36~錬金技術は広まらないだろうね~
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毎週水曜日に更新しています。
居眠り女主人公、起きてます。
王都中央部の冒険者ギルドの副ギルドマスター、サカイ。当たり前のようにいます。
再び数日が経過した。
そろそろ乾季も終わるころだと思うのだけど…
暑さは変わらない。
雨は当たり前だけど降らない。
そしてなぜだか、サカイさんが当たり前のように家にいる。
あれからほぼ毎日のように通ってくるのだ。
仕事はどうした?
錬金術に興味があるのはわかったけど、彼の魔法力では、錬金術をやるには乏しい。
作ったものに魔力を入れることくらいならなんとかできるようだけど、それでも、足りない。
スライム核石づくりは、あれでいったん終わりだ。
スライム核がないからね。
サカイさんに教えているのは、偽物ではなく、本物のポーションづくり。
「案外大変ですね」
「だから失われたのでしょうね」
補えなければ、やらなくなっていく。
やらなくなれば、失われていく。
「初級ポーションでもいいから、普及できるようになれば…」
「まだ無理でしょうね」
サカイさんがうなだれる。
おっさんなんだから、もう少ししゃっきりとしてほしいものだわ。
「アイリーン師匠は、この技術を広めたくはないのですか?」
「私は弟子をとった覚えはない。広める気もないわ」
時折、このおっさん、私のことを師匠呼ばわりするけど、おっさんの弟子なんていらないわよ。
弟子入りしたいなら、加齢臭をどうにかしてきてほしいわ。
「つれないですね、アイリーンさん」
「魔力の使い過ぎで魔力ポーション飲みすぎて、中毒起こしても知らないわよ」
プレイヤーにはないが、魔力ポーション飲みすぎは、この世界にはあるらしい。
「やはりだめでしょうかねぇ」
「無理でしょう。サカイさん自身、今の状態で大丈夫じゃないでしょ」
5本目の魔力ポーションを飲み切ったサカイさん。
ポーションづくりを教えているけど、魔法で機材を動かすのが大変そうだ。
ポーションづくりは案外繊細なのだけど、私たちプレイヤーは、目を閉じててもできる。
だから私は、半分寝ている状態で作るときもある。
その時はたいてい中級ポーションくらいしかできないけど。
「どうやったら魔力を高くできるのでしょうか」
「それこそ、冒険者なのだから知っているのではないの?私たちプレイヤーは、元から魔力が高いけどね」
ステータスが、普通の人間とは違うのだし。
こちらに来るときはみんな限界突破しているんだから。
「アイリーンさんも、昔からステータスが高かったのですか?」
「どうだったかな」
最初の設定の時、どんな風に割り振ったかなぁ。
覚えてないんだよね。
もう昔のことすぎる。
「忘れるほど生きているからね」
あいまいなことを言っておこう。
年齢なんて、いくつだったか忘れたし。
「プレイヤー国の方は、長生きらしいですからね」
「そうね」
死の概念がないのかもしれない。
運営さんがどうにかしなければ、死にそうもないし。
飢えには勝てないけど。
「先祖のサカイも、どこかで生きているような気がします」
しみじみ言うおっさん。
生きているわね、ここじゃないワールドで。
「それよりそのごみポーションどうするの?」
私が言うごみポーションは、初級にも満たない失敗作。
初級すら作ることができない、サカイさんの作り出したポーションだ。
材料が無駄になった分だけある。
それでも、偽ポーションより回復力はましだ。
「ギルドで扱ってもいいでしょうか?」
「初級でもないけど?」
「新人の訓練に持たせるポーションにしようかと。もちろん技術が上がって、初級ポーションが作れるようになるまでですが」
「すきにするといいわ。サカイさんが作ったのだし」
ゴミは自分で処分してもらわないとなんだよね。
「それよりそろそろお暇しますね」
夕方だ。
長居しすぎだよ、このおっさん。
ちゃっかり夕飯も食べていくし。
「明日はギルドで一日中仕事ですので、こちらに来られないのが残念です」
「来なくていいんだけど」
「つれないこと言わないでください。まだまだ教えていただきたいことがありますので」
教える気はないんだけどなぁ。
ま、いいか。
勝手にくればいい。
専用の機材、作っておいてあげようかな。
ポーションくらいなら、この世界にあるもので何とかなるし。
「おじゃまいたしました」
サカイさんが帰っていく。
見送ると同時に、メイちゃんが、様々なところに消臭液をまいていた。
苦笑しながら、私も手伝う。
体臭を少しでも軽減する石鹸でも作らせようかな。
消臭液がなくなるころ、眠りについた。
私がめを覚ましたのは三日後だった。
仕方ないよね。
錬金術で、魔力を使っている分眠いし。
私が寝ているから、サカイさんは遠慮したらしい。
というか、シツジローくんとメイちゃんが、家にいれなかったようだ。
正しいことだと思う。
今日のやることは、ごみポーションばかり作られて足りなくなった素材採取だ。
ポーションのもととなる薬草が足りない。
いやし草と呼ばれるそれは、なぜかこの辺りにははえてこないらしい。
王都中央部自体の土のせいじゃないかな?
拠点に戻って、採取が必要。
サカイさんのために取るわけじゃないけど、またごみポーション作られると思うと憂鬱だ。
拠点の森の中も、枯れかかっている植物が多い。
いやし草は水気の多い場所に生息するので、期待できなそうだな。
何時間くらい探しただろうか。
採取袋二つ分にしかならなかった。
「これじゃちょとね」
大量のごみポーションに使われたらあっという間だ。
「お嬢さま、サカイ様にいやし草は持ってきていただけばよろしいのではないでしょうか」
おおおお!
そうだよ。シツジローくんの言うとおりだ。
なぜ私がおっさんのために材料を集めないといけないんだ。
作りたいのだったら、自分で持ってくるのも、冒険者だよね。
「早速サカイさんに言ってきてくれる?」
私はもう寝よっと。
この時期にいや思想は、大量には無理だってわかったし。
無駄な労力だったな。
「かしこまりました」
一礼をして去っていくシツジローくんを見送る。
私はさっさとほこりを払って、ベッドだ。
まだ昼間だからと言って、眠くないわけない。
いつでも寝られる体質だし、この世界の娯楽は知らないから皆無だし。
「おやすみー」
ああ。
労働の後の睡眠は気持ちいい。
今回はいつもより短いです。
まだまだ続きます。




