リベンジ__復讐の長人 【2】
「今年度バーストスピリットトーナメントチャンピオン“闘匠”タツロー・コガ。此方、トーナメント三位入賞“長人”スーリー・ブルタムス__」
広い会場一杯に地声でコールせねばならない為、観客全員に判るように大袈裟なアクションで選手を紹介するリングアナの口上も甚だ簡素で、肩書きとリングネームだけを呼び上げるだけで精一杯なのだ。しかし、相手の“チャンピオン”に引き比べて自分の“三位”と言う肩書きに甚く誇りを傷付けられたらしいブルタムスは、益々恨みの篭った目付きでタツローを睨みつけている。その全身から放射される感情の闘気は重圧感さえ覚えるほどだ。その気迫にリベルナは正直及び腰で、重心が上ずったような思いである。
「おい、タツロー__」
流石に心配になってタツローに何か一言かけようとした。タツローの事を心配して、と言うのは自分に対する咄嗟の言い訳で、実はブルタムスの気合いに気後れした彼女は、何か喋ってそれを紛らわせようとしていたのだ。
だが__
「__」
リベルナが声を失ったのも無理は無い。
黙ってブルタムスから、如何にもさり気無く視線を外すタツローのポーカーフェイスは嬉しそう、とまで言うべきかどうか、兎も角、強烈な怨念の感情を全身にまともに受けながら全く動ずる事無く、見るからに充実した、正に自分の居場所に帰ってきたような満足感を漂わせて、そこに佇んでいる。まるで、相手の憎悪の波動を心地好く受け、思う存分満喫しているようにさえ見えた。
それはまさしく“極道”の顔である。
異常なリラックスに心身を任せつつ、タツローが試合に備えて軽く体を動かしている。
ジョーもハゴンも余りタツローに話し掛けず、どことなく引いたような物腰で、そそくさと言う感じでセコンドとしての務めだけを果たしてさっさとリングを降りた。
「あのアホが__」
ハゴンが呆れたように言った。
「こう言う時だけホンマに嬉しそうにしくさって」
「なんつうか、こう__」
ジョーも一言言わずに居れない気分らしい。
「畏れ多い感じッスねえ、アニキ」
「だけど、何だか恐いわ、タツローさん」
オルフィアもどことなく用心深い表情でタツローを見上げていた。
リベルナだけが何も言わずにジッとタツローに複雑な眼差しを向けていた。
ブルタムスから目線を逸らし続けたタツローが、静かに相手と目を合わせた。一瞬も目を反らさずこちらに、鉄の棒でも突っ込んでくるような硬質な眼光を放つブルタムスの小さな双眸に、思わずタツローは背筋に震えが走ったようである。そしてそのまま、まるで心が吸い込まれ、魅入られたようにその陰惨な眼差しから目を離せなくなってしまった。相手が放射する、怒涛のような怨念の波動に身を任せるタツローの五体から、まるでエネルギーを注入されたかのような充足感が届いてくる。
そんなタツローの姿に客席は爆発寸前のエネルギーを蓄えたように盛り上がり、リベルナは益々言葉にならない不安を深めているようであった。
レフェリーのボディチェックの最中も両者は深い気合いの底に沈み込んだように静かに、重々しい眼光をやり取りしていた。
客席とリング上の両選手の熱気が場内の圧力を限界にまで高め、タツローとブルタムスがその真っ只中で対峙していた。
ゴングの乾いた金属音を合図に、場内が猛々しくどよめいた。