48話「脱走」
「何か勘違いしておられるようですが、私は貴方たちの味方です」
「あぁん? あれだけ痛めつけておいて、それはねぇんじゃねぇか?」
先頭で顔を突き合わせている掘爬の傭兵がしかめ面で唸った。敵の幹部だと思っている魔族からそんな根拠も突拍子もないことを言われれば、訳もない。しかし、ジューダスはいたって真面目に説得を続けた。
「信じられないようですので、そのカードキーを差し上げます。それぞれ、この部屋と向かいの部屋を開錠できるものです。他にもお仲間が捕まってらっしゃいますので、助けてあげてください」
ジューダスにびびって動けない傭兵たちに代わり、カナエがそのカードキーをいち早く拾い上げた。そしてジューダスに促されて廊下に出ていき、この部屋の対面にある扉を開いた。
そこには、同じように縄で縛られた傭兵たちが収容されていた。再会できた傭兵たちから歓喜の声があがる。
「あんたら、生きてたか!」
「お、大バカのソウジ、元気そうだな」
「トニーさん! イアンさん!」
ソウジたちは偶然にもトニーたちと隣り合った部屋に捕まっていたようだ。『天翔ける鴉』と『交わる腕』は、部屋を出られた喜びを互いに分かち合った。
カナエはジューダスに向き直ると、使い終わったカードキーを顔の横に掲げた。
「どうやら罠ではないようね」
「ええ。なぜなら私は貴方やエリーと同じく、ミャントム団の一員ですから」
「はぁ!?」
アンナはその予想外の一言に思わず顔を上げると、尻尾と耳をピンと立て、驚きに口をあんぐりと開けた。びっくりしすぎて涙腺が閉まったのか、涙も止まってしまったようだ。
「本当なのよ、アンナ。彼はずっと前から――」
エリーの制止を振りほどき、アンナは肩をいからせてジューダスに突っかかっていった。身長差があるため、下から見上げるようにジューダスをにらみつける。
「じゃあ、なんであのときアタシを逃がしてくれなかったワケ!?」
「潜入しているこちらとしては、あなたの突拍子もない思いつきであれ以上場をかき乱されては、対処に困るのでね。それよりは、安全が確保されたこの部屋でしばらくおとなしくしておいてもらった方が良いと判断しました」
「なんだよ、それ! その言い方じゃ、アタシがてんで手のつけられない暴れ馬みたいじゃん!」
アンナは目を三角にし、頬をぷっくりと膨らませながら腕を組むと、黄色いくちばしの下からジューダスを不服そうにねめつける。
「いや、そこまでは言っていませんが……」
大魔げなく拗ねるアンナに対して、肯定するわけにも否定するわけにもいかず、ただ苦笑するしかないジューダスとエリーだった。ジューダスは続けて、顔の前に一つ指を立てた。
「そうそう、リーダーから貴方へ言伝を預かっています」
「聞きたくない! 後にして!」
全身の毛を逆立てながら耳を両手の肉球で塞ぐアンナに構わず、ジューダスはすまし顔で淡々とその内容を告げた。
「『説教するのは後にしてやる。まずは帰ってこい』だそうです」
はっと開いた口に手を当てて涙ぐむアンナを、隣に立っていたエリーがもう一度静かに抱きしめた。あれだけ勝手な行動をしたからきっと団を追い出されると思いこんでいたアンナにとって、その伝言はあまりに優しすぎるものだった。
ジューダスはその後のアンナへの対応をエリーに任せると、傭兵たちに向かって右手のかぎ爪を胸に当てながら自己紹介した。
「みなさま、申し遅れました。ジューダス改め、ミャントム団No.2のユダと申します。こちらにいる団員のアンナ、エリーとともに、みなさまの脱出をサポートさせていただきます。これより施設内を先導いたしますので、後ろをついてきてください」
ユダからの申し出に、傭兵たちはざわついた。ラッシマにはめられたのは全員理解しているが、かといってミャントム団を信用したというわけでもないからだ。敵の敵は味方だと常に言えるわけではないだろう。
案の定、一部の傭兵からは反発もあったようで、たてがみを長く伸ばした噛狼の傭兵が、不信感を丸出しにした目つきでジューダスをにらみながら口を開いた。それは、さっきアンナに対して野次っていた集団のうちの一魔だった。
「お前さんについていって大丈夫って保証はあんのかよ?」
「この空虚な一室に閉じ込められているよりはましだと思いますが、いかがでしょう」
「たしかに出してもらったのはありがてぇけど、ラッシマの下についてたあんたを信用できねぇ」
噛狼の男のいちゃもんに対して、ユダはしばらく悩むように黙りこくったあと、こくりと頷いた。
「分かりました。では手錠を外したら自由解散としましょう。とりあえず、その場所までは案内いたします」
その噛狼の男が振り返って残り数名の意見を伺うと、反対派の傭兵たちは渋々といった様子で肯定した。これでなんとか意見の一致が見られたようだった。
そのやり取りを少し離れた場所から眺めていたトニーは、深いため息をついた。
「助けてもらっといて、あの言い草かよ。世間に揉まれてひねくれちまったやつは、つくづく生きづれぇな」
「あ、相棒が、真っ直ぐすぎるんだ」
「おっ、そうか? 俺は曲がったのは嫌いだからな! 性格も、あそこもな!」
イアンの股間を唐突に手で軽く叩くと、トニーはがははと笑った。イアンも愉快そうに小笑いしている。彼の豪胆さには逆立ちしても敵わないとソウジは思った。




