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ワールド・ガイア  作者: 水野青色
23/281

23~たまにはいいことだってします~

小さな集落です。主人公はまだ寝てません。

小さな集落はほんとに小さそうだった。

外壁もない。

いや、もしかしたらこの木の柵が外壁替わりなのかもしれない。

魔物除けの結界も一応張られているけど、こんなに弱いと、魔獣は入ってくると思う。

門番なのかわからないけど、一応いるようだ。

中年の男性だった。


馬車を停め、シツジローくんが中に入る交渉。

私たちも外に出る。

伸びをして、周りを見渡すと、集落の向こうには丘が見える。

その丘までもが田畑が続いている。


「身分証明書を」


言われたまま出す。

書いてある内容を見て、何か思案しているようだけど。


「中で暴れてくれるなよ?」

「王都には観光に来ただけで暴れないです。それよりここは何が名物?」

「そんなものはない。見ての通りの畑に実るものだけだ」


都の中のはずなのに、田舎風景。

麦くらいしかなさそうだなぁ・・・


「宿はあります?」

「宿はない。ここでは、空き家ばかりだから、空き家を貸し出している。家の貸出の許可は、集落の長に言ってほしい」


長く泊まる人用のようだ。

一泊しかしないけどなぁ。


「一泊やそこらなら、広場に馬車待機スペースがあるから、そこで過ごすことも可能だ」


それならそうしようかな。

一応その広場の貸出許可も、集落の長さんの許可制らしい。


「で、その長さんはどこにいるの?」

「ん?俺がそうだ」


お前かよ!

なんだよ、もったいぶって。

とにかく広場のほうに案内してもらう。

ウーマもゆっくり歩く。


「俺は、この集落を仕切る長のジェヌ。元冒険者だが、ここで美人のかみさん見つけて、住み着くことになった」


豪快に笑っているけど、どうでもいいな、その情報。


「で、美人の奥さんは、おうちのほうですか」

「・・・いや。男作って逃げた」


いきなりヘビーだな。

やめてよ、そういうの。

顔が引きつるわ。


「なのにここで長を?」

「まぁ、成り行きだな。ここはもう老人しかいないから、何かの時は守らないとな」


元冒険者の心意気だと笑う。

悲しい話だ。


「ところでそのメイドさんか?美人だな」

「彼女は、あちらの彼の奥さんです」


悪いけど、無理だわ。

メイちゃんがもてるのはわかるけど、あげられないのよ。


広場はそんなに広くなかった。

そして、そこまで行く際の家の中からの人の気配も微妙だった。


馬車からご飯の用意。

店がないから、自分たちで買ってきたものだ。

こういうのって、行く先々で食材調達っていうけど、まったくできない気がするわ。


肉だけはたっぷりある。

家の周りの森でとった魔物肉だ。

ちらほら野菜もできてたので、それも先ほどとってきておいてよかった。

プラント母さんに任せてあるから安心だしね。


メイちゃんが料理を出してくる。

そこに先ほどの、何とかって長さんが来た。


「おお、いい匂いだな」

「ああ・・・ええと・・・ジャムさん?」

「なんだそれは。ジェヌだ」

「そうでした。で、ジェムさん、何か御用?」

「いや・・・まぁ・・・ちょっと相談が…」


何か言い淀んでいる。


「飯をくれ!」


頭を下げられた。

どうやら、あまりおいしいごはんを食べてないようだ。


「まぁいいですよ。どうぞ」


どうせある程度たくさん作るし。メイちゃんの料理はおいしいしね。


「ああ、いや、俺じゃなくて、その・・・この集落の老人にだ」

「は?」

「実は若い労働力が俺くらいしか無くてな。あまり満足にここの住民に飯を食わせてやれないんだ」


話を聞く。

年若い人たちは街に働き口を求めて出ていき、ここは老人ばかりなのだという。

老人たちは遠い町に行くにも大変だし、かといって、畑などをずっと続けていられる体力もない。

町に行った子供たちに支援を願って手紙などを送っているのだそうだが、向こうは向こうで大変なのだと、芳しい支援が期待できないそうだ。

それならば違う集落を頼るにも、同じような状況なのだという。


「金はあまりないんだけど、少しなら出せる。何とかならないか?」

「お金なんていりませんが、何人くらいですか?」

「ここでにすんでいるのは、俺も含めて21人だ」

「ジャムさん以外が全部老人?」

「ジェヌだ!あんた、人の名前覚えられないほうだろう。だがそれはいい。皆老人だ。病気であまり動けないものも多い」

「うーん・・・メイちゃん」

「問題ありません」

「そう。ならいいわ。…わかりました。ジャムさん。これからご飯だから、明日のお昼くらいの分までは面倒見ますよ」


メイちゃんが大丈夫というなら大丈夫だわ。おうち戻れば、森で狩ってこられるし。


「ありがとう」


もうジャムでいい。とつぶやきが聞こえたけど、なんのこっちゃ?自分の名前でしょ。

ジャムさんが家のほうへと去っていく。

集落の人たち呼びに行ったのかな。


「シツジローくん、ちょっと・・・」


白金貨を取り出す。5枚あればしばらくは平気だと思うし。

一年持てばいいかな?


