79~夕方なのにせわしない~
お読みいただきありがとうございます。
居眠り女主人公、寝てません。前回の続きです。
雪かきもしないといけないだろ集落も、もう雪が積もってた。
そんなに深くはないけど、固まったら滑るよね。
今までって、ジャムさん一人でやっていたのかな。
水魔法使える人たちが、各家の玄関前の雪はどけてくれるらしい。
今までもそうやって生活してきたそうだ。
土魔法使いの人たちが、乾かしてくれる。
私が借りている家も、雪かきされていた。
でも、雪下ろしはどうしよう。
「屋根の雪は火魔法と水魔法で何とかなるから安心しろ」
「そうなのね。よかったよ」
「それより今日はどうした」
「初雪が降ったら王国祭なんでしょ?こちらは雪が積もっているし、一足先に王国祭やろうと思って」
そのためにトライデントタウロスを、狩ってきたのだし。
ジャムさんに会場を用意させよう。
そうだ。
ジューノさん夫婦も呼んだらいいかな。
「シツジローくん、メイちゃん、ジューノさんたち呼ぼうと思うのよ」
「かしこまりました。お連れします」
あとは・・・
「サカイは呼ばないのか」
ああ、忘れてたわ。
運営さんはよく覚えているな。
「どちらかはサカイさん迎えに行ってきて」
二人が去るのを見る。
「運営さんは誰か呼びたい?」
「知り合いがいないな」
そうなんだよね。
私たちって、こちらに知り合いってほどの人って、そういないのよね。
「拠点でフルーツとかもとってこようかな。ガラスハウスにあったよね」
「あるな。どうせ会場は広場だろうし、メイが戻ってこなければ支度もできないだろう、行っておいで」
運営さんに見送られて、拠点に行く。
ポータルは便利よね。
先ほども来たけど、やはり寒いな。
外に出ると、プラント母さんが、キドナに分け与えながら、トライデントタウロスを食べていた。
「プラント母さん、おいしい果物持っていきたいの」
ガラスハウスも任せているから、おいしいのは選別してくれるよね。
ぬっと、弦が伸びてきた。
そこには、なぜか、プラントルビー。
ん?
輝きが違う。
この前もらったのより、少し大きい?
「鑑定」
プラントシャイニーグレープ
王国一つを飲み込むほどの栄養を蓄えた、災厄級のプラント種から取れるといわれている、幻のグレープ。
ルビーのように赤いが、黄金の輝きを放つ。
ものすごい甘い。
おお!
すごい奴だ。
甘いんだ。
楽しみ。
しかも、いっぱいある。
ほかの弦が、プラントシャイニーグレープを取っては、目の前に積んでいく。
もちろん、ガラスハウスの果物もだ。
プラントシャイニー、三桁収納できちゃったよ。
そんなにあるの・・・
プラント母さんは、災厄級のプラントなんかじゃない、気の優しいプラント種だけど、ここでいっぱい魔獣を食べていたんだね。
「かあさん、ありがとう」
イッセーシュリンプを数匹おいておく。
海のほうの食材は、母さんには縁がないからね。
「キドナ、森の近くの集落に行くけど、来る?」
キキッ
キドナが私の肩にのる。
「母さん、キドナ連れていくね」
触手の弦になぜられて、拠点を去る。
いいものいっぱいだね。
集落に戻ると、なぜか外が騒がしかった。
何かな?
「帰ってきたのか、アイリーン」
「運営さん、何かあった?」
運営さんが家の中でのんびりしているのだから、大したことは起きてないとは思うけど。
「外に魔獣が出たとのことで、ジェヌが門のほうから外に出たのだが、門番の弦にその魔獣とともにつかまっている」
は?
なんて?
