47~番外編 ゴールデンウィークの思い出~
お読みいただきありがとうございます。
今回はゴールデンウィーク中なので、転生前のあいりの話です
佐藤あいりは相変わらずの忙しさで仕事を進めていた。
新年度が始まって、もうすぐひと月発つだろうころだ。
新入社員の教育期間中でもある。
だがあいりは、新人教育はしていなかった。
仕事の量が多すぎるため、外されているのだ。
上司もそれくらいの状況は読めるらしい。
あいりが鬼気迫る勢いで仕事をしているには、訳がある。
いつもやっているオンラインゲームの、イベントのためだ。
理由を知るものなどこの会社にはいないが、もし知ってしまったら、成人もだいぶ過ぎたいい大人が何を言っているのだとなるだろう。
だがあいりには関係なかった。
あいりは、この、もうすぐ訪れるゴールデンウィークに有給の申請を出しておいたのだ。
もちろん、会社がダメだといえば、有給取得はできないが、なぜかそういうところだけは会社は申請を通す。
さらにこの会社のおかしなところは、有給中の社員に、電話であれ、仕事のことに関する連絡をした場合、降格、もしくは減給に処されるという、社則があるところだ。
なので、上司としてはあげたくもない有給なのだが、あいりは素知らぬ顔で、有給を申請したのだ。
29日が木曜日。祝日だ。
なので、一応、土日祝日が休みのこの会社は、30日に有給を出せば、長い休みが確保できるというわけだ。
実際あいりが、土日祝日を休んでいるかと聞かれたら、否と答えるだろう。
なので、その、土日祝日も含め、有給の申請を出したのだ。
ほぼ7日間。
有給を確保できたあいりは、その間にできるかもしれない分を、今のうちにやっているというわけだ。
真夜中になろうが、朝方になろうが気にもしない。
この年のゲームのイベントは、どうしてもやりたかったのだ。
「おわった・・・」
息をつき、天井を見上げる。
28日の午後5時になる寸前だ。
まさか、定時刻内で仕事が終わるとは思わなかった。
この日も残業覚悟はしていたのだ。
データは、万が一消されてしまってもいいように、いくつか保存する場所があり、あいりは最低でも3つに保存している。
前に、新人が二つ消したとき、ほかの人たちの分も消してしまったからか、大騒ぎになったからだ。
その時も、あいりがほかのところに保存していたデータから復元をした。
その時から、あいり自身は、データをいくつも保存する場所を作っている。
「お先に失礼します」
まだ作業をしている同僚を見ながら、さっさと帰る。
上司が何か言いたそうだったが、就業時間外だ。
何も言えなかった。
会社を出ると、大きく伸びをした。
そして思う。まずはコンビニだ。
レトルト食品や飲み物を大量に買い置かなければならない。
一週間分の食料品は、結構な重量だったが、それでも足取りは軽い。
部屋に入り、さっそくコンビニで買った食品で夕食を取り、入浴して一眠りだ。
午前0時になったら、即ログインしようと思っている。
イベントのためのアップデートがあったな・・・
確か、28日の午後には終わっているはずだ。
起動して、ロードしておかなければ、そのイベントにのり遅れてしまうじゃないか。
一息つこうと思っていたが、パソコンを起動して、ゲーム画面を見る。
やはり、イベントのためのアップデートは終わっており、最新データのロードの画面となった。
ロードを始めると、時間表示が出た。
一時間近くかかるようだ。
「はー・・・これで一息つける」
夕食を取りながら、息をついた。
たまには湯船にと思ったが、やはりシャワーで正解のようだ。
少し寝たい。
目覚ましをセットして、ベッドに横になる。
最近の疲れがどっと出たのだろうか。
すぐに睡魔に襲われた。
0時になる五分前。
けたたましく目覚ましが鳴る。
近所迷惑かもね、と思いながらも消すと、きちんと目を覚ますために、冷水で洗顔だ。
ここから一週間は自由だ。
「よし、ログインだ」
クリックすると、ログイン画面になり、アイリーンが目を覚ました。
* * * * * * * * * * * *
目覚めたアイリーンは、せかせかと動くNPCを素通りし、外に出る。
冒険者ギルドに行くと、海に大渦ができたという噂を聞く。
大渦は何かを守っているようだ、とも。
それが冒険者ギルドで、人数制限なしの依頼として張り出されているのだ。
もちろん、アイリーンの目的はその以来だ。
それこそが、このゴールデンウイークに行われるイベント、ブラックパールだった。
依頼を受け、早速海へと進路を取る
イベントサーバが別にできていて、そこに転送されるかたちだ。
あいりが入ったサーバは、100人ほどがすでに入っていた。
船を確保して、海に出なければいけないが、なかなかの動きの鈍さが。
負荷がかかっているのかな。
船乗りを見つけるのは簡単だった。
周りにプレイヤーが囲んでいるからだ。
アイリーンもその中に入り込み、船を借りる交渉だ。
船乗りに話しかけると、勝手に話が進んだ。
急に大渦ができて、漁にでられないという。
冒険者ギルドに依頼を出したのだが、その冒険者が来たのかと問われる。
選択肢を、はい、にして話を進めると、船を貸してくれるのだという。
壊さないようにしてほしいが、このままだと海に出られないから、壊れても仕方ない、とかなんとか。