「ウーマでジューノさんの店まで行ってきてくれないかな?この手紙もって」


さらさらと手紙を書く。

それを金貨とともに封筒に入れる。

意図を読み取ったようで、シツジローくんはウーマを連れて、集落の外に出ていった。


ゆっくりと広場にこの集落の人たちが集まる。

でも、少なくない?


「メイちゃん、急に重いもの食べたら大変だろうから、優しいもの作ってあげてね」

「かしこまりました」

「あの桃リンゴも使っていいから、後、持ち帰れるもの作ってあげて。病人食よ」

「病人食ですか?」

「来てない人たちは病気か体力ない人でしょ。これも持ち帰らせるわ」


中級ポーション。

これなら少しはましになると思う。

来た時に飢え死にされたなんて冗談じゃないわよ。

おなかすくつらさもわかるしね。


「ジャムさん、ちょっと」

「・・・ああ」

「あんた一人元気なんだから、これを各家の病人に食べさて来なさいよ。この薬飲ませるだけでもいいわよ」

「これ・・・ポーションか」

「本物よ。私のいらないあまりものだから、遠慮なく全員に飲ませなさいよ。これで病気やけがも治るわ。体力は知らないけど」

「・・・っ恩に着る」

「恩はいらないから、さっさと行動する!私はおなかすくとイラつくのよ!」


ご飯が遅れるわ。

やっと来られる人たちはそろったみたいね。

椅子につかせて、胃にやさしいものを提供する。


「どうぞ、どんどん食べて」


私も自分のご飯はいただく。

おなかすきすぎてイライラだわ。

メイちゃんはかいがいしく給仕している。

運営さんは私の目の前で普通に食事。神様がこんなのでいいのかしら?


「お嬢さん、すまないな」

「気にしないで。頼まれただけだもの。それより、きちんと食べたほうがいいわ。私たちは今日しかいないのだから。後、これを飲んでくださいね」


ポーションを渡す。

この人たちは体力が戻ればなんとかなる人たちだ。

飲んですぐ回復もできるだろう。

畑仕事ができるようになるかもだわ。

当面の食料は・・・、シツジローくんが帰ってきたらだわね。


私たちの食事もあらかた終わるころ、長であるジェムさんが広場に帰ってきた。


「ジェムさんも、食べなさいよ」

「ジェヌだ。まぁいいや。いただく」


ものすごい勢いで食事を平らげていく。

うーん。

おっさんだけど、この中ではわかいしね。足りないのかもしれないわね。


メイちゃんに合図すると、固まりの肉を焼いたものを持ってきた。

それをテーブルに置く。

熊だったものね。


ジャムさんは、それすらも食べつくした。

どこにあの量が入る胃があるのかは疑問だ。


「くったー」

「よかったわね、見ているだけでこっちは胸焼けするわ」


食べ終わった後だけどね。

ああ、お茶がおいしい。


「久しぶりにまともなもん食ったよ。嫁さんが出て行ってからまともなもん食わなかったからな」

「自分で料理覚えなさいよ」


人のこと言うなと運営さんから突っ込み入ったけど、無視。


「飯はおふくろさんが作っててくれたんだがな、病気で寝込んじまってなぁ」


奥さんのお母さんが作ってたようだ。

そのお母さんにも、ポーションと、ご飯を持って行ったという。

奥さんのお父さんはもうなくなっているのだとか。


「しかしあのポーションすごいな」

「中級ポーションくらいじゃ、そうでもないわよ」

「中級!・・・この集落はほんとに金がないんだが…借金にできないか…」


頭を下げられた。


「お金ならいらないって言ったわよね。それよりも動けるようになったのなら、集落の在り方を考えるべきだわ」

「そうだな・・・」


私がこれ以上は関与できない。

運営さんが何も言わないのは、運営さんは平等だから。

ほかの集落だってこういうことが起こっているだろうに、ここだけ手を貸すことはできないんだよね。


「さっさとほかの病人にも食事もって行ってあげなさいよ」

「手伝ってくれ」

「断る」

「なんでだよ」

「面倒くさいし。眠いから」


あくびする。

食べたら寝るのが私の生活なのよ。

魔法を使っていないだけ、寝る時間が短縮されているだけだわ、きっと。

後片付けはメイちゃんに任せる。

メイちゃんが、ジャム?ジェム?さんの手伝いもするだろうし。


ああもう眠い。

思考が停止だわ。


「おやすみなさい」


馬車の中のクッションは、いつでもいい寝心地だ。








まだまだ続きます。

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