88~獣人親子~
お読みいただきありがとうございます。
居眠り女主人公、住民を増やしたいがため、スーベニア・サカイにご相談。
サカイ様から返事が来たのは冬の終わりの中旬だった。
貴族というのはわりと忙しいようだ。
サカイが迎えに来た。
サカイの案内で出かけたのは、いつもの貴族街。
雪の中だから歩くの嫌だったけど、馬車も出すのが面倒だったので、歩き。
サカイ家から馬車を出してくれるといってたけど、お貴族様の馬車なんて、おそれ多くて乗れませんと断っておいた。
お貴族様の馬車じゃなくても、いたそうで乗りたくないんだけどね。
私とシツジローくんとサカイで出発。
メイちゃんは、集落での指導だし、運営さんはまた本職のほうでいない。
「お願いだよ!」
貴族街、最初の門。
そこで一人の獣人が、門番さんに食って掛かってる。
なんだろう。
「シツジローくん、あれは何なのか聞いてきて」
獣人が、この王都中央部にいること自体が珍しい。
いないわけではないのだ。
どこかの家の奉公人とかならわかるけど、そうでもなさそうだし・・・
門番のところでのやり取りを、シツジローくんは、反対側にいる門番に尋ねていた。
そこで事情が分かったようだ。
「お嬢さま、どうやら、あの獣人の子供は、家族が病気になったので、薬が欲しいけど、高すぎるので、貴族から施してほしいと願っているようです」
確かに薬は高いかもしれない。
しかも、ぼろを着ている小さい子供だ。
「ふむ・・・シツジローくん、あの子連れてきて」
「かしこまりました」
シツジローくんがこどもに何か言って、こちらに連れてくる。
門番は明らかに不審者を見る視線をよこしているけど、関係ない。
「そこの君、家族が病気なの?」
「っそうだよ!なあ、あんたでもいいんだ。薬持ってないか。妹と母ちゃんが大変なんだよ」
「いいよ。案内して。薬ならあるから」
「ほんとか?」
「ほんとよ。ほら、早く」
このこの身なりから行って、奉公人じゃなさそうだし、もしかしたら、貴重な住民を勧誘できるかもしれないわね。
サカイには、サカイ様に今日の訪問はできなくなったと伝えてもらうためにわかれた。
案内されてきたのは、さびれた場所だった。
スラムのさらに端のほうらしい。
獣人は、スラムでも、こんな寂れた場所にしか住まわせてもらえないのだとか。
働いた給金は、半分以上がここの元締めに取られ、死んでも打ち捨てられるだけだと聞かされた。
なんてことだ。
あの脳みそまで筋肉な王様は、この現状を把握していないんだろうか。
貴族であるサカイ様も、もしかしたら知ってて知らぬふりなのだろうか。
ついた家は、みすぼらしいの一言だった。
屋根は半分穴が開いている。
壊れかけの家に、親子四人で住んでいるという。
最初に妹が病にかかったと思ったら、母親もかかったらしい。
動けないらしく、床で二人とも眠らされている。
布団もない。
「・・・これ飲ませてあげな」
特級ポーション。
怪我にはふりかけるほうがいいけど、内側からの病は飲ませるほうがいい。
まずいらしいけど、良薬口に苦しだし。
「それ・・・毒じゃないよな?」
「ないよ。私は薬も作る錬金術師だからね。君ものみな」
どう見ても、この獣人の子供だって、その病にかかってそうだし。
三人が飲み終わると同時に、母親の獣人が起き上がった。
目は冷めていたが、起き上がれなかったようだ。
座ったまま、頭を下げる。妹のほうは、まだ体力が戻らないだろう。
「ありがとうございます」
「いいですよ。・・・それより、旦那さんは?しごと?」
確か家族四人って言ってたし、やっぱり仕事かな?
「主人は・・・」
「父ちゃんは、三日前から帰ってこないんだ」
なんだと?
病気の家族残して失踪か。
最低なオヤジだな。
「・・・お姉ちゃん、こっち来て」
子供に言われて外に出る。
外も中も寒いな。
「助けてもらったから正直に言うけど、父ちゃん、薬を盗みに入るって言って、出てっちゃったんだ」
は?
「住宅街のほうの離れたあたりに、木で囲われたでかい家があるんだ。いつも静かだし、そこならもしかしたら、薬かお金があるんじゃないかって・・・」
いやいやいや。
そこは覚えがあるよ。
私の家じゃないか。
え?
盗みに?
薬はおいてあるし、お金もおいてあるけど、中に侵入できないよね?
「シツジローくん」
「はい。そういえば、何かが、木に引っかかっていましたが、忙しかったので、警邏の方々に渡すのも忘れていました。五人ほどでしょうか?」
この雪の中、三日も垣根に縛り付けられているのか・・・
凍死しないかな?
