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12 地方都市サルダは治安が悪い様子

 あれから数日が経ち、すっかり秋めいてきた頃。ミリア一行は地方都市サルダに足を踏みいれていた。


「なんだか、寂しい感じがするね」


 城壁都市エルトポルダと同じように、サルダも城壁には覆われていたものの、戦争の後で焼けた跡や崩れた場所がそのままになっているところも見受けられた。

 フェリックスが難しい顔つきで腕を組む。


「戦後復興のために王立騎士団が投入され治安維持に努めたが、引きあげるとまた荒れてしまってな。領主も代替わりが激しいせいでろくに仕事ができてないんだろう、嘆かわしいことだ」

「どうしてそんなにコロコロ領主が代わってしまうの?」

「いろいろあるのだ。政敵に蹴落とされたり、暗殺されたりな」

「ひえっ」


 ここはどうやら、ミリアが思った以上に危ないところのようだ。絶対に、アルト達から離れないようにしよう。ラジェはちゃんとついてきてるよね?


 いつも気配の乏しいラジェを確認すると、彼女も周りを見渡して難しい顔をしていた。その横顔は、なんとなく哀しそうにも見える。


「ラジェ?」

「なに? 余所見しないで歩いた方がいい」

「うん」


 振り返ったラジェは無表情だった。気のせいだったのかな?


 あまり長く留まりたい場所でもないので、食料など足りない物を補充したら、一晩だけ泊まって出立しようという話で意見は一致した。

 前にここに来たことがあるというフェリックスの案内で大通りを歩く。

 ミリアが心細く思ってアルトリオの服の裾をつまむと、彼は手を差しだした。


「手を繋ぐんでもいいよ?」

「駄目だ駄目だ! いざという時のために両手は空けておけ。それに! お前だけミリア嬢と手を繋ぐなど、そんな羨ましいこと許可できるか!!」

「前半は一理あるけど、後半には疑問を感じるな。どうして俺がミリアと手を繋ぐのに、君の許可がいるんだ?」

「だから俺が羨ましくなるからだと言っているだろう」

「つまり君はミリアが好きってこと?」

「もちろん。美しい女性はみな平等に好きだ!」

「ああ、そういう話ね……」


 ミリアは背の高い二人の間に隠れるようにして歩いた。すぐ後ろをラジェが音もなくついてくる。

 露店で買い物をした後、急にアルトが横を向いて、ミリアの手をとり姿を消した。


「ひゃっ!」

「なっ、消えたぞ!!」


 フェルが驚き剣を構えた。ミリアが目を開けた時には、アルトはミリアを背に庇いながら知らない男の腕を捻りあげていた。

 男はゼネルバ語でなにかを喚いている。離せと言っているようにミリアには聞こえた。


「どうする? スリみたいだけど、一応憲兵に引き渡そうか」

「そうだな。時間がかかるかもしれん、俺が連れていこう。お前はその間に用事を済ませて、先ほど教えた宿をとっておけ。ミリア嬢を頼んだぞ」

「ああ、もちろん」


 元騎士でこういったことに慣れているフェリックスの提案にアルトリオは了承し、男を彼に託した。

 一連の動きにただ固まっていたミリアは、男がいなくなりようやくギクシャクと体を動かした。


「スリがいたんだ、全然気づかなかった」

「この服装だからお金持ちに見えたのかもね。エルトポルダなら浮かなかったけど、ここだとかなりの大金持ちに見えるみたいだ」

「そっか。宿についたら、一番質素に見える服に着替えようかな」

「そうした方がいいね」


 ミリア達が話していると、そこに駆け寄る人影があった。


「おい、お前!」

「ん、俺?」

「そう、そこの緑の服の旦那。さっきジャンになにをしたんだ?」

「ジャンってさっきの男? 法術で後ろに飛んで手を捻りあげただけだけど」

「ホウジュツ? 法術か! お前すげえな! 弟子にしてくれ!!」

「はあ?」


 アルトリオが滅多にあげない困惑した声を出している。ミリアはアルトの背から相手の姿を観察した。

 細身の少年はラジェより少し背が高い。赤っぽい茶髪に褐色の瞳、ヒョロッとした体型で、裾のほつれた服を着て腰に短剣を帯びていた。


「うーん。断る」

「なんでだよ! 俺が孤児だからか!?」

「それは関係ない。俺達は王都を目指して旅をしているから、弟子をとってる時間がないんだ」

「お前の後ろのやつらは弟子じゃないのか?」

「旅の仲間だよ」

「じゃあ仲間に入れてくれ」

「いや、だから……どうして君は法術を習いたいんだ?」

「だってそれがあればケンカに超強くなれそうじゃん?」


 アルトリオは困った様子で頭を掻いた。説得が難しそうだと悟った彼は、ミリアの手を再びとった。


「ごめん、飛ぶよ」


 ミリアが目を開けた時には、少年の姿は見えなくなっていた。ラジェもちゃっかりミリアの後ろに飛んできている。


「とんだ災難だったね。まだ少し買う物があるから、さっさと済まそう」


 先程の露店ではなく別の通りの露店で買い物をしていると、大きな声とともに少年が駆けてきた。


「みつけた! 次は逃がさねえ!」

「うわ、しつこいな。ラジェ、しばらくミリアをお願い」

「わかった」


 アルトは跳躍し、風とともに消えた。少年は口をかぱっと開けて驚いた後、瞳を輝かせた。


「すげえ! すっげえな、また目の前で消えたぞ!! ぜってえ捕まえてやる!」


 足早に走りだした背中を、ラジェと二人で見送った。


「買い物は中止。宿をとる」

「そうだね、行こう」


 ミリアとラジェはその後は特に問題もなく宿にたどり着き、無事に部屋を押さえることができた。





 その日の夜、ちょっと疲れた様子のアルトリオが宿に戻ってきた。

 ちょうど夕食をとっていたミリア達は、彼の分の夕食も用意してもらう。


「アルト、お疲れ様。ずいぶん時間がかかったんだね?」

「いや、あの子すごいよ。ものすごい勘と地の利でどこまでも追いかけてくるんだ。ちょっと無理をして長距離を飛ばなきゃ引きはがせなかった」


 ラジェが労わっているつもりなのか、スープ皿をアルトの目の前に押しだすと、彼は勢いよく食べはじめた。


「なかなかの量を食べるな、お前は。騎士並みに食うのではないか?」


 とてもいい食べっぷりのアルトを見て、フェルが変なところで感心している。


「法術は生命力を使うんだ。今日みたいにたくさん使った日は、それだけお腹が空く。あ、おかわりお願い」


 そういえばそんなことが書いてあったなあとミリアは本の内容を思いだしていた。アーガル語で書かれた本はなんとか読み終えたものの、読みこみが足りないのか、まだ一つも法術を発現できていない。


 やっぱりゼネルバ語で書かれた本を読み進める必要がありそうだ。この町に辞書とかあればぜひ買いたい。


「今日で買う物は全部揃えられたんだっけ? もし大丈夫だったら、私本が売ってるところを明日探したいな」

「そうだな、そうしようか。買い物も中途半端なままだから、明日もう一泊して全部揃えよう。まったくもう、予定がめちゃくちゃだ」


 アルトは金茶の髪をクシャクシャにしながら部屋に戻ろうと席を立った、その時。


「あっー! やっと見つけたぜ!!」

「えっ、嘘だろ? あり得ない……」


 赤茶色の髪の少年が息をきらして宿の扉にもたれかかっている。アルトは目元を覆い天を仰いだ。

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