とりあえず、船を借りることができた。
船を借りて沖に出ようとすると、天候が急に荒れてきた。
これもイベントの一つなのだろう。
天候回復させるアイテムを手に入れないといけないようだ。
天候回復アイテムは、製作可能のはずだ。
ただ、材料を手に入れないといけない。
しかもイベントの場合、イベント専用アイテムというものが存在し、それとともに合成しないといけないのだ。
イベントアイテムはどこだろう。
一度サーバから出て、再び冒険者ギルドに行く。
さすがに夜中だからか、人はまばらだった。
「なあ、あんた冒険者だろう。虹色の草が最近見つかったらしいのだけど、それを取ってきちゃくれないか」
急にNPCに話しかけられた。
「依頼としてはちょいと金が足りないから、個人的に物々交換をしたいんだが、ダメかな」
品物は、イベント専用アイテムのようだ。
なるほど。
天候が悪くなってから来ると、このイベントが始まるのか。
選択肢を、はい、とし、虹色の草の情報を手に入れに行く。
冒険者ギルドのカウンターに、虹色の草の情報が売られていた。
先ほどまではなったから、イベントの一つなのだとわかる。
虹色の草の情報が入ると、地図の場所が記された。
隣の国か・・・
馬車で、リアルタイムで数時間かかる。
しかも、どうやら、ポータルで、その国には移動できなくされている。
運営め・・・
忌々しく思いながら、家に引き返し、メイとシツジローを共につれて、馬車で数時間の隣の国に走らせることにした。
途中、モンスターや盗賊との戦闘も、メイとシツジローに任せ、アイリーンは馬車の中で固まったままだ。
朝になればつくはずだ。
アイリーンをそのままにし、あいりはベッドに寝転んだ。
隣国は、虹色の草の情報を手に入れたプレイヤーたちでにぎわっていた。
龍の住む山にあるらしい。
馬車はそのままその山に進み、一日が終わろうとしている。
リアル時間と連動しているからか、この目的のイベントは少々苦痛だ。
虹色の草は、夜になると輝くという。
龍に会うこともなく、虹色の草を手に入れた。
虹色の草譲渡、販売、可
どうやら複数手に入れてもいいらしい。
アイリーンは、一時間近くせっせと草を採取した。
戻ったら、売ってもいいし、あげてもいいよね、と考える。
少ないフレンドも、このイベに参加しているようだし。
フレンドの人数分以上には、確保できたのだ。
フレンドに、メールだけ送って、あとはのんびり、また、ほぼ半日かけて、帰路についた。
二日目の始まりは、馬車の中だったけども気にしなかった。
いつもの国に戻っる。
冒険者ギルドに入ると、NPCが話しかけてきた。
イベントアイテムと交換する。
と、メールが光っているのも気づいた。
何人かのフレンドからの返信だった。
虹色の草が欲しいとのことだ。
すぐに虹色の草を彼らあてに送っておいた。
社会人もいれば、子供もいるかもしれないが、この日は平日なのだ。
金曜日だからこそ。
このイベントの時間を鑑みれば、間に合わせるのもぎりぎりになるかもしれない。
協力プレイが必要だろうな。
手に入れたイベントアイテムで、天候回復アイテムを作る。
晴れの水晶玉、だ。
その水晶玉に、炎の魔法が使える魔法使いが魔力を注ぎ込むと発動する。
だが、これもイベントアイテムのせいか、教会にいる人に魔力を入れてもらわないといけない仕様になっていた。
街の教会に行くと、すでに同じようなプレイヤーが並んでいた。
順番にNPCに魔力を供給してもらっているようだ。
このイベントは、つつがなく終わった。
イベントサーバに移動すると、相変わらずひどい天気だった。
船は借りられている。
あとは船出するために、このアイテムを使うだけだなのだが、それにも条件があった。
作られた晴れの水晶玉の説明文に、10個の晴れの水晶玉が必要、と書いてある。
あのイベントアイテムと交換してくれるNPCは一度だけだ。
10個ということは、このサーバに少なくともあと10人がこの水晶玉を持ち込まないといけない。
ゲームイベントの面倒さに、PCをみてたあいりは天井を見上げた。
フレンドにさらにメールを送る。
アイテムを手に入れて、イベントサーバに集まるようにと。
これでイベントが進むはずだ。
夜になり、フレンド数人がイベントアイテムを手に入れて、アイリーンのいるイベントサーバに入ってくれた。
イベントサーバに入る前にパーティー登録をしたのだ。
そのため、同じサーバに入れる。
ほかのプレイヤーたちも数人を連れて、夜には来ていた。
なので、皆で水晶玉を出し合い、天候を回復した。
よし船出だ。
というところで、船乗りから、夜は船を出せないと断られた。
今ここでここまでイベントを進めたものたちは、同じ進行度のまま、夜明けまで我慢することになるのだろう。
どうせならということで、パーティー登録だけして、翌日の時間を約束し、イベントサーバからログアウトさせることとなった。
三日目の朝。
イベントサーバに昨日のメンバーがそろった
なぜか同じ船に乗せられている。
小舟なのにこの人数よく乗るな?というのが、画面を見ているあいりの感想だった。
大渦の範囲内に入ったらしい。
また急に天候があれてきた。
アイリーンたちプレイヤーは、戦闘曲が流れたので、魔物の襲撃を知る。
大渦の中から現れたのは、クラーケンだった。
いか?たこ?
