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84話「週次礼拝」

 ソウジたちに多くの疑問を残したまま、司祭は説教台に上がった。ローブのほこりをさっと払い、ヴェールのしわを軽く伸ばしてから、マイクに顔を近づける。


「大変お騒がせしました。よくあることですし、ちゃんと解決いたしましたのでご心配なさらず」


 司祭は一つ咳払いをして、胸に手のひらを当てた。


「本日の礼拝を担当する、司祭のアンヘルと申します。よろしくお願いいたします」


 アンヘルは一瞬、ソウジたちに目を配った。いま席についている者の中で例の白いローブを着ていないのはソウジたちだけだから、新顔だとすぐにバレたのは当然だった。


「今日は初めての方もいらっしゃるようなので、すでに何度も扱ったテーマではありますが、健康というものについて改めてお話しさせていただきます。これは掴魂教(セイズソウル)が大切にしている魂の在り方とも関わるものでございます」


 アンヘルは聴衆をゆっくりと見回しながら、滔々と語りはじめた。何度も話している内容だというだけあって、その語り口は非常になめらかであり、途中で詰まることはない。


「話のとっかかりに、簡単なクイズを出してみますね。正直にお答えください。いままでに怪我や病気を一度もしたことがないという方はいらっしゃいますか」


 もちろんながら、手を挙げる者は誰もいない。もしいたとしたら、それは天下一の激運の持ち主か、嘘つきかのどちらかだ。


「いらっしゃいませんね。そうです。生きとし生けるもの全て、一生に一度は怪我や病気に見舞われることがあります。これは避けることのできない運命ですから、駄々をこねたり避けようとしたりしても、しょせん無理な話です。そして、起きてしまったことは変えられません。ありのままを受け入れるしかありません」


 アンヘルはふと両手を開くと、肩くらいの高さまで掲げながら目をつむった。


「ですが、自らの心身に何が起こったとしても、なにも心配することはありません。私たちがこの世に生み落とされたとき、全き神から平等に授かったこの魂だけは不変なのです」


 司祭は胸の前で右拳を握ると、くるくると円を描くように回転させる。


「内なる魂さえしっかりと保たれていれば、それ以外は全て後からついてきます。誰もが迎える『死』という終わりでさえも、正しく受け入れ、乗り越えることができます。その覚悟と安心こそが、本来の意味で健康だということであり、生き生きとした生活を送ることにつながっていくのです」


 転生という摩訶不思議なステップを経てロスタルカにやってきたソウジとしては、魂の存在というのは頭ごなしに否定することができない概念だった。とはいえ、回りくどい言い方で煙にまかれているような気もして、もやもやした感覚だけが頭の中に残った。


 そのとき、奥から戻ってきたジェシカがアンヘルに耳打ちした。アンヘルはこくりとうなずくと、再び聴衆に向き直った。


「本日の説教はこれでおしまいといたします。最後に『主よ、我が御魂に囁きあれ』を神に捧げ、内なる魂を励起することといたしましょう。みなさまご起立ください」


 周囲の(マギ)たちが一斉に立ち上がる。勝手がいまいち分からないまま、ソウジたちも見よう見まねで立ち上がった。


 ジェシカがオルガンもどきに座って演奏を始めると、どこからか管楽器のような空気の振動音が聞こえてきた。参列者たちはヴェールを上にまくって素顔をさらけ出すと、演奏に合わせて大声で歌い始めた。


 入口で案内されたことを思い出し、ソウジは読本をテーブルの下からあたふたと取り出したが、なにせ初めて見る本なので、どこを歌っているのか全く分からなかった。そうこうしているうちに、演奏が終わってしまった。


「それでは、黙とう」


 指示に従って、参列者たちは黙とうを始めた。演奏の曲調が穏やかなものに変わる。なにがなんだか分からないまま、ソウジたちもじっと目をつむった。体感で一分くらいが経過したあと、アンヘルの声が響いた。


「これにて、本日の礼拝は終了となります。ご参加いただき、ありがとうございました」


 アンヘルがマイクに向かってそういうと、粛々とした一連の儀式がようやく終わり、室内に喧騒が戻ってきた。慣れない雰囲気に漬かっていたせいで、疲労感がソウジの全身にどっと襲ってきた。


 もっとも、そんな甘いことを言っている暇はない。主な目的はこの礼拝に参加することではなく、アンヘルの真意を探ることにあるのだ。

 ソウジたちは互いに目配せすると、後片付けをして奥にはけようとしているアンヘルに駆け寄った。

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