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37話「潜入調査」

 事件の尻尾をつかんだ以上、このまま引き下がるわけにはいかない。


 エリーや他の仲間に連絡をすれば、リーダーにも話が行くだろう。そして、そんな噂は放っておけと言われるだろう。たとえミャントム団が罪を着せられ、今まで以上に評判が落ちることになっても、団員さえ無事ならまずはそれでいいと。

 いままでずっとそうやって耐え忍んできた。団員思いの優しいリーダーのことが、アンナは大好きだった。


 しかしいまのアンナは、その優しさに甘んじたくなかったし、甘んじる資格もないと思った。なぜならアンナは、エリーの反対を無視して、かつ他の団員には内緒で、ソウジたちから盗みを働いたことに対する後ろめたさがあったからだ。


 エリーに指摘されたとおり、たしかにミャントム団は悪党ではあるが、あくまで義賊であって、見境なく金品をかすめとるコソ泥では決してない。

 アンナがやったことは『強きをくじき弱きを助く』という団の絶対的な信条に反する、明白な裏切り行為だった。それゆえ、せめてもの罪滅ぼしとして、団の利益になる情報をなにか手に入れてから帰りたかった。


 それに、いまのこの状況はピンチであると同時にチャンスでもある。ラッシマが立てている計画の確たる証拠をつかんで、ミャントム団の汚名を返上するとともに、ラッシマに一泡吹かせてやりたい、とアンナは強く思った。


 そういった理由で、アンナは早速ラッシマの屋敷の方面へと向かっていた。屋敷の目の前までは誰でも簡単に行くことができる。日中に限り、屋敷の庭園がゲルート市民に対して開放されているからだ。


 衛兵が見張る屋敷の正門から中に入ると、華麗な彫刻の施された大きな噴水が澄んだ水を高々と吹き上げる様子が見えてきた。広場の周りには、専属の庭師によってきちんと手入れされた植物が生い茂り、色とりどりの花が咲き誇っている。

 のんびりと散歩している老魔や、他目もはばからずベンチでいちゃいちゃするカップルを横目に、アンナはのどかな庭園の遊歩道を進んでいった。


 絡み合ったツタが覆う金属製のアーチを見つけると、アンナはその影に隠れ、ショートパンツのポケットから独特な形状の魔具を取り出した。

 芯は短く太い棒状で、両端でそれぞれ三つに分かれた刃が、内側に巻き込むように飛び出している。アンナはその魔具を、中央部を境にして両手でねじることで起動した。ブォンという音とともに、マナでできた透明の薄い膜が発生し、アンナの全身をラップのように包み込む。


 ミャントム団特製、潜入活動用ステルス魔具『ミエナイン壱号機』(リーダー肝いりの素晴らしい名前だ)は、謎の魔術的原理によって使用者の姿を透明にしてくれる。制限時間は10分と、長居するためには少々短いが、屋敷の内部を軽く探索するだけならそれだけでも十分なはずだ。


 アンナはミエナイン壱号機をポケットにしまうと、一緒に所持しているスマボを確認した。

 エリーから十件ほど着信があったが、いまは出る気にならなかった。今度はしっかりと電源を切り、ポケットにしまう。もし潜入中に着信音が鳴ってしまったら、大変なことになるのは目に見えているからだ。


 そうして準備が万端になったのを確かめると、アンナは跳猫(キット)特有の高い身体能力を活かして、屋敷本体を囲む石造りの内塀をひと飛びに越えた。これで玄関前にいる衛兵に気づかれることなく、先へ進むことができたというわけである。


 ラッシマの屋敷は改めて近くで見るととても大きく、外周を一周するだけでも15分はかかりそうだった。なんとかして中に入ろうと思い、(わら)にもすがる思いで近くにあった窓を確認してみると、無防備にも鍵が開いており、簡単に中に入ることができた。


 アンナが侵入したのは、メインエントランスだった。

 ときおり使用魔たちが、衣服の入ったキャスターつきの洗濯かごや掃除用具などを持ってせこせこと行きかっている。黒と白を基調としたミニスカメイド服を使用魔の制服にしたのは、ラッシマの趣味なのだろうか。

 “ハゲマシラ”のいやらしいにやけ顔を想像してしまい、アンナは今にも吐きそうなしかめ面で舌を出した。


 そこでふとアンナは気づいた。


(制服……もしかしたら使えるかも)


 ミエナイン壱号機の制限時間内に重要な情報を発見できるとは限らない。それよりは、まず使用魔の一員として紛れ込んで内部構造を偵察する方がいいと、アンナは考えたのだった。


 忍び歩きで追いかけると、先ほど見かけた洗濯かごを持った使用魔はすぐに見つかった。

 その魔は『リネン』と書かれた看板のついた扉に入ると、中に洗濯かごを置いたのか、手ぶらで出てきた。アンナは通行する魔が途切れたタイミングを見計らって、その部屋へと侵入した。


 室内には湿気っぽい空気が充満し、乾燥機から出る余熱で若干暑いくらいの室温になっていた。壁際には魔術式の大型な洗濯機や乾燥機が数台ずつ設置されており、すでに全台が稼働している。その手前には、洗濯待ちの衣服が山積みになったかごが数個置かれていた。


 アンナは内鍵を閉めると、ミエナインのスイッチをいったん切り、かごの中を手早く漁っていった。やがて、掘り出した比較的清潔そうな数着のミニスカメイド服のうち、一番小さいサイズのものを手に取ると、アンナは着ている服を脱いでそちらに着替えることにした。


「ちょっと大きいけど、こんなもんでしょ」


 白いヘッドドレスとニーソックスも身につけ、スマボで自分を映してチェックしてみると、服のところどころに小さなしみやしわがあるくらいで、別段おかしくは見えなかった。

 用心深いアンナは、荒野の泥にまみれた愛用の黒いショートブーツを洗うことも忘れなかった。水道の水で汚れを丁寧に落としてから、かごにあった適当なタオルで簡単に磨きあげる。


 これでようやく、メイドとしての最低限の容姿が整った。アンナは最後に、脱いだ私服を全てかごの下の方にぶち込み、侵入した証拠が残らないように隠滅した。

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