260~その頃のプラム郷~
サカイに頼まれたジェヌは、すぐさま、自分の義母にことを伝えた。
まずは、この郷の住民たちに情報共有が必要だ。
「ジェヌおじちゃん、おじょーさまかられんらくあったの?」
ワクワクした顔で、ナナがやってきた。
アイリーンがいなくて、つまらないのだ。
確かに同じ年頃の住人も増えたが、ずっと自分の面倒を見てくれたのはアイリーンなので、アイリーンに早く帰ってきて欲しいと思っているらしい。
「いや、サカイさんだ」
「サカイおじちゃん?なにかあったの?」
「みんなが来たら話すから。会議所行くぞ」
歳の割に小さい狼獣人のナナを抱き上げ、会議所に行く。
中にはもうみんな集まっていた。
とは言え、ずっといた住人だけだ。
「さっきサカイさんから連絡があって、アイリーンが旅先で弟子を迎えたそうだ。その弟子が、数日後にはくるので、家の掃除とかお願いしたい」
「どんな方かのぅ」
「ライオン獣人の兄弟だそうだ。もともと独学で錬金術をやっていたらしい。ある程度基礎がわかるはずだとか」
「ほほう。それならわしらも教えてもらえそうかの」
「いや、アイリーンが、帰るまできちんと教えてあげて欲しいそうだ」
ジェヌが肩をすくめると、どっと笑いが起こる。
相変わらずのお嬢様だな、と。
「ナナも弟弟子ができるぞ」
「おとーとならこのまえうまれたよー?」
「そうだったな」
ナナの母親が、5人の仔どもを産んだのは、記憶に浅い。
アイリーンがいたら、名付け親になって欲しかったと言っていた。
「遊んでくれる人が増えたと思えばいい」
「わぁーい」
ナナの両親も養父母も、生まれたばかりの仔どもにてんてこ舞いで、ナナは基本、ほっておかれている。
ナナの兄たちも、冒険者として、昼間はいないのだ。
なので、1人で過ごしていることも多い。
「まああとは来てからだな。誰か、家の掃除とか頼む」
ジェヌの言葉に、住人たちは立ち上がる。
「よし、じゃあ取り掛かろうかね。家具はどうするかね。ベッドとクローゼットとテーブルと椅子くらいなら、すぐ作ってもらえそうだけどね」
「ああ、先程頼んできたから、明日にはできると言ってた。すごい職人たちだよ」
「それなら掃除だけだね。家を決めて、取り掛かろうかね」
会議所には、ジェヌとナナがのこされた。
「ナナ、ボックスの中の菓子はきちんと片付けておけよ?食べられちまうかもよ?」
「はっ!わかったー」
ボックスに駆け寄るナナを見ながら、問題が起こらないことだけをジェヌは願った。