イカの形しているのに、タコの口を持つ、大型魔獣だった。
クラーケンてこんなのだったっけ?
後、何かのゲームのパクリじゃないかな?
あいりの思考は、戦闘開始のほかのプレイヤーの魔法で、消え去った。
プレイヤーは基本能力値が高い。
イベント設定されている魔獣は、そのイベント参加しているプレイヤーの、最高レベルに合わせているのだ。
遅々として進まない戦闘だが、ようやく終わりが見えてきたころには、軽く数時間立っていた。
お昼も過ぎている。
回復アイテムも底をつきそうになった時、クラーケンが倒れた。
ドロップアイテムは、イベント限定、錬金アイテムだった。
イベント専用潜水石のもとと書いてある。
大渦も消えている。
船乗りが、船を港につけた。
お礼のアイテムと、クラーケンのいた大渦の下にはあこや貝があるのだという。
いい真珠が取れるのだが、あの大渦のせいでとりに行けなくなっていたのだとか。
この日はもうだめだが、翌日には船に乗せてくれるらしい。
それまでに、潜水石を作っておかないといけないようだ。
なので時間があるのだろう。
四日目。
潜水石を装備させ、イベントサーバに入る。
日曜日だからか、メンバーがそろっていた。
同じように船乗りが船を出してくれた。
大渦のあった場所まで来ると、プレイヤーは一斉に飛び込んだ。
青く暗い世界。
そして深い。
その奥に、大きなあこや貝が、口を開けて待っていた。
大きな黒真珠だ。
その貝ごと手に入れる。
どうやら全員分あるようだ。
空間魔法に収納すると、貝の部分がなくなり、大きな黒真珠だけが残った。
海から出ると、あとは帰路につくだけだった。
冒険者ギルドに行き、依頼達成を報告した。
家に帰りつくと、黒真珠を取り出した。
一抱えもある大きな真珠だ。
これを少しずつ削って、錬金アイテムに使えるのだ。
黒真珠は希少すぎて、海に行ってもなかなか取れないからこそ、このイベントは大切だった。
アイリーンをベッドに寝かせ、ログアウトする。
* * * * * * * * * * * *
イベントは終わった。
実質4日間もかかるのか。
ゴールデンウイークをほぼつぶす覚悟のある人でないとこのイベントはできないということだ。
だがあいりには、行きたい場所も会いたい人もいない。
仕事も忘れるほどにゲームはしたかった。
喜ばしいことに、仕事場からの電話は一つも入っていない。
入っていたらいたで、報告させてもらうだけなのだが。
椅子にもたれていた体を伸ばし、休みもまだ3日も残っていると気づいた。
ゲーム内の自分は出かけているが、現実の自分は引きこもってばかりだ。
だが外に出ようという気が起きないのは、休日だからだろう。
あと数日。
たまにはだらけて過ごすのも悪くないな、と考えて、ベッドに寝転んだ。
* * * * * * * * * * * *
拠点の庭では初夏の風が吹いてきて、生ぬるい。
メイちゃんに入れてもらったお茶を飲みながら、運営さんとともにあの日のことを話している。
あれは歴史ではなく、ただの長期休暇のイベントなのだと、運営さんは言う。
歴史以外にもたまには作らないといけないからと、イベントサーバができたらしい。
ゲーム作るのって大変だな。
でも実質引きこもらないとできないって、厳しいのじゃないかな?
黒真珠は、錬金アイテムとして使うまでもなく、そのまま空間魔法に入っている。
ほんとに大きな真珠だ。
プレイヤーしか持っていないのだから、誰かに見せるものではないのだろうな。
使う時まではしまっておこう。
あのメンバーたちにもいつか会えるといいな。
お読みいただきありがとうございました。
いつもより長めになりました。
毎週水曜日更新頑張ってます。
誤字脱字もたくさんありますので、すみません。




