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プロローグ
私は今日ここで死ぬのだ、そう確信した。
摂理に背き、因果をねじ曲げた者の末路だ。
そうわかっていても、不思議と恐怖心はない。
今までに好んで読んできた神話や伝承の中でも、神の怒りに触れて悲惨な結末を迎える愚か者の逸話には事欠かない。
まさか、自分がその一人になるなんて考えたこともなかったけれど。
今、私の心は凪の海のように穏やかだ。
だって、愛する人を救うことができたのだもの。
そのことを、心から誇りに思う。
この世界に……ブラギルフィアに来なければ、こうして早すぎる死を迎えることもなかった。
それでも、私はブラギルフィアに来たことを後悔する気など微塵もない。
ここに来なければ、あの方に出会うことがなければ、こんなにも誰かを深く愛することを知らないまま生きた。
そう、静かな絶望の中で。
静かな絶望の中で生きていた私に降り注いだ、暖かな光。
その光が夢のような時間をくれたのだから、私は終わりを嘆き悲しんだりしない。
音もなく、けれども着実に、深淵が近付いて来る。
私という咎人を呑み込むために。