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71話「ライト卿からの招待状」

「ぎゃあああああああああああ!!」


 ティエシュプアの店内に絶叫がこだまする。


 イルは台の上に押さえつけられ、工具で頭頂部をくりぬかれていた。

 なぜこんなマッドなことになっているのか。それは、頭蓋骨を持ち運ぶ一番効率の良い方法が、ストラップをつけてぶら下げることだと判明したからだった。


 その前に色々なアイデアを試してみたのだが、かごに入れてみると中でガタガタぶつかってうるさいし、ひもで縛りつけるとつるつる滑って落としそうになるしで、他にいい方法がないということで最終的にこの方法を取ることになった。


「こら、じっとしろ。痛みはないんだろ?」


「それはそうですが、中に入ってくる感覚はちゃんとあるんです!本当にこれしか方法はないんですかソウジ様! あっ、ああっ! ダメ!」


 ソウジの腕の中でカタカタと揺れながら、か細い声でわめく。

 それを見ていたエリーは、カウンター越しに眉をひそめた。


「ちょっと!変な声を出さないでちょうだい!いかがわしい店だと勘違いされちゃうわ!」


「す、すみません……」


 そのとき、ドアについたベルチャイムがチリンチリンと鳴って、見覚えのある顔が登場した。買い出しに行っていたアンナが戻ってきたのだ。


「骸骨さんの気持ちよさそうな声、外まで聞こえてたよ」


「ぐぬぬ……」


 アンナはイルをからかいながら、紙袋をカウンターに置くと、おかしな主従のやり取りを眺めるため、その隣に座った。


「三日間も寝てたっていうのに、起きて早々、元気だねぇ」


「全くですよ。もう少しゆっくりとお体を労わ――ああっ!」


 ぐりぐりと脳天をえぐられるイルが出した変な声に、アンナは思わず噴き出した。


 ソウジ自身は覚えていないのだが、ラッシマを圧倒的な実力でねじ伏せた後、ソウジはずっと眠っていたらしい。魔王の力の一端がソウジをそうさせたとしか思えなかった。その影響かは分からないが、ソウジの身に起こったことがもう一つある。


「ソウジ、なんか性格変わった?」


「いや、そんなことないだろ」


「ほら。それだよそれ。前よりもアグレッシブになったよね」


 アンナに指摘され、ソウジは改めてそのことに気づいた。あえてそうしているというつもりはなく、以前と変わらず普通に喋っているだけなのだが、どうやら周囲からは一目瞭然らしい。


「なんでだろうなぁ」


「ボコボコにされて、脳内にある変なスイッチが入っちゃったとか?」


「怖いこと言うなよ……」


 笑いながら冗談を言うエリーに対して否定してはみたものの、そうでないとは言いきれなかった。自分の心が魔王という概念に少しずつ染まっていっている気がして、内心ちょっと怖かった。


「アタシはいまのソウジの方が好きだな。イケイケ~ってカンジで」


「そうか?じゃあ、そのままイケイケ~ってカンジで」


「あっ!嫌っ!抜いて!壊れちゃいますよ!無理!それ以上は無理!」


 ドリルの先端がメリメリと食い込んで、イルは悲鳴を上げた。


 そのとき、チャイムとともに物騒な足音が響いた。がっちりとした金属の鎧を身に纏った剛熊(ベアラ)の兵士が、店内に足を踏み入れたのだ。アンナとエリーは即座に反応した。腰を低く落としながら、どこからか取り出したナイフをカウンター越しに構える。


「『天翔ける鴉ライジング・レイヴンズ』のソウジ・マミヤとイル・エピデミオだな?そっちは、ミャントム団のエリー・シャーロットとアンナ・シャーロット」


 通称名ではなく本名を言い当てられて、アンナとエリーは驚愕した。


「なぜここにいると分かったのかしら、お役魔(やくにん)さん」


「お前たちのリーダーから直接聞き出したからだ」


 恐れていたことがついに起きてしまった。頭目が捕まってしまっては、その末端の者たちも芋づる式に引きずり出されてしまうだろう。匿ってもらっていたソウジたちも、しでかした事が事だけに、御用となるに違いない。

 悪事を働いていた(マギ)とはいえ、相手は領主を補佐していた高官だ。逆らった者に相応の罰が下されることは必然だった。


「それじゃあ手も足も出ないわね。早く連れて行ってちょうだい」


 エリーはナイフを床に捨て、両手を挙げた。アンナはそれを見て、少し逡巡したあと、悔しそうにナイフを捨てた。

 平穏な日常はこんなにも脆く崩れ去るのかと思いながら、ソウジも両手を挙げて敵意がないことを示す。


 兵士はソウジたちをじろりとにらんだあと、なぜか笑い出した。


「盛大に勘違いされているようだね。俺はきみたちを捕まえに来たわけではない」


 顔を見合わせるソウジたちに、兵士は一枚の紙を取り出した。アンナはそれを奪い取るように受け取ると、ソウジたちに紙面を見せながら内容を読み上げていく。


天翔ける鴉ライジング・レイヴンズ、並びにミャントム団の諸君。諸君の活躍と尽力に敬意を表して、直々にお礼を申し上げたい。ひいては迎えの者を送るので、庁舎まで来られたし。ゲルート公爵、カイン・ライト――!?」


「文面の通りだよ。ミャントム団のメンバーはすぐに居場所が分かったのだが、ソウジ君とイル君、きみたちを探すのに手間取ってね。ギリギリになって悪いが、明日の昼だ。ぜひ来てくれ」


 たしかにゲルートに入る時点では特に滞在先を決めていなかったし、ティエシュプアにいることはアンナとエリーしか知らないから、見つけるのに苦労しただろう。


「これ、アタシたちを捕まえるための罠じゃないよね?」


「ラッシマなら露知らず、ライト卿はそんな手の込んだことはしない。心配なら、きみたちのリーダーに確認してみるといい」


 兵士はそう言うと、用はもう済んだというように店を出ていった。アンナは釈然としない表情でその紙をじっと見つめている。


「とりあえず行ってみましょうよ、ね?」


「まあ、いいけど……もしなんか嫌なことがあったら、アタシすぐ帰るから」


「はいはい、分かったわ」


 エリーはアンナの頬を尻尾でなめらかに撫でてなだめながら眉尻を下げて笑った。


「ソウジ様はどうされるのですか?」


「俺も行く。カナエに会って、聞きたいこともあるしな」


「そうですね。数日ぶりに会うので、楽しみですねぇ」


 イルには言われた意味がよく分からなかったようで、とんちんかんな答えを返してきた。それも無理はない。カナエの隠された本性はソウジだけが知っているのだから。


――魔王なのだろう?ならばこの程度の謀略、軽くねじ伏せてみせよ。


 あの発言が果たしてどのような真意に基づいてなされたものなのか、問いただすべきだし、その権利もあるだろう。

 ソウジはスマボを持っていないため、最後に別れてからずっとカナエと会話できていない。だから、今回のライト卿の申し出は合流するためのいい機会だった。

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