57~side:ジェヌ 2~
お読みいただきありがとうございます。
前話に続きジェヌの話です。
門番街のジューノさんが、定期的に持ってきてくれるようになり、食糧問題は片付いた。
といっても、この集落のその後を考えると、何も解決はしていないのだが、それでも、住民がうえることが無くなったことは、アイリーンに感謝している。
あの後は病気をする者もおらず平和に暮らしている。
そんなある日、また、馬車が停まった。
くたびれ果てた老いた馬につながれた馬車からは、親子4人が下りてきた。
主人だと名乗る男が、手紙を出してきた。
アイリーンからだった。
親子は、王都中央部のほうにすんでいたが、税金の高さから、王都のはずれに来ることにしたという。
確かに中央に比べれば、ここは安いしな。
外れに行くための旅の途中でアイリーンに会い、ここを紹介されたのだとか。
だがここに仕事があるかといったら、そうではない。
周辺の畑を細々と守って暮らしている場所だ。
それでいいのだろうか。
とりあえず、来た日だ。
疲れもとれないだろうし、うちに来て休んでもらった。
翌日、親子四人は疲れていたのだろうが、昼過ぎまで起きてこなかった。
長旅だったのだろう。
「ここに住まわせていただけるのでしょうか」
昼食をふるまい、一息ついたところで、気弱そうなご主人に話を切り出された。
「いいが・・・、あんたの奥さん、水魔法が使えるのなら、ここじゃなく、門番街に行ったほうがいいんじゃないか?そこのほうが仕事がある。あと数日もすれば、門番街の商人が来るから、紹介してやれるぞ」
ここでは生きていくのは大変だろう。
アイリーンの手紙には、奥さんが水魔法の使い手だと書かれていたしな。
「アイリーンさんに紹介されたこの集落で暮らしたいです。幸い畑仕事などはできますので」
「それならまあ・・・これからよろしく」
そのうち出ていくかもしれないが、それでも今は若い労働力はありがたい。
俺一人じゃ、住人のフォローは回らないからな。
空き家を無料提供すると、ものすごく喜ばれた。
ここの住民になるのだから、空いている家は普通に貸し出すさ。
まずは住民に紹介をするために、各家を回る。
あまりの人の少なさと、老人しかいないということに、驚きを隠せなかったようだ。
なので、道々でここの集落の話をした。
老人たちは、小さな子供たちを見て、目を細めている。
会いに来ることもない家族を思い出しているのだろうか。
集落の中と、門から出たとこにある畑が、この集落の食料だ。
あとは倉庫にある。
税金としては、その食料を門番街の門番が、書類を持ってきて持っていくのが通例だ。
住民があまりにもいないから、ほぼ目こぼしされているが、それでも一応収めるものは収めている。
畑は主に麦と野菜だ。
麦だけは、ここで小麦粉にする製粉所があるので、製粉して、それを収めていることも話す。
ただ、その労力が俺一人なのだ。
最近は、老人たちもまたやり始めたが、やはり寄る年波には勝てない。
各家庭に水が引かれていないから、生活用水は井戸水だ。
最近は雨も降らないから、井戸も枯れかかっているのも困りごとだと話す。
住民の二人は水魔法が使えるが、年を取ると、体力だけでなく魔力も衰えてくるのだ。
すぐに奥さんが、井戸水をいっぱいにしてくれたので、しばらくは持つだろう。
まだ小さい下の子も、水魔法の適性があるのだと、夫婦は言う。
だが大きくなれば、ここを離れてしまうかもしれないから、あまり期待はできない。
やることなどは、これくらいだ。
あとは門番くらいか。
夫婦は、畑も門番の仕事も、製粉も手伝ってくれるという。
一人で大変でしたね、と言葉をもらった。
確かに大変だったが、今は食糧不足がそんなでもないので、ましだ。
ジューノさんが来た時、紹介もしたが、この親子はここにすむことを決めてくれた。
アイリーンの知り合いだということで、ジューノさんも気にかけてくれるというから、この親子はこの先何かあっても頼れる場所ができたといっていいだろう。
少し安心だ。
夏の終わりころ、森に近い畑の作物が、害虫被害にあいはじめた。
ここの森には、なぜかダンジョン化している洞窟がある。
その洞窟を探索するための冒険者が来ていたのが、ぱったりとなくなって久しいからだろう。
ダンジョンの魔物が出てきたようだ。
ジューノさんに相談すると、冒険者に依頼するといいといわれた。
確かに自分も冒険者なのだから、ギルドに行って依頼をすればいいだろう。
なぜ忘れていたのか。
ここの生活になれたということなのだろうな。
門番街の冒険者ギルドで依頼を出すと、その魔物の強さを調べるための調査員を派遣してくれた。
その調査員は、低級冒険者ではあったが、魔物に大けがさせられて帰ってきた。
命があっただけでも良かったのだろう。
家にあったポーションで回復してもらい、状況を聞くと、低級や中級の冒険者では歯が立たないといわれた。
再びジューノさんに相談したら、ジューノさんの知り合いの冒険者が見てくれることになった。
いつもジューノさんを集落まで送り届けて、無事に連れ帰ってくれる冒険者だ。
Bランク冒険者で、ランドルさんというらしい。
彼がひとりで行って、あれはだめだと帰ってきた。
Bランクの自分一人では、対応できないと。
そして、王都中央部の冒険者ギルドに、話を持っていってもらうことになった。
高位冒険者に依頼を出せるのだという。
門番街の冒険者ギルドから連絡をしてもらう。
その時点で、高位冒険者の雇うための賃金を捻出しなければならない状態だった。
この集落には金がない。
だが、住民の命には代えられない。
「大丈夫ですよ。白金貨5枚あるじゃないですか」
ジューノさんが言うが、それは集落の食料の分だ。
勝手には使えない。
「アイリーン殿が気にしたこの集落、力のない商人ではありますが、力になりますよ。今後の食料、白金貨5枚分は、無料で提供いたしますから」
「そんな・・・それは・・・」
いいのか?
こんな風に甘えて。
だが、終の棲家と決めて過ごしている住民たちの寿命が終わるまでは、ここを守らなければならない。
いつの日かここが無くなったら、自分のすべてをかけて、その金を返していこう。
「おねがいします・・・」
こうして高位冒険者に依頼がいった。
冒険者ギルドの仕事は早く、数日後には冒険者たちが来てくれた。
その中にまさかアイリーンがいるとは思わなかった。
見たことのある馬車と降りてくる人物。
驚きを隠せなかった。
一緒に来たサカイという人物を紹介された。
ブルーム・サカイ。
プレイヤーの子孫だという。
王都中央部の冒険者ギルドの副ギルド長。
本当にアイリーンの人脈はよくわからない。
サカイ様から、冒険者ギルドの支部の話があった。
具体的なことはまた連絡してくれるらしい。
これもアイリーンのおかげだ。
アイリーンが帰っていった後、ジューノさんがやってきた。
アイリーンがジューノさんに、白金貨50枚渡していったという。
ここのこれからのことを考えるには少ないかもという話だったが、十分だった。
いつか恩返しができるといい。
また会えるだろうか・・・
お読みいただきありがとうございます。
毎週水曜日更新しております。
次回から、また本編に戻りたいです。




