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27話「旅立ち、そして別れ」

 ニールが入院している病院から出た一行は、旅の出発に向けてハブ・プロットルの外へと歩き出した。


 数日前にあれほど大掛かりな騒動が起きたばかりだというのに、今日もハブ・プロットルは平常運転で盛況だった。多くの出店が立ち並び、店員たちが通行客に向かって「安いよ」などといって呼びかけている。


 いついかなるときでも利益を追いかけて商売を続ける(あきない)(マギ)たちのたくましさと図太さには、感服するところがあった。現実世界ではひょろひょろのもやしっ子だったソウジは、彼らのことを少しでも見習いたいと思うのだった。


 そのとき、道を先導していたイザベラがソウジをふと振り返った。


「さすがにゲルートまではついていけないから、ハブの外れで勘弁してね」


 イザベラはどことなく申し訳なさそうに言った。


「とんでもない。タダで街を案内してもらえただけでも十分すぎるくらいなのに、命まで助けてもらっちゃって」


「いーえ。あそこで死なれたら寝覚めが悪いからね」


「あのときのイザベラさん、すごくかっこよかったですよ」


「そう?まぁね」


 イザベラは恥ずかしそうに頭をかきながら笑った。ソウジたちを救ったとき、遅れてやってくるヒーローじみた行為をしたという自覚はあるようだった。

 とはいえ、そのおかげでソウジたちはこうして無事にまた旅をすることができる。もしイザベラが駆けつけてくれなかったら今頃どうなっていたか、想像するだけで背筋が凍った。


「小娘にしてはよくやったと褒めてやりたいところですよ」


「なんだよ、その上から目線! 商館の敷地内にあるマンホールまで誘導してあげたのは誰だっけ? やっぱりソウジ様を助けに行く~って泣きついてきたのは誰だっけ?」


「そ、それは……」


 どうやら弱みを突かれたらしく、イルは狼狽(ろうばい)した。それを見たイザベラは、すかさず詰め寄ると、眉根を寄せながら至近距離まで顔を近づけた。


「忘れたとは言わせないよ?」


「ぐっ……! ソウジ様! 一つだけ言っておきますが、死骨(コプン)は涙なんて流しませんからね! それだけはお間違えなきよう!」


「そうらしいよ~?」


 イザベラはにやにやしながら、反論を言いよどんだ老骨のわき腹を肘で突いた。

 今回の騒動を経たことで、イルにはなにか心境の変化があったらしい。これまでとは打って変わって、イザベラに対してむやみやたらに突っかかることは少なくなっていた。もっとも、言葉の表現にはまだ(とげ)が残っている。苦難を乗り越えても、気の合わなさは乗り越えられないようだった。


 そうして三魔(さんにん)で歩きながら、ハブ・プロットルの思い出について談笑していると、いつの間にか街の西端に到着していた。

 楽しい時間というのはこうも早く過ぎてしまうものなのか。嫌なことの方が多かったにも関わらず、ソウジにとっては滞在中の出来事が名残惜しく感じられた。


 そんな風に感傷的になっているソウジに比べて、イザベラは別段感慨にふけることもなく、飄々(ひょうひょう)と両手を振った。いかにもイザベラっぽいサバサバした態度だな、とソウジは思った。


「それじゃ、アタシはこの辺で」


「お世話になりました」


「またこの街に来たときは、どうぞよろしくお願い致します」


「はいよー。遠慮せず、いつでもおいでね」


 イザベラはそう言うと、ソウジとイルにそれぞれ握手を求めてきた。ふかふかした肉球の感触ともこれでお別れだと思うと、ちょっと寂しい。

 初対面のときには握手を拒否したイルも、今度はしっかりと手を握り返した。


「それじゃあ、良い旅を!」


 ずいぶんと軽快な別れ方だったが、それもまたイザベラらしいとソウジは思った。そのおかげで、清々しい気持ちで新たな旅立ちに臨むことができた。


 こうしてソウジとイルは、次の町であるゲルートに向けて出発した。


 イザベラはソウジたちの背中が豆粒のように小さくなるまで見送ったところで、サイドポーチから布製の巾着袋を取り出した。袋が揺れるたびに、小さな金属がチャラチャラと擦れる音がする。

 紐を解いて袋の口を開くと、その中には大量の硬貨が入っていた。


「お駄賃ありがとね、ソウジと骸骨さん」


 イザベラは巾着袋を元通りにしまい込むと、ソウジたちが歩いていった方角に向けて投げキッスをした。旅費を全て失った彼らがこの後どうなってしまうのかなど、イザベラにとっては知ったことではないらしい。


 自分たちの大切な財産が盗まれたことに気がつかないまま、ソウジとイルは荒涼とした大地をのんびりと進んでいく。その行く先にはさらなる試練が待ち構えているということを、このときの彼らは知る由もなかった。

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