「お姉ちゃん、知っているの?」
「ああ・・・そこ、私の家なんだよ」
「えっ!あの・・・ごめんなさい・・・」
ああ、泣いちゃったよ。
泣かしちゃったよ・・・こんな小さい子供。
「とりあえず、うちにおいで。お父さん、いるかな?」
生きているといいけどな・・・
やっぱり馬車を持ってくればよかったな。
こんなとこじゃ、せっかくなおした母親と妹さんも、また病気になっちゃうよ。
獣人の子供は、マークと名乗った。
覚えやすそうだし、この子の名前は、覚えられそうだわ。
家に連れていくと、確かに、垣根に人が捕まっているな。
いつもの盗賊だな。
「あ、父ちゃん!」
一番奥のほうの垣根の弦に巻かれて、息も絶え絶えの、ぼろの服を着た獣人。
どうやらこのマークの父親らしい。
獣人、この男しかいないわね。
「はなしてあげて」
弦は、言うことを聞いて、すぐに、獣人だけ放す。
三日三晩、寒空にさらされていたから、体力はなくなっているようで、崩れ落ちた。
「父ちゃん!」
「お・・・おお・・・マーク・・・すまない」
感動の親子再開はいいんだけど、このままじゃダメだね。
とりあえず、未遂だから、この獣人はいいかな。
ほかは、シツジローくんが警邏を呼んでくれたから、渡しておこう。
「すみませんでしたー」
おお!
獣人て、土下座文化あったの?
見事な土下座なんですが!
どうやら息子から、妻と娘の薬をもらったことを聞いたらしい。
この父親も、その病抱えてるでしょ。
「あなたもこれ飲みなさい」
特級ポーション。
鼻をつまんで飲んでもまずいんだけど、仕方ないよね。
マークがすごく嫌そうな顔しているけど、味は教えちゃだめよ。
中に案内して、寒いから、温まってもらっていたら、シツジローくんが気を利かせて、妻と娘を馬車で連れてきてくれた。
まだ娘さんのほうは意識がないな。
薬は効いているけど、体力がないのだろうし、メイちゃんに任せたほうがいいよね。
とりあえず、シツジローくんがいろいろとメイちゃん並みにやってくれて、二人を布団で寝かせてくれたし、ご飯も作ってくれた。
・・・私は作れないからね。
ひとごこちついたところで、話を切りだそう。
「あなたたち、私の集落の住民になる気はない?」
王都の門番街の近くではあるが、年寄りしかいない集落。
その話をする。
今、住民募集中だ。
まだ、金銭を稼ぐことはできないけど、衣食住は保証できる。
「お姉ちゃん、いいの!」
子供は素直に喜ぶな。
もちろんだとも。
しかし、親のほうは・・・
そらそうだよね。
うまい話に警戒しないとだよね。
でも、あの集落なら、獣人の差別はないと思う。
どうしてもだめな時は、ジューノさんにも頼めるし。
「奥さんとも話し合ってほしい。今よりはもう少しましな生活ができるよ」
それは本音。
あの吹きさらした家では、無理だ。
病気で朽ちていくだけだ。
「ほかにも、あそこに獣人がいるなら、その人たちも一緒でも構わないよ」
「いや・・・我が家が最後です」
ほかはみんな、売られていったらしい。
獣人は、体力がある上に安いからと。
元締めが売るのだそうだ。
この一家は、病気になったため、見捨てられているが、それでも、働いた分は収めないといけないのだとか。
「人間が怖いです・・・」
父親が言う。
わかるけど、ここで生きていくには、それは仕方ないことだから、と。
「魔獣も怖い?」
「魔獣も怖いです・・・が、それは仕方ないでしょう」
「魔獣も済んでいるのよ、そこの集落。人間と共存しているの。ここの垣根の兄弟もね。そんな場所だから、私が勧誘できる人はみんな受け入れてくれるよ。奥さんとも話し合ってほしいよ。今日は泊まっていきなさいな。変なことしようとしたら、また垣根が捕まえるだけだからね」
あとの世話は、シツジローくんに任せよう。
きっと、彼らは集落の住民になるだろう。
私は集落に行って、ジャムさんに説明だな。
家は、空き家をいくつか建てておいてよかったわ。
そこを使ってもらえばいいしね。
集落の人たちは、獣人だろうが、受け入れてくれるという。
ここの未来のために、私がやってくれているのだから、と。
あとは、あの親子が決めるだけだ。
メイちゃんと家に帰ると、早速メイちゃんが、商店街のほうに出かけて行った。
服や食料品を買ってくるらしい。
入れ替わりにサカイがやってきた。
サカイ様も、どうやら、スラムのようなところの、そこでも厳しい生活をしている人をどうにかしてほしいと思い、そのことを話すつもりだったようだ。
サカイ様の領では、スラムはないのだそう。
皆、冒険者になってしまうのだそうだ。
魔獣が多い場所だからだと。
けがをして引退した人たちは、違う職につけるようにもしてくれるのだそうだ。
王都中央部は、王様も現状を把握していても、手を出せない状況のようだ。
なので、少しでも王都にそういうスキができないように、何とかしたいのだという。
だからといって、犯罪者は困るんだよ。
こちらの集落は、老人ばかりなのだから。
サカイには、そのことをサカイ様に伝えてもらう。
今日も一日、疲れたな。
運営さんは、また、帰ってこないな。
お読みいただきありがとうございました。
毎週水曜日更新しています。
誤字脱字報告、評価もありがとうございます。
もう二月も中旬ですね、早いものです。




