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59話「ブレット親子の家族会議」

◆◆◆


 プロットル市長のキング・ブレットは、ミャントム団秘密基地のアンティークテーブルの上で息子と顔を突き合わせていた。


「おい、ついにお前が主犯格だってばれちまったぞ。どうするんだ?」


「いやー、どこから漏れたんだろうなぁ。いつかばれるだろうとは思ってたけど、予想してたよりだいぶ早かったなぁ」


 ルークは足を組んで巻き煙草をくゆらせながら、体毛と同じ濃褐色の口ひげを手で()いている。

 キングは軽く肩を落とすと、ため息をついた。それから、息子の煙草を横から奪い取り、テーブルの端に置いてある灰皿に軽く叩きつけた。


「あっ、おい!なにすんだよ!」


「危機感のない男だな……ラッシマの子飼いがもうすぐ来ちまうんだぞ。シュルトは頭が回らないから、トーマスかジューダスあたりが音頭を取るだろう。もしジューダスだったら、この町はもうおしまいだ」


 キングはテーブルの横をぐるぐると歩き回りながら頭を抱えた。

 ジューダスの圧倒的な強さはルークから耳がタコになるくらい聞かされており、キングもよく知っていた。シュルトがラッシマの盾ならば、ジューダスはラッシマの剣だと。しかし、ルークはそれを聞いても顔色をほとんど変えなかった。


「そういや、まだ言ってなかったっけ。いい加減ネタバレしても良さそうだから教えるよ。ジューダスって実はうちのサブリーダーなんだ。いままでずっとユダって呼んでたスパイが、あいつ」


 キングは目を大きく見開いたあと、今度はがっくりと肩を落とした。不安と安堵の混じりあった何とも言えない表情で、足の低い丸椅子にどかりと座り直す。


「はぁ……お得意の秘密主義か?親父の俺くらいには話してくれてもよかっただろうに」


「敵を欺くにはまず味方から、って言うっしょ。まぁそんなわけで、今回はあのヒョロガリ隊長のトーマスくんが兵を率いてくると思うんだよね」


 ルークは悪びれもせず、父親に向けてにやりと笑いかけると、テーブル上に広げられている地図の上に、赤い三角の駒を一つ置いた。


 ハブ・プロットルの近くにはすでに小さな赤い駒が十個ほど置いてあり、その先頭にいま置いた一回り大きな駒が加わったという形だ。これらの駒が、ラッシマが仕向けた兵たちを表しているようだ。


 それに対して、ハブ・プロットルの区域内には青い駒が五個程度置いてあった。これはどうやら、戦闘に参加できるミャントム団員とハブ・プロットルの住民たちを表しているようだ。頭数では完全に負けているということだろう。


 キングは圧倒的戦力差を目の当たりにして、首を(ひね)った。


「これじゃ、地の利があっても数で押し負けるぞ。バリケードでも築くか」


 ルークはちっちっと舌を鳴らしながら指を振った。


「いまからクソ真面目に作っても、多分間に合わないと思うぜ」


「ああ、そうだな……だが、何もしないよりはましだろう。全く、寝耳に水だよ」


 ラッシマが部隊を編成し終えたとの情報が、つい先ほどユダから送られてきた。そろそろこちらに向かって、捜査という名の進軍を開始していると考えた方がいいだろう。部隊の魔数(にんずう)と移動距離を考えると、早ければ二十分程度で到着するはずだ。


「クソッ……俺とお前だけが捕まって、それで済むのならどんなにいいか」


「相手が聖魔君子(せいじんくんし)ならそうしたいところだな」


 あのラッシマが、対立する政治家や抵抗者(レジスタンス)頭目(とうもく)を捕縛しただけで済ませるとは思えなかった。利用価値のない者は切り捨て、敵対者は徹底的に叩きつぶし、邪魔な芽を根こそぎ摘み取るのがやつのやり方だからだ。


 煮詰まるあまり捨て鉢になるキングに対し、ルークは救いの手を差し伸べるかのように両手を広げた。


「親父、ここで一つだけいいニュースがあるんだ。なんだと思う?」


 自慢げにそう言い放つルークに、キングは数秒ほど(いぶか)しんだあと、はっと気がついた。指を差しながら、ルークに詰め寄る。


「前に言ってた『とっておき』とやらか?」


「そう、それ。そのために盗賊なんてこすいことやって、ラッシマへの寄付金から開発経費をかっさらってたわけ。ジャン、こっちに来て説明よろしく」


 その呼びかけに応じて、壁際で静かにスマボをいじっていた跳兎(ラビル)がルークの横に歩いてきた。筋肉も脂肪もあまりついていない痩身(そうしん)に青白い体毛が合わさり、どことなく不健康そうに見える。細い指を使って細やかな手つきでメガネをくいっとずり上げる仕草は、いかにも陰気で神経質そうだった。


 ルークの隣に座ったジャンは、ホログラムで空間投影したイメージ映像をキングに示しながら、その詳細を簡易に説明した。どうやらプレゼンはジャンの得意分野のようで、専門用語を巧みに駆使しながら、立て板に水だった。


「――というわけで、やることはいたって単純なんですが、ハマればめちゃくちゃ効果はあると思います、はい」


 キングはジャンの話を一通り聞き終わると、げらげらと笑い転げた。ルークとジャンの肩をにこやかに抱き寄せ、ばんばんと叩く。


「さすが俺の一番弟子と、その悪友だな!実に洗練された設計思想だ!」


 ジャンはどう返答したらいいか分からず、恐縮しながら愛想笑いをしている。一方のルークは、若干引き気味に苦笑していた。


「おい、よしてくれよ。もうアンタの弟子はやめたって言ったろ。息子の方は、やめたくてもやめられないけど」


「この悪ガキ!親父に向かってなんてこと言いやがる!」


 悪態をつきながらも、キングとルークはお互いの拳を軽くぶつけ合った。続いて、ジャンも半ば強引に拳を突き合わされる。市長に会っている緊張を鎮めるためなのか、ジャンは何度も鼻頭に手を当ててメガネをずり上げていた。


「よし。それじゃその『とっておき』を前提として、それぞれの動きをざっと確認しよう。それから、楽しい楽しい迎撃としゃれこむぞ」


 キングは手のひらに拳を打ち付けると、テーブルに手をついて地図を覗き込んだ。


 長年にわたって備えてきた恐るべき事態がついに現実となってしまった。ルークはそのことに対して肌を刺すような不安と緊張を覚えつつ、地図に並ぶ小さな赤い駒たちをじっと眺めた。


「さて、お手並み拝見といこうか」

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