3~メシマズすぎて悲しくなりました~
目が覚めたら、明るかった。
今何時だろう。
はっ!
仕事…と思ったところで、気づいた。
私は今、違う世界で生きているんだった。
「おはよう、運営さん」
寝袋からもそもそ這い出すと、伸びをした。
なぜか、テントはなくなってて、寝袋だけになってる。一晩は持つはずなのにな。
〈あれから2日ほどだったのだが、きみはいつまで寝ている気だったのだね?〉
2日?
いやいや…普通に寝てましたよ。
やはり、生きてた頃の睡眠不足が原因かな?
〈そのステータスの特性のせいだろうな〉
運営さんの呆れた声。
特性?
そんなものあっただろうか?
ステータスを出してみた。
名前 アイリーン・プラム・シュガー
性別 女性
年齢 ∞
種族 プレイヤー(プレイヤー国出身)
LV 1380(限界突破数 3)
体力 999,999(MAX)
魔力 999,999(MAX)
全属性魔法 LV10 (MAX)
スキル取得率 92%
特性 惰眠
簡易的なステータスに 惰眠がついてた…
何この特性!
運営さん、どういうことなの!?
〈きみは、ゲームのログアウトの時、ほぼ屋内の寝所にて、アバターを眠らせていただろう。現実のきみは、生活のためのサイクルをしていたのだろうが、アバターのきみは、起きている時間が2時間にも満たないため、怠け特性がついてしまっていたのだ。ステータスなど見ないから気づかずじまいだったのだろうが、それが長く経ち、惰眠となったというわけだ〉
くっ…
なんて屈辱。
現実の私は、惰眠を貪るどころか、休日出勤までして、過労死したというのに。
〈規則正しい生活をしていれば特性はまた変わる〉
規則正しい生活か。
別にいいや。
あくせくしておなじことにはなりたくないし。
ゆっくりやって行こう。
もう一つ聞きたいわ。
種族 プレイヤーって何よ。
〈きみがゲームしてた通り、この世界にはたくさんの種がいる。きみの外見はヒト族だが、レベルが違いすぎる。なのでプレイヤーは、ヒト族ではなく、プレイヤー族と呼ばれるようにした。だいたい、きみたちプレイヤーはゲームの時の特性で、不老不死だ。なのでもはやヒトではない〉
おお。
不老不死だって?
たしかにゲームはやられたら、最後のセーブした場所に戻されてたけども。
見た目も18歳くらいにしたからなー。
プレイヤー国出身ってのは?
〈そんな国は存在しないが、プレイヤーもどこかに国がないとあやしまれるものだ。プレイヤー国は海の向こうのどこかに存在していると思わせているのだ。そこから時折プレイヤーという種族が、どこかの国に、ふらりと現れて、何かを成し遂げて去っていくという。この星の国々の伝説だ〉
えっと…それって、私以外にも、プレイヤーがいると?
〈きみより過去の世界についたプレイヤーもいるのだ。どの時代に送られてしまうかは、感知できないのだよ。それに一度に5人は送れるからな〉
なるほど。
つまり、過去の世界に送られたプレイヤーがいろいろやったってことね。
それで、プレイヤー伝説がある、と。
〈そういうことだな〉
その人、今、どこにいるの?
〈ほかのワールドに移った。この星に満足したので、他に行きたいとなったのでな。今の時代にいるプレイヤーは、3人ほどだ。きみとは違う大陸にいるようだ。わたしの担当ではないので、詳しいことはわからないがね〉
理解したわ。
まだ、ねむいから、ぼんやりしてるけど。
さて行動しましょうか。
まずは川で顔洗ってからだわ。
水辺のとこって便利だなぁ。
喉も渇いたし、飲めるかな?
盛った水に浄化魔法をかけてみた。
やはり、そのままの水が安全かどうかわからないし。
お腹壊したら、どうにもならない。
ここには何もないんだから。
「お腹すいたなー…」
ご飯はない。
あるのはこの前倒したワイルドキングボアの肉だけだ。
またこれを食べないといけない。
「マズいよ…」
噛み締めながら、1人ご飯だ。1人ご飯は慣れてるけど、いつもコンビニ弁当だったし、白飯あったし。
肉ばかりだと、つらいよ。野菜も穀物も欲しいよ。
自炊…してなかったけども。
残念ながら、私は、現実もゲーム内も、料理や家事スキルをあげてなかったせいで、美味しい料理ができない。
ゲームの料理や家事スキルは、この、取得できてない8%に含まれている。
錬金スキルはMAXだけど、料理は別らしい。
私がそちらをあげなかった代わりに、ドールと呼ばれている、使用人人形にとらせていた。
ドールはカスタマイズ式だから、好きな外見にできたし、プレイヤーの命令で、勝手に動かせた。
スキルも戦闘レベルもあげられたし。
運営さん…
私のメイちゃんとシツジローくんはどこなの…
美味しい料理が食べたいよ…
〈きみのドールへのネームセンスはともかく、空間魔法のなかにいる〉
えっ?
メイちゃんとシツジローくんが?
たしかにドールは生き物じゃないけど…
〈エネルギー切れで止まったときに、収納した〉
エネルギー切れ?100年持つと言われてる、S級を入れたのに?
