223~めでたいよ~
チトセさんの妊娠・・・
で、一瞬真っ白になった思考が戻った。
いやいやいや。
めちゃくちゃおめでたいじゃないですか。
「で、なんでダンゴローさんがおろおろしているの?」
上に子供いるでしょうが。
「いやいや、だって・・・」
ダンゴローさん、言葉にならないし、チトセさんも表情が陰ってる。
なに?
「お嬢さま、こっちで話すよ、俺が」
マークに連れられてリビング。
ナナはチトセさんのほうに残らされてる。
「マーク、何があったの?」
「うん。母さんが妊娠したのはとてもうれしいことなんだ」
「それならいいじゃない」
「うん・・・あのさ、オレとナナにも兄弟がいたんだ」
「ん?」
いや、マークとナナは兄弟よね?
ほかの兄弟?
「・・・獣人て、一度に4人とかうむんだ。ジューノさんち見てるとわかると思うけど、兄弟たくさんいるだろ」
ああ、確かに。
「俺も三つ子だったし、ナナは、四つ子だったんだ」
「え?」
「お嬢さまも知っていると思うけど、あの状況では、育つ子供が少ないんだ。オレとナナは、何とか育ったけど、年齢を見ても、ナナは小さいのもわかるだろ」
つまり栄養が足りなさ過ぎて、飢えでなくなっていったということなのか。
それはきつい。
「だから、父さんも母さんも、子供が生まれたら、また栄養が行き届かないんじゃないかって」
「それが心配なんだ?」
「ナナは、この体の割に食べるだろ?ナナは足りてなかった栄養を今とっているんじゃないかって、ジューノさんに言われた。生まれてくる子たちも食べられなかったらどうしようかって」
あー・・・
そうなのか。
仕事してても不安なんだね。
「ここでは飢えてる?」
「いや、仕事もあるし、食べ物も飲み物も、寝る場所もある。父さんも母さんも、酒場で楽しく飲んでる時あるし、少しはお金も蓄えられてる」
「そうね。ここで住んでいれば、平気じゃない?」
「だけど、移住してくる人が増えると、獣人を嫌う人もいる。父さん母さんは、それが怖いんだ」
いつか追い出されるかもしれない、というのが怖いらしい。
「はあ?・・・マーク、あなたの家は私がここに移住させたの。そしてここは私の管理している土地。獣人を嫌うならその人たちにはお暇していただくしかないわ」
「・・・俺たち、ここにいてもいいのかな?」
「いいに決まっているでしょ。だいたい、私はプレイヤーよ。長きにわたって同じとこにとどまることできるのよ。それこそ何世代分も。文句はこちらに言えばいいわ」
「お嬢さま・・・」
ありがとう、って泣いているけど、こんな小さい仔の心に、そんなのがよどんでいるなんて。
やっぱりさっさと、王都の闇であるあの場所の人たちは、移住させられるといいわね。
「ご飯は足りているなら、これから生まれてくる子たちは、きっとみんな育つよ」
「そうか・・・うん・・・」
「よかったな、マーク」
「ありがとな、ビイト」
二人はいい友人同士だわ。
いい光景。
「マーク、ダンゴローさんにもチトセさんにも、先ほどの話と、今まで以上の栄養と、最低限の運動はするようにっていうのよ?」
「運動?」
「動かないでいると、子供を産むのが大変になるらしいし。・・・周りにおばあちゃんたちがいるんだし、きっとよくしてくれるよ」
「うん」
マークがいなくなって、リビングには私とビイト。
「ビイトの話は、これに関係があるのよね?」
「そう。・・・チトセおばちゃんが子供産んだら、ここって狭くなるだろ。オレとマークは家を手に入れたいんだよ」
「ああ、そうなら、まだ空いている家屋あったかな?ないなら、建てるわ」
「ほんとか?ナナは、ここに残るだろうけど、おばちゃんもおじさんも、面倒見られないと思うから、うちで引き取るのがいいんだろうけど、冒険出ちゃうと一人で留守番になるしさ」
「今までとそんな変わらなくない?」
「昼間はナナはプラム郷の中で過ごしているけど、夜は家だろ。両親が生まれたばかりの子供にかかりきりじゃ、ナナはさみしいだろうけど、どうすればいいかな?」
「ビイト、あなたはいい子よね。・・・ナナがどうしたいかが大事だけど、考えてみるわね」
「ありがとな、ねーちゃん。・・・あ、マークが泣きながらナナと帰ってきたか」
「あらあら」
ナナはきょとんとしているけど、マークはまだ泣いているわね。
困ったお兄ちゃんねぇ。
「おじょーさま、あのね、ナナね、この前のお話受けるんだー」
「この前のお話?」
ナナ、話の内容が見えないですよ。
「あのね、ポルムおじちゃんとサリーおばちゃんの仔になるの」
「ん?だれ?」
「ねーちゃん・・・俺の両親だよ・・・」
ああー・・・
そういう名前だった・・・かな?
うん
「そういう話が出てたの?」
「あのね、お母さんが赤ちゃんができてね、おじちゃんたちに相談してね、ナナがさみしくないようにって」
「そう・・・ナナはそれでいいの?」
「お父さんとお母さんが二人ずつになるんだよ!」
無邪気だ。
それでいいならいいか。
マークとビイトは初耳だったようだけど、二人の憂いもこれで解決よね。
ほんとよかったわ。
ちょうどメイちゃんもおやつ持って、各家に配り行っているようで、この家にも来たし。
栄養の付くものも、いっぱい作ってもらって、置いておこうね。
おめでたいし、ほかにもいろいろ考えて送ってあげないとね。
楽しみだわ。




