表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

リベンジ__復讐の長人 【4】

「どうなったんだよ、一体」

中途半端な所で動きの止まった試合に、リベルナが不信そうに言った。彼女だけでなく、この試合を見守る全ての者が、否、一方の当事者であるタツローですら不信の思いで事の成り行きを息を潜めるようにして凝視していた。



レフェリーがブルタムスに、何かを問い掛けるように声を掛けているが、どうもそれは届いてはいないようである。へたり込んで口を半分開いたブルタムスは心ここに有らず、意識がどこかにトリップしているようであった。

それを見詰めるタツローの胸中は、言葉にならない曖昧な衝動に満たされていた。今の一撃は勢い込んで放った飛び蹴りが偶然入っただけの、完全な事故であった。つまり、これで試合を決めようなどという事は夢にも思わなかったにも拘わらず、意に反して、否、反するも何も、全く何の意図もないのに弾みで起こってしまったハプニングに過ぎないのである。こんな結末で試合が終了しては観客も賭け屋も当のブルタムスも納得しまいし、誰よりもタツロー自身が一番納得行かないのである。

譬え試合開始早々、速攻で勝負を決めるにせよ、それが自分の意思による結果ならば良いが只の偶発的な事故で、不意に試合を終わらせたのでは余りに理不尽で、納得が行かないタツローであった。何かを期待して、それは相手が意識を取り戻して試合が再開される事だったが、本人はハッキリとそれを自覚できないタツローは、ひたすら不明瞭な期待感を抱いてブルタムスを凝視していた。

あの様子から見てみるに、顎が砕けたとか、舌を噛んだとか、首がおかしくなったとか言う感じでは無さそうだった。仰向けに倒れた訳でもないから後頭部も打っていないし、どうやら弾みを食らって一時的に意識が朦朧としているだけらしい。このまま意識を取り戻せば滞りなく試合を再開できる筈だった。

タツローは、祈るような気持ちでブルタムスを凝視していた。それは静まり返って事態の推移を見守っている観客も同じであろう。


それにしてもレフェリーの対応が拙い。膝を付いて中途半端に座り込んだブルタムスに、一応声をかけてはいるのだが、そのやり方が何か恐々と言うか如何にも及び腰で、出来るだけ相手に触らないようにしている様であった。無理も無い、金の賭ったギャンブルにおいては下手に試合に手を入れるような事は極力控えねば成らないのだ。このまま放っておけばタツローの勝ちになるのにレフェリーが手を出して結果が変ってしまうような事になれば、賭けに負けた客や胴元が許すまい。レフェリーが首になったり、下手をすれば殺されると言うような事態すら考えられる。田舎でも勿論あらゆる試合に金は賭かっているのだが、大会場では額も大きいから勝負に対する厳しさも半端ではないのだ。こう言う点では、寧ろ大会場のレフェリーより、場末の会場や地方のドサ回りの試合のレフェリーの方が対応がしっかりしている。こう言う試合の流れを切ってしまうような突発的な事態は場所を選ばず時々起こる訳なのだが、田舎の小さな会場の試合でレフェリーが倒れた選手の頬を張り倒して活を入れる場面を度々タツローは見てきた。

一応ダウンと言う事だが、レフェリーはカウントを取る事もせず、ひたすらブルタムスが蘇生するのを待っているように、徒に時間を引き延ばしているばかりだった。タツローは苛々してきた。否、苛付いて、と言うより何か焦燥感に駆られたような気分だった。


そして__


遂に業を煮やしたタツローが、座り込んだまま未だ朦朧としたままのブルタムスと、その傍らでオロオロしているレフェリーに歩み寄って行った。その行動に、観客が腑に落ちないような思いを全員で共有しつつ、不安に駆られたような中途半端などよめきを起こした。

レフェリーを押し退けるようにしてブルタムスの目の前に立ったタツローは、左右の掌で往復ビンタを食らわした。客席は静かに、気配だけが騒然とした気分を、あっと飲み込んだ。

何かを言おうとしたレフェリーを無視すると、再びタツローはコーナーに下がって待機した。ややあって意識を取り戻したらしいブルタムスが、頭を抑えながら首を振った。

その光景に、観客が感激したようにおお、と大きくどよめいて、次には割れんばかりの拍手が巻き起こった。その観客の反応に救われたようにレフェリーが、漸く自分の為すべき事を発見したかのような間の抜けたタイミングで、観衆に何事かをアピールするように両手を頭上で何度も交差させた。まるで自らの不手際を誤魔化すようにも見えるジェスチャーだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