〈きみが眠ったままでも、ドールは動き続けていたのだ〉
そっか…わたしが目覚めるまで、そんな長い時が経ってたんだ。
ドールのエネルギー源は、魔物であるスライムの核をベースに、錬金術で作る、核石と呼ばれる魔力石だ。
生きているスライムから、柔らかい核を取り出して、そこに魔法を染み込ませると、その魔法属性の核石ができる。
その核石を砕いて、絶妙に配合し、錬金術の魔法陣にスライムの核と共に乗せ、術を発動させると、最低ランクF級から、最高ランクSS級までがある。
品質が良ければ、エネルギーの充填をしなくても、長いあいだもつ。品質が悪ければ、すぐに壊れて、つけかえだ。
エネルギーは、自分の魔力を注ぎ込むだけなんだけどもね。
私のドールには、S級の核石を使っていた。作るのは苦労したよ。
何匹のスライムが犠牲になったことか…
とにかく、メイちゃんとシツジローくんを出そう。
まずは、テントだ。
その中で、2人を出す。
空間魔法から出てきた2人は、本当にうごかなかった。
横たわったまま、マネキン人形だ。
外見年齢は、二十代半ば。
設定も夫婦としてある。美男美女だ。
2人には、メイド服と執事服を着させている。
着ている服にも、劣化はみられない。
首の少し下。
そこに核石をセットできる箇所がある。
あけてとりだした。
薄い灰色の球体だ。
劣化はこちらもみられない。
石というよりは、柔らかい感触だ。
運営さん?魔力って、どうやって注ぐの?
昨日、初めて魔法使った私としては、やり方わからないんですが?
〈核石に触れて集中すれば注がれる。満たされれば白く光る〉
なるほど。
集中。
核石を持っている手に、身体の中にあった何かが、集まってきている感じ。
呼吸を整えながら、しばらくそのままでいたら、核石が乳白色になった。
そして光を帯びる。
どうやらうまくいったみたい。
魔力としては、S級の核石は、2,000ほどつかう。
2人分だからその倍だ。
だけど、全く影響ないな。
核石を戻して、少し待つ。
メイちゃんとシツジローくんが目を覚ました。
2人は起き上がる。
何事もなかったかのように服を整えて、私の方にむいた。
2人は笑顔だ。
「「お目覚めですか、お嬢さま」」
2人の声が重なった。
初めて聞く声だ。いつも画面越しの文字だけだった。
2人は私を「お嬢さま」と呼ぶように設定してある。
「おはよう、でいいのかな」
なんて言っていいのかわからない。
緊張してしまう。
2人は周りを見回している。
「お尋ねしてもよろしいですか、お嬢さま」
シツジローくんが、うやうやしく尋ねる。
「こちらはどこでしょうか」
そりゃそうだよね。
目が覚めたらテントの中とか。驚くよね。
「ここは引っ越し先の森の中で、お家はこれから建てます」
引っ越したという設定のもと、私はあれこれ2人に話す。
特に、食料品がないことをだ。
2人はすぐに納得していた。なんで順応性が高いのでしょう。
「メイちゃん、お腹すいた」
あのマズいお肉を食べてから、だいぶ時間が経った。
魔法も使ったから、お腹すいた。
肉だけしかないけど、渡す。
メイちゃんのスキルレベルなら、肉だけでも美味しくなるはず。
空間魔法に入っていた調理器具と食器を渡す。
キッチンはないけど、どうにかなるかな?
メイちゃんとシツジローくんが、テントの外に出た。私もそれに続こうとしたら、「少し休んでください」と、シツジローくんにとめられた。
テントの中じゃ、何にもないのに。
寝袋でゴロゴロしてみる。
魔力が回復している。
どのくらいたったのか、美味しそうな匂いがしてきた。
「お嬢さま、お外へどうぞ」
呼ばれて外へ。
焚火ができている。
そこでメイちゃんが料理してる。
シツジローくんがテーブル(ないけど)セッティングしてる。
おお!
魚があるよ!
並べられた食卓を凝視した。
肉しかないはずなのに?
「先ほどそこの川からとりました」
私の驚く顔で悟ったのか、シツジローくんが答える。
魚がいたんだ?
川だもんね…いるよね。気づかなかったよ。
並べられた料理は3人分。
ドールは食事の必要がないけど、私が2人と一緒に食べたいからと、同じ食卓についてもらっている。
ゲームの中だけでもボッチメシはしたくなかった。
「いただきます」
切り分けられた魚と肉を、お皿に盛ってもらって、フォークとナイフで食べる。
「美味しい!」
味は素朴なのに、けものくさくないよ!
何で?
「シツジローに森に入って、香草をとってきていただきました」
「入ってすぐに香草やキノコがありました」
たしかに、付け合わせにキノコがある。
香草が、お肉の臭さをけすのか!
「調味料がないので、これが限界でした」
メイちゃんが申し訳なさそうに言う。
なにいってるの!私のあのマズメシに比べたら、天と地の差がありすぎだよ!
魚もうまー!
「さすがメイちゃんだよー、美味しい」
「ありがとうございます」
いやいや、こちらこそだよ。
これでマズメシから、脱出だよ。
ひととおり食べて、お腹いっぱいだー。
「ごちそうさまでした」
食事を終え、食休み。
メイちゃんとシツジローくんは片付けだ。
川で調理器具や食器を洗ってる。
私は、気力も充実したし、やはり、家づくりだな。
テントを片付け、2人に家づくりをすることを伝えた。
今日はお家で寝られるかな?
長く書いて、読みにくかったらすみません