「門番プラントに、なんでジャムさんまでつかまっているの?」
意味が分からない。
でも、運営さんは大したことだと思っていないようだし、行ってみるか。
「キドナは寒いからおうちでまってて?」
なぜかキドナが首を横に振る。
さむがりの赤ちゃんのくせに。
外に出たら、キドナが門のほうに駆け出して行ってしまった。
しかたないな。
急いで門に向かう。
門前には、集落の住人がみんな集まってた。
「なにがあったの?」
「ああ、おじょうさん、かえってきたのかい」
「門の外に、キドナップバブーンが出たんだよ」
キドナップバブーン?
あ、キドナが外に飛び出た。
「ちょっとごめんなさい」
門番弦が覆う、門の外。
確かに、門番弦が、キドナップバブーンとジャムさんを縛り付けてる。
「門番ちゃん、はなして」
するりと一人と一匹が、弦から解放された。
にらみ合っているけど、また弦に絡まれるのが嫌なのか、動かない。
キドナが、キドナップバブーンのほうに向かった。
「ん?キドナのとこのボスじゃない」
「なんだと?アイリーン、知っている魔物か」
魔物の知り合いって何よ。
いや、そうだけど。
「キドナのいる群れのボスよ。・・・どうしたの?」
キドナがじゃれついているけど、ボスは焦っているようだ。
よく見ると、前に上げたカバンがぼろぼろだ。
何かあったのだろうか。
「キドナが通訳できるわけないし・・・どうしたのかな?」
困ったな。
ここにはウーマもいないし。
「食料が足りなくなったの?」
首を横に振る。
違うのか。
「群れに何かあったの?」
どうやらビンゴらしい。
門番弦が、キドナップバブーンのボスに、何か聞いてくれた。
紙を渡すと、樹液で文字を書いてくれた。
すごいな。
文字がかけるよ、このプラント。
群れが人間に襲われたらしい。
ボスが何とか追い返したが、皆、傷だらけだという。
それで、キドナの飼い主のにおいがするここに来たというわけだ。
「傷薬渡すね。・・・あ、シツジローくん」
ちょうどシツジローくんが、サカイさんを連れて戻ってきた。
いいタイミングだ。
「シツジローくん、ウーマ連れて、このボスと一緒に、森に行って薬をあげてきて」
「かしこまりました」
「あと・・・ジャムさん、このキドナップバブーンの群れ、この集落においてくれないかな?」
魔物だけど、そんな悪いものたちだとは思えない。
確かに、子供さらって食べるとかいうけど、私が視た限り、この群れはやってないと思う。
「集落を守るのが俺の仕事だ。集落の者たちに聞かないとだな・・・」
「そうだよね」
集落の人たちはみなここにいる。
でも、魔物と暮らすのは怖いだろう。
「いや、わしらはいいぞ。この命は、おじょうさんにすくってもらったのだ。同じ仲間が来るようなものだろう。わるいことさえしなけりゃ・・・なあ」
そうだ、そうだ。
集落のおじいちゃんおばあちゃんがうなずいてくれる。
野生だから人間になれるかどうかもわからないのに・・・
「キドナップバブーンのボス、あなた、群れをきちんとしつけられる?この集落でおとなしく暮らせる?」
キーキー
承諾できたようだ。
「それなら、傷薬で治ったら、ここに来て」
「それでは行ってまいります」
相談していた間にウーマを連れてきたシツジローくんが、ボスと一緒に森のほうにかけていく。
「ありがとうございます」
「なあに、いいんじゃ。それより、群れがどれくらいかわからないけど、住む場所を決めんとな」
ああ、そうか。
その辺も考えないとな。
「家ができるまではうちに置いておくから」
それしかないよね。
大きくないけど、あの群れが住むくらいはあるし。
返ってくるまでは、メイちゃんがご飯の用意もしてくれるかな。
お読みいただきありがとうございました。毎週水曜日更新しています。
誤字脱字報告、評価もいつもありがとうございます。
12月もあと半分。
健康にだけは気を付けて、お過ごしください。




