94~肉、肉、肉祭り~
お読みいただきありがとうございます。宿がオープンしました。
私は侮っていた。
これほどまでとは思わなかった。
いったい何を?と聞かれれば、答えられる。
冒険者の食欲を、だ。
集落、もといプラム郷。
春になって、とうとう森の道から、冒険者がやってきた。
近くに集落はないし、つなぎとしての場所としては、まあまあの場所だからだ。
それに、ジューノさんが、宿ができたことを宣伝してくれたというのも大きい。
門のほうから、中央部に行く人たちが、やってきたのだ。
もちろん旅人もいるが、大半が、中央部に行くための冒険者でもある。
ここには冒険者ギルドがまだできていないから、受けられる依頼もないしね。
聞いてきた人たちは、皆一様に風呂が自由に入れる宿、というのできたようだ。
しかも、ほかの集落の宿よりも若干安い。
宿がオープンして、プラム郷の人たちも、宿での仕事をきちんとこなしている。
宿の注意事項と部屋の使い方と風呂の使い方とカギの使い方だ。
しかも、そのカギを見せれば、食事がタダになる。
実際は、宿代に含まれているのだけども。
そして、その食事のメニューが、実はほぼ決まっていなかった。
材料があるから、パンとか、肉がいっぱいあるから、おいおい、冒険者たちの好みで、決めていこうという話になっていたせいだ。
飲み物は、ジューノさんから、エールビールを仕入れて、樽のまま、蛇口をひねったら出るようにしてみた。果実水もだ。
どれもフリードリンクだ。樽の周りを冷気で覆い、冷たくしてある。
とりあえず、肉の丸焼きを中央において、そのほかに野菜やデザートを置いたり、いろいろ作って、ビュッフェスタイルにしてみた。肉のとりわけは、キッチンのものにやらせようということだ。
結果。
ビュッフェはほぼ一瞬で空になった。
中央の肉も、自分たちで勝手に切り刻んで持っていく。
しかも一部の、横柄な冒険者が足りないと騒ぎだす。
エールビールも果実水も、すぐになくなった。
「すごいわね」
プラム郷の宿の者に呼ばれてきてみた感想だった。
きれいに食べることができないのか、騒がず食べることもできないのか。
食堂が汚くなっていく。
かんがえてみれば、冒険者やめて結構立つだろうジャムさんも、ほぼ動かないくせに冒険者を語っているサカイも、ものすごい食欲なのだ。
きちんと冒険者をやっている彼らは、それ以上ということなのだと思う。
これでは、作っても作っても足りなくなる。
そんなことだと、材料うんぬんより、集落の者たちの労働時間が長くなり、体に良くない。
「メイちゃん、外にバーベキューの用意してくれる?」
「かしこまりました」
食堂をこれ以上汚されるのも嫌だし、外で食べていただきましょう。
そして、今一度、思い出してもらいましょう。
周りに迷惑をかけた場合には、それ相応の仕打ちがあるということを。
横柄な冒険者を外に出す。
足りない人たちも、外に出てもらう。
横柄な冒険者は、椅子に縛り上げた。
何かわめいているけど、バーベキューの始まりだ。
「ここなら思う存分食べられますよ。・・・残さず食べてくださいね」
肉、肉、肉。
魔獣の肉を焼いては積み上げ、強制的に席につかせた冒険者の口に運んでいく。
手伝いは、キドナップバブーン。
一番横柄な冒険者には、ボスが相手してくれている。
彼らも宿の従業員だからね。
のどに使えそうになると、エールビールを流し込む。
全部、キドナップバブーンが、横柄な態度の者には対応した。
ほかの人たちは、和やかに食べている。
いつの間にか苦しそうにうめいて、冒険者が気絶していたけど、キドナップバブーンたちは気にもしないで、口の中に肉を詰め込んでいる。
うん。
そこまでにしてあげてね。
「皆さんも、食事は落ち着いていただいてくださいね」
にっこり笑ってあげよう。
次はあなたたちかもよ?
メイちゃんが考えて焼いてくれてたようで、食材はほぼ残らなかった。
よかったわ。
やはりメイちゃんは優秀ね。
解散して、宿に帰ると、プラム郷の従業員たちが、片づけを終えていた。
横柄な冒険者たちを部屋に放り込んで、反省会だね。
ビュッフェはやめて、定食風にすることにしよう。
メイちゃんがいくつか案を出してくれたから、それを採用。
でもたまには肉祭りを強制でやりましょう。
肉が減らないしね。
オープン最初の困ったことはこれで終わりかな。
翌朝、横柄な態度だった冒険者が、宿の従業員に誤りに来たということは、あとで聞かされた。
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