お前は弱そうだ。だから普段だったら相手にもしねえが、師匠の仲間だって言うから口を聞いてやってる」


 うわあ、なんて偉そうな態度なんだろう。全然改まっているように思えないが、レイとしてはこれでも譲歩しているらしい。


「ミリア、レイがなにか問題を起こすようなら、すぐに追いだすから遠慮なく相談してね」

「はあ!? なんでだよ師匠、俺ついてっていいって昨日言われただろ?」

「だとしても、仲間に迷惑をかけるようなら同行は許可できない」


 アルトの硬い声に本気を感じとったのか、レイは両手を上げて降参した。


「わかったって。迷惑はかけない。これでいいだろ?」

「それならいい。それと俺達は今日はここに一晩泊まるけど、上手く物が揃えば明日の明朝出発する予定だから。ついてくるならそのつもりで荷物をまとめておいてくれ」


 レイは素っ頓狂な声を上げた。


「明日ぁ!? 早くね? くっそ、まだあいつらに聞きたいことがあったのに、今日中に締めあげるしかねえか」


 レイは物騒なことを言いながら、食事を食べ終えたアルトにいくつか初歩的な質問をすると足早に退散していった。


「はあ、レイと会うと調子が狂うな」

「アルト、本当にレイが苦手そうだね」

「ああいう押しの強いタイプはあまり関わりあいになりたくないんだ。まあ、今回は仕方がない。気持ちを切り替えて買い物に行こうか」


 遅れて起きてきたラジェとフェルも合流し、二手に別れて買いだしを行うことになった。

 ラジェとフェルに残りの食糧の買いだしを頼むと、フェルがごねた。


「待て。なぜ俺とミリア嬢ではなく、お前がミリア嬢と組むんだ」


 なぜか得意げな様子のアルトが、わずかに背の低いフェルを腕組みしながらイタズラっぽく見下ろしている。


「今日ミリアはゼネルバ語の辞書を買いたいそうなんだ。フェルは俺よりゼネルバ語に詳しいのかな?」

「ぐぬぬ……しかしこの、得体の知れない法術師と一緒にいると気が休まらんのだが」

「それはこっちの台詞」


 ラジェとフェルは相性があまりよくないようだ。

 うーん、二手に別れた方が効率はよさそうだけど、やめた方がいいのかな?


「やっぱり四人で買いだしに行く? 辞書がすぐに見つかるなら、買いものも一日で終わらせられそうだよ」

「いやいや、ミリア嬢は自分のやりたいことに集中してくれ。不本意だが仕方ない、ラジェ、ついてくるといい」

「……」


 ラジェはなぜか路地の奥を数秒見つめた後、無言でフェルについて行った。後でなにか二人には、労いの差入れでもした方がいいかもしれない。


「ん? 今なにか……」

「どうしたのアルト?」

「いや、気のせいか。なんでもないよミリア、行こうか」


 本探しのため、ミリアとアルトはまずこの地の教会に出向いた。

 この都市には王都のような図書館も、古本を大々的に扱う店もなかった。そういう場合、本がたくさんあるとしたら教会だろう。もし売ってくれないとしてもここに辞書があるなら、写本するという手もある。

 教会のシスターにゼネルバ語の辞書があるか尋ねると、シスターは申し訳なさそうに首を振った。


「申し訳ありません、十年前に教会にあるゼネルバ語の書籍類は焼かれてしまい、ほとんど残っていないのです。残っているとすればここでしょうか」


 ミリア達は古物商の店を教えてもらって教会を出た。


「あてが外れたな」

「うん、残念。ここのお店に置いてあるといいけど」


 細い路地の中に存在した古物商の店は食器類や壺、巻物や家具など、ありとあらゆる物が雑多に溢れかえっていた。

 暗くカビ臭い店内に抵抗を感じながらも足を踏み入れる。


「すいません、本を探しているのですが、ここにありますか?」

「なに? 本じゃと? 待っとれ」


 店主のおじいさんが奥に引っこんで、しばらくガサゴソしていたがやがて数冊の本を抱えて出てきた。


「ここにあるので全部じゃ」

「どれどれ」


 アルトが手にとって一冊づつ検分する。最後の本の背表紙を確認すると、意外そうに目を瞬かせた。


「おや、これは」

「辞書だった?」

「辞書ではないけれど、これはこれで使えそうだ。店主、これはいくらかな?」

「そうだのう、じゃ、銀貨五百枚」

「えっ、高い!」


 あまりの値段の高さにミリアが叫ぶ。

 銀貨十枚もあればそれなりの宿に泊まれるのに、本ってそんな高かったの!? 私の持ってるお金じゃ足りないかも。


 アルトが本を手に取り、上下にひっくり返したりページをめくったりしながらしげしげと検分する。


「ちょっとボリすぎじゃないか? この薄さなら銀貨三百枚が妥当なところだ」

「お客人よ、それでは商売がたちゆかんなあ。四百八十枚」

「せめてもう少しまけてほしいな、三百五十枚」


 丁々発止のかけあいをミリアが眺めていると、最終的に四百二十枚にまで値切ったアルトが懐から金貨を取りだしたので、ミリアが声をかける。


「私が払うよ!」

「ミリアのお金はいざという時用にとっておいて。ここは俺が払うね」

「でも私のための本なのに、悪いよ」

「悪いと思うならしっかり勉強して法術を身につけてくれ。はいどうぞ」


 薄い装丁のそれは、貴族学生向けの語学勉強本だった。ゼネルバ語とアーガル語が一ページずつ交互に書かれている。

 ミリアは本を受けとり、胸元でギュッと抱きしめた。


「ありがとう、大事に使うね」

「うん、そうして」


 店を出ると、見知った姿が目の前にあった。


「あ、アルトリオ師匠。こんなカビ臭えところになんか用事か?」

「やあレイ、さっきぶり。俺の用事は終わったからどうぞ入ってくれ」

「おう、じゃあまた明日な」


 レイはずかずかと店の中に入っていくと、店主に突撃した。


「おいジジイ! 生きてるか!?」

「勝手に殺すな。なんじゃ、お前さんか」

「ジジイこれ読みたいから手伝えよ。ゼネルバ語わかるし字が読めれば楽勝だと思ったのに、知らねー単語ばっかなんだ」

「人に頼むなら頼み方があるじゃろ? ん?」

「テメー足もと見やがって。ほらよ、金だ」

「これっぽっちじゃ教える気にならんのう、今は懐もあったかいしのう」

「こんのジジイハゲ……ッ……て!」

「ミリア、聞いちゃいけないよ。行こう」


 汚すぎて聞いたこともない言葉を羅列するレイヤードの言葉を遮るように、アルトがミリアの手をとり路地から出る。


「さてと。なんとか目的の物も見つけられたことだし、昼を食べたら二人と合流しようか」

「そうしよう、お昼代は私が出すね! あと、買いだししてくれてる二人に、なにかちょっとしたおやつとかがあれば買いたいな」


 ミリアはアルトと一緒に昼ご飯を食べた。ラジェもフェルも優しいけれど、アルトとご飯を食べるのが一番楽しいし落ち着くなあと思ったミリアだった。

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