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97話「霧の森の狙撃手」

「俺の名はソウジ・マミヤ! 屋敷の二階にいるぞぉ!!」


 全開になっている二階の窓から、イルの叫び声がこだました。それに反応した生還者たちが一斉に振り向き、わらわらと屋敷に群がっていくのが見える。


「ごめん、骸骨さん! 後で必ず回収しに来るから!」


「楽しんでないか……?」


「そんなことないよ、心から心配してるって。あぁ~可哀想だなぁ~」


 満面の笑みで台詞を棒読みするアンナ。相変わらずの仲の悪さに、ソウジは呆れ気味に嘆息した。


 作戦というのは、イルが屋敷に一魔残って囮になるというものだった。屋敷の扉と窓に鍵をかけておけば、生還者たちは中に入れず、足止めができる。そうやってイルが目を引いている間に、ソウジたちは裏口からこっそり出ていき、すたこらさっさと逃げおおせるという寸法だ。


 その計画は、今のところ順調に遂行できているようだった。生還者たちは暗がりに隠れているソウジたちには目もくれず、屋敷の外壁へ向かってぎこちない動きで突進を繰り返している。


 ソウジたちは草むらの中を這いながら、元来た道の方へゆっくりと進んでいった。ほふく前進なんて、通っていた小学校の運動会で経験して以来だ。まさかこんな形で再びやらされる羽目になるとは、転生前には想像もしていなかったことだった。


 慣れないほふく前進に荒くなる息を必死に抑えながら、前進すること約十数分。ソウジたちはついに、生還者の襲撃を回避し、遊歩道の入口まで到達することに成功した。


 しかし、安心するのはまだ早い。ここで生還者たちに発見されてしまったら、いままでの苦労が水の泡だ。


 せっかくたどり着いた道の真ん中を通りたいのは山々だが、すぐにそうするわけにはいかなかった。生還者たちがいる方面から丸見えになってしまうからだ。屋敷が見えなくなるまで、距離を取る必要があった。


 ソウジたちは身を屈めながら、木陰を縫うようにして、抜き足差し足で歩いていく。夜の冷たい風と歩きにくい草むらが、ソウジたちの体力をじわじわと奪う。


「なんだか霧が濃くなってない?」


 カナエに指摘された通り、さっきより視界の通りが悪い気がした。白い霧に包まれて、前も後ろもほとんど見渡せない。これならもう大丈夫そうだと思い、ソウジは遊歩道へと足を踏み出した。


 その瞬間、くるぶしのあたりに鋭い痛みが走り、ソウジはうめいた。


「痛てっ!?」


「どうしたの? 大丈夫?」


「足を切っちゃったよ。何かの植物にかすったのかもしれない」


「あら、危ないわね。これだから山って苦手なのよ」


 カナエは眉をひそめつつ、草むらからソウジの隣へと歩み出た。その後ろに続いて、がさりと葉の擦れる音を立てながら、アンナも出てきた。


「もし怪我して走れなくなったら、容赦なく置いてくからね」


「お前ならマジでやりそうで怖いな……」


 苦笑交じりに言われたアンナは、腰に手を当てながら目をむいた。


「冗談に決まってるでしょ! アタシそんなにイメージ悪い?」


「抜け目ない盗賊としてのイメージが強すぎるんだよ」


「そうなの? ならいいや」


 コロコロと変わるアンナの機嫌に振り回されながら、ソウジは歩き出そうとした。そのとき、左のふくらはぎに激痛が走り、ソウジは危うく転びそうになった。


「痛ってぇ!」


「もう、今度は何?」


 怪訝そうなアンナに、ソウジは低めのトーンで答えた。


「どこかに敵がいる。それも、遠距離から俺を狙ってきてる」


「えっ!?」


「この傷を見てくれ。こんなに真っ直ぐで鋭利な切り口、葉っぱやトゲにかすっただけじゃできない」


 ソウジは左脚を二魔(ふたり)に見せた。ズボンの上から刃物で切り裂いたような傷が開き、鮮血がぽたぽたと垂れている。ソウジはチュニックの裾の一部を素手で引きちぎると、患部にぐるりと巻いて締め上げた。応急処置だが、これでまた動くことはできるはずだ。


 カナエとアンナはその傷を見て事態の深刻さを悟ったようで、周囲を見回しながら身構えた。三魔(さんにん)で背中合わせになって死角を消しながら、じりじりと前に進んでいく。


「ソウジくん、戦闘の基本を思い出して」


魔力視(マナコ)、だったよな」


 ソウジは修行のときにカナエから教わった内容を思い出した。


 『魔力視(マナコ)』とは、マナを眼球に集中させることでマナの流れや濃淡が見えるようになる技法だ。技術が熟達した者に至っては、相手の体内を流れるマナの動きまで見えてしまうというから驚きである。


 そこまで上手くはできないとしても、敵の攻撃を見極めることくらいならいまのソウジにもできるはずだった。あの斬撃が魔術によるものならば魔力視で感知できるし、物理的に刃を飛ばしているのなら魔王の動体視力と反射神経で見切ればいい。


 どこから襲われるのか分からない恐怖感に抗いながら剣を構えることしばし、ついにそのときはやってきた。


 視界の隅に不自然な空気の揺らぎを感じ、ソウジはそちらへ向き直った。斜め上からマナの刃が飛来するのを察知したソウジは、剣を両手でしっかり持って素早く振り下ろした。それほどスピードは速くないため、簡単に撃ち落とせるように思われたが、そこで思わぬアクシデントがソウジを襲った。


(しまった……!)


 無意識のうちに力んでいたせいか、ソウジは空気の刃が間合いに入るよりも前に剣を振り切ってしまったのだった。


 迫りくる刃は、ソウジの胸元を正確に狙って突き進んでくる。生命の危機さえ感じたソウジは瞬時に剣を返して、斜め上に振り上げた。

 マナをまとった刀身がカキンと硬質の音を立てて衝突し、空気の刃の進路を上方へ逸らす。勢いをやや失った刃はあらぬ方向へ飛んでいき、やがて上空へと絶ち消えた。


(あっぶねぇ……!)


 まさに間一髪だった。冷や汗が額ににじみ出て、心臓がバクバクと鳴るのが分かる。

 しかし安堵したのも束の間、ソウジは休むことなく駆け出した。


「みんな、走るぞ!」


「えっ!?」


 いきなりの掛け声に面食らいつつ、カナエとアンナは慌ててソウジの後を追う。


「無防備になるけど、大丈夫なの!?」


「見た感じ、あの攻撃にはインターバルがあるみたいなんだ。刃をタイミングよくかわしつつ、森の外まで逃げ切ってしまえばこっちのもんさ」


「な、なるほど!」


 もし立て続けに打てるなら、とっくにそうしているはずだ。それをしないということは、一回ごとに溜めの動作を挟まなければ発射できないということだろう。

 だからその合間に一気に移動しておき、攻撃がそろそろ来そうだというときだけ立ち止まって、先ほどのように対処すればいい。


 もちろん敵方もその弱点については熟知しているはずだ。だから、すぐに次の一手を打ってくるだろうとソウジはにらんでいた。そして、その予想は見事に的中した。


「そうはさせないよ!」

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