43話「傭兵たちの晩餐会」
それからしばらく経ち、傭兵たちが体力を少しだけ取り戻したころ、スタッフの一魔から全体に声がかかった。
「ラッシマ様から、傭兵のみなさんにまかないが振る舞われることになっております。今から屋敷の中へと案内いたしますので、移動の準備をお願いします」
それを聞いた途端、トニーとイアンの腹の虫が鳴った。二魔は顔を見合わせると、小躍りして無邪気に喜んだ。
「おい、屋敷でご馳走だってよ! 頑張ったかいがあったぜ!」
「ひ、久しぶりにうまいもんが食えるかもしれねぇな!」
あれだけハードに活動した後で食欲がわくなんて、現代もやしっ子のソウジにとっては到底理解できなかった。とはいえ、エネルギーを大量に消耗したあと何も食べないままでは体がもたないというのは容易に想像がついた。無理にでも何か胃に入れておく必要がありそうだ。
そういうわけで、四魔は誘導に従って屋敷の中へと入っていった。
屋敷の内玄関を通ってメインエントランスに足を踏み入れると、大勢のミニスカメイドたちが列をなして、大きな声で出迎えてくれた。
「「「ラッシマ邸へようこそ!!」」」
傭兵たちはメイドたちを見て鼻の下を伸ばしたり、にやにやしたりしている。一方、数少ない女性傭兵たちは無反応でその光景を静かに眺めているようだった。
イアンはというと、動揺しすぎたあまり、その場で左右にうろうろ往復し始めてしまった。女性に対して耐性がない魔族にとって、これは相当つらそうだ。一方、トニーは品定めするように一通り見回してから、近くにいるスタッフに話しかけた。
「なぁ、あとでどれか一魔持ち帰っていいか?」
スタッフはその質問に対し、吐き捨てるような口調で返した。
「ラッシマ様の専属メイドだぞ。ダメに決まっているだろう」
「ちっ、けちくせぇなラッシマってのは」
ラッシマのことを呼び捨てしたトニーに対し、スタッフは強い怒りの視線を向ける。
そうして一触即発の険悪な空気を作り出したあと、トニーは何食わぬ顔で会食の部屋へ悠々と向かって行った。血気盛んすぎて見ている方は冷や冷やするのだが、トニー自身はそれを全く意に介していないようだった。
イアンはメイドたちから半ば逃げるように、トニーの後を追いかけていく。ソウジたちも、あまり遅れないようにその後ろをついていった。
案内されたのは、カーペットが敷き詰められ、上質できらびやかな調度品が揃った、広い一室だった。
美麗な絵画や魔物の剥製などの芸術品が壁一面に飾られ、天井のシャンデリアが室内を明るく照らしている。部屋の中央には、少なく見積もっても一度に二十名程度は座れそうな長さのテーブルが、背もたれが高めの木製チェア一式とともにいくつも並べられている。張られたテーブルクロスの上には、すでに食器類が準備されていた。
ほどなくして、ソウジとカナエは、すでに着席しているイルを発見した。
知り合いらしき他の傭兵と会話しているトニーたちにいったん別れを告げると、ソウジたちはイルの隣の座席に腰かけた。
「お疲れ様です、お二方! ずいぶんとお疲れのようですね」
「ああ……全身ぺしゃんこに潰れるかと思いましたよ」
「ええ。身長が数インチ縮んだと思うわ」
互いに顔を見合わせながら苦笑するソウジたちを見て、イルはいまにも飛びかかってきそうな勢いで、ソウジに向かってテーブルに上半身を乗り出した。
「ええっ!? お体の方は大丈夫ですか、ソウジ様!? 簡素な回復魔術なら私にもできますが……」
「怪我したわけじゃなくてただの疲労なんで、ちゃんと休めば普通に回復しますよ。でも、ありがとうございます」
それを聞いて、イルはほっと胸をなで下ろしたようだった。魔王の安否に関わることとなると、イルは過保護になる傾向があるようだった。
「ソウジ様ソウジ様って、私はどうでもいいのかしら?」
「あ、いえ、そういうわけでは!」
カナエから野次が飛び、イルは申し訳なさそうに手の平を合わせて謝った。自分から言い出すまでイルに心配されなかったため、仲間はずれにされたと思ってむくれているようだった。大魔びて見えるカナエにも、意外と子供っぽい一面があるようだ。
しばらくして、テーブルの座席もほとんど埋まった頃合いを見計らい、ジューダスとラッシマが部屋へと入ってきた。まさかラッシマ本魔が来るとは聞いていなかったため、傭兵たちの間にどよめきが走る。
ジューダスはスタンドマイクに向かって立つと、マイクに軽く手を添えた。
「それでは会食を始めたいと思いますが、その前に、皆様への労いの気持ちをどうしても伝えたいということで、手短にではありますが、ラッシマ様から乾杯の挨拶をいただきます」
ジューダスが後ろへ退くと、今度はラッシマがスタンドマイクに向かって喋りはじめた。元から大きい声がマイクによって部屋中へ拡声され、少しうるさく感じるくらいだった。
「傭兵のみなさん、ご協力どうもありがとう。あまり私のことを気に入らない方も多いと思うんですが、今日だけはお互い平和的にやりたいと思って、この場を設けさせてもらいました」
カナエに教わった巷での悪評からは想像もつかないラッシマの自虐ジョークに、締めた兜の緒も少し緩んだのか、傭兵たちから小さな笑いが漏れた。
「この後も警備の仕事がまだあるとは思いますが、とりあえず美味しいものでも食べて、精をつけて頑張ってください。では、グラスを持っていただいて。いきますよ? 乾杯!」
「「「乾杯!」」」
こうして、和やかなムードで会食は始まった。




