75話「大団円」
ライト卿は壁際に立てかけてあった木製の杖を手に取ると、後ろで手を組んだ。平穏を取り戻そうとしている街の景色を窓から見下ろしながら、穏やかに話し出す。
「では次に、ミャントム団についての話をしよう。罪状はこちらでも概ね把握しているよ。ルーク・ブレット、君が団長ということでよろしいな」
ルークは諦観に委ねて目をつむると、黙ってうなずいた。ユダとエリーは物言わず、ただルークを見つめている。アンナだけは尻尾を左右に揺らしながら、そわそわと耳を動かしていた。
「君たちがゲルートの市民に対して行った数々の犯罪行為は、決して許されることではない。だがラッシマが隠ぺいしていた悪事は、それ以上に卑劣で凄惨なものだった――」
ライト卿はふと振り返ると、聡明さを秘めた双眸でルークを見つめた。
「君たち義賊団は彼の計画を妨害するため、ラッシマ財団の資金源となる悪質な隠れ献金や裏金のルートだけを狙って、盗みを働いていたわけだね?」
ルークはポケットから巻き煙草を取り出してくわえると、隣にいるユダにマッチで火をつけさせた。そして頭を上に向け、天井に向かって煙を吐き出す。
「正攻法じゃ無理だった。下手に動くとこっちが潰されるしな」
ライト卿はうなずくと、執務机の引き出しからミャントム団のカードを取り出し、ルークにそれを見せた。
仮に正規の手段でラッシマを告発していたとしても、諸方面への根回しや金銭の授受、言論統制などの手練手管により、秘められた真実が明るみに出るのを封殺されていたであろうことは想像に難くなかった。
「やつは金にものを言わせて政治の中枢に入り込み、絶大な権力を握っていった。執政官といえば、裏から政治を操る実質的なトップだ。父はやつに甘い汁を吸わされ、まんまとほだされてしまった。その尻拭いは、後任であり息子でもある私がやらねばならん」
ライト卿はおもむろにルークに近づくと、ミャントム団のカードを手渡した。ルークはその行為の意図が理解できず、困惑しながらもそれを受け取る。
「この事件を解決に導いた功績と、いままでに起こった被害を天秤にかけた結果、私はミャントム団がいままでに犯した全ての犯罪について、恩赦をしようと思う」
「うっそ、マジ!? やった!! あっ、いや、すいません……」
アンナは勢いよく立ち上がったあと、この場で自分だけ興奮したのが恥ずかしかったらしく、気まずそうに座り直した。エリーはそれを見て必死に笑いをこらえている。
「つまり盗んだ金銭は返さなくても良い、ということですか?」
ライト卿は両手で持った杖の先で足元の絨毯をとんと突くと、問いかけてきたユダに微笑んだ。
「やつの腹心どもを食い止めるために、ずいぶんと使い込んだのだろう? 被害を受けた者たちには、こちらから事情を説明した上で損害を補てんするから安心してくれ。やつはずいぶんと貯め込んでいたようだからね。存分に活用させてもらうよ」
ユダの表情筋はほとんど動かなかったが、悩みの種が尽きてほっとしたのか、深く吐息を漏らしていた。
ルークは足組みをやめると、頬をほころばせながら前のめりになった。
「いいねぇ! アンタ、なかなか分かるクチじゃん」
「市民たちからは、分かったのが遅すぎると揶揄されているがね。全く、損なタイミングで領主になってしまったものだ……」
ライト卿は長い耳を揺らしながら苦笑する。思ったよりも冗談が通じる男だったので、ルークは感心した様子だった。
「あまり長話をすると体に響くので、そろそろお暇させてもらうよ。疲れているところ、呼び立てて悪かったね」
ライト卿は胸元の傷をかばいながら、のそのそと椅子に腰かけた。つけられた刺し傷はだいぶ深いようで、苦しそうにうめきながらも話を続ける。
「わずかばかりだが、報酬を用意させてもらった。下で受け取っていってくれ」
「「ありがとうございます!」」
ソウジとイルは即座にお礼を言った。どれくらいの額かは分からないが、これでまた旅を続けることができる。ソウジたちの懐事情の厳しさを知っているカナエも、心なしか嬉しそうだった。
「悪りぃ。ちょっと密談したいことがあるから、俺は残るわ。先に行っててくれ」
ルークはそう言うと、ユダを連れて執務室に逆戻りしていった。
またなにか悪そうなことを企んでいる顔だったが、秘密主義のルークは大綱が固まるまでそれを決して言わないだろう、というのがアンナの見立てだった。




