46話「幼い頃の記憶」
その日、私は久しぶりに母の夢を見た。
夢、というよりは自分の記憶の再生といったほうが近いだろうか。
あの時、アスヴァレンには敢えて話さなかった記憶である。
私の従兄にあたる男の子の話をする母は本当に嬉しそうで、自分もその子に会ってみたいと思うと同時に、まだ見ぬ彼に嫉妬心を抱いたものだ。
その子が、私の与り知らないところで母と楽しく遊んでいたと思うと、何だか妬けるものを感じた。
たどたどしい言葉で自分の気持ちを伝えると、母は困ったように笑った。
「だって、その頃はまだ美夜ちゃんは生まれていなかったもの」
そう言われても、まだ幼い子供には自分が生まれる前という概念が想像にしくかった。
母は、納得できない私の頭を撫でてこう言った。
「でも、エルくんは美夜ちゃんと会えるのを楽しみにしていたわよ?
私ね、エルくんにこう言ったの。女の子が生まれたらあなたのお嫁さんにしてあげてね、って。
エルくん、喜んでくれたわ」
エルくん、というのは私の従兄に対する愛称のようだ。
それはさておき、お嫁さんと言われてもあまりぴんとこなかった。
でも、私がその子のお嫁さんになると、その子もまた母のことを「母様」と呼ぶようになるらしい。
母様は私だけの母様だから、他の子にはそう呼んで欲しくないというのが正直な気持ちだったけれど、あまりに嬉しそうな母を見ている内に、きっとそれは悪いことでもないのだろうと思うようになった。
母を失い、伯父夫婦に引き取られた私は、孤独に苛まれることが多くなった。
家庭内は、私にとって安息の場所などではなく、存在を否定され自尊心を傷付けられる日々の連続だったけれど、まだ見ぬ家族の存在に随分と救われたものだ。
まだ見ぬ父と兄、それに従兄はとても優しくて、私を温かく迎え入れ守ってくれる存在だ。
ただの空想と侮れないほどに、彼らの存在は私を勇気付けてくれた。
ここではない場所に、私の本当の家族がいる。
そんな希望があったからこそ、今日まで生きて来られたと言っても過言ではない。
縋れる希望がなければ、いっぱい勉強して立派な大人になり、隆俊伯父から地位も財産も奪い取るという野望さえ抱けなかっただろう。
きっと、自尊心をぺしゃんこに踏み潰され、人生に何の夢も希望も見出せない生ける屍のようになっていた。
そう、隆俊伯父とその家族の望む通りに。
成長するにつれて、母の言っていた「お嫁さん」の意味も理解できるようになった。
でも、彼女がそう約束したのは、あくまで二百年前に存在したという故エレフザード陛下だ。
私が知っているエレフザード陛下とは、生まれ変わりとは言え別人だ。
このことをどう解釈し受け止めるか、私の中でまだ明確な答えは出ていないけれど、幸いにして考える時間はたっぷりある。




