本編予告 1
「あんた、一体誰よ」
娘が一番に仲裁者__タツローに言った。娘だけではない。誰もが何の脈絡もなく現れた奇妙な男に対し、怪訝の面持ちを向けていた。
そう、何とも奇妙な男である。人目で武道家か何かと思われる鋭い、精悍な顔立ちの男。洗いざらして色落ちしたマントを羽織ったみすぼらしい姿とは何とも不釣合いな事に、メイド姿の少女を連れている。それだけなら多少の違和感はあっても別にどうと言うこともないだろう。問題は二人のつながりであった。そう、つながり。二人の間をつなぐ物。一目でそれは分かる。少女が握り締めた丈夫そうな革紐、どうやら手首にリストバンドでしっかりと固定しているらしい。その紐のもう片方がつながった先は__愕くべき事に__男の腰の辺りだった。メイド姿の少女を革紐でつないだ男。否、寧ろどう見てもその逆だった。メイド姿の少女に腰紐を握られた、武芸者風の男。変質者であった。これぞまさしく変質者であった。これを変質者と呼ばずして何をもって変質者と呼べば良いのだろうか。ケレン味のない、堂々たる風格の、正真正銘の変質者だった。一分の隙も見当たらない、完全無欠の変質者であった。どこにも非の打ち所のない、模範的な変質者と言っても良かろう。
本編の予告、こちらに移しました。