22~まだ合わせてなかったよね~
読んでいただきありがとうございます。
相変わらずの朝起きるのが苦手な寝坊助主人公です
ペチペチ
ペチペチ
何かが顔をたたいてる。
薄目をかけると、何かが顔を覗き込んでた。
なんだこいつ。人の安眠を踏みにじりやがって。
殺気が出る。
と、寝ている場所が大きく揺れた。
目の前にいた何かもとび退った。
やっと目をきちんと開けると、キドナップバブーンのキドナが、ものすごくおびえた様子で馬車の隅にうずくまっていた。
なんだ。
今のキドナだったのか。
「・・・おはよう。こわくないからおいで。ベヒー、あなたになついているんだから、言い聞かせて」
少しも寄ってこようとしないキドナ。
まあしかたないかな。子供だし。
ベヒーが何かキドナに教えていたけど、どうでもいいか。
お昼ちょっと前だった。
今日もいい天気そうだ。
「ようやく起きたようだな。しかし、寝起きが悪いな。子供を脅かすものじゃない」
「脅かしたわけじゃないわ。ちょっと寝ぼけただけでしょ」
確かに起きてすぐは頭が働かなかったけど、そこまで怖い顔じゃなかったかと…
「殺気を放てばこの辺りの魔物なぞ逃げてしまうということくらい、自覚しろ」
「ああ・・・うん・・・」
そりゃそうか。
この辺りはザコしかいないのだし。
田園風景はいまだに広がってる。
田園があるということは人がいてもおかしくないと思ったのだけど、よく見ると枯れかかっているところが多い。
「休耕地?」
「捨てられた土地だ。おそらく魔物に襲われないようにと、森から離れたのだろう」
そうか。
確かに森が広くなればそこが魔獣の行動範囲。
一般人なんて、怖くて入れなかったりする。
森が広がるのがいいのか、畑が広がるのがいいのかはわからない。
ただ、どちらかが淘汰されていくのだろう。
「せっかくの王都なのにね」
弱い魔獣しかいないはずだ。
それでも確かに種類も数もいるかもしれないけど、そんなに脅威じゃないと思ってたけどなぁ。
メイちゃんがご飯の用意をしてくれたのでひとまずここで休憩。
寝て‥食べるが私の基本だ。
「この辺りが田畑ということは、近くに集落があるのかな」
「もう少し行けば小さい集落が見えてくるだろう。王都といっても、大きな町以外が小さい集落の集合体のようなものだ」
ほんとに、王都って何だろう。
「今日はそこによってみましょうか」
少しくらいはここの世界を堪能したいわ。
でもそうなると、使役獣たちは怖がられるわね。
キドナはありだとしても…
いや、ないか。
キドナップバブーンは人さらいの魔獣だ。
「みんな、集落によるから、おうちのほうに帰ってて?」
ああ、でも、キドナはまだ、プラント母さんにあわせてないわね。後、スライムにも。
運営さんもだわ。
一緒に行くか。
馬車から久しぶりのわが家へ。
距離が違うから場所も違う。
外は雨だった。
家の中に出るからいいけど。
キドナは初めての場所だからベヒーにつかまれたまま震えてる。
ベヒーにそのあとしがみついていた。
キドナの面倒を見るので、ベヒーが私の方に乗らなくなったのはさみしいわ。
「プラント母さんは外なのよね」
窓に顔を寄せると、プラント母さんの触手が窓のとこにあった。
雨宿り中か。
ウッドデッキにいるようだけど、おうちより大きいのだから入れないよね。
結構降ってるから、さすがの植物でも嫌なのかな?
「プラント母さん、新しい使役した子を紹介するわ」
窓を開けると、ベヒーがふよふよとキドナを連れていく。
キドナはがっしりベヒーにくっついている。
体を曲げたプラント母さんがキドナに目を合わせたとたん、キドナがダッシュで家の中に逃げ出した。
やはり無理だったか?
「ベヒーお願いね」
キドナを連れ戻してもらわないと。
と思ったら、触手が窓から入り込んで、伸びていった。
数秒もしないうちに、キドナが触手に絡みつかれて引き出された。
「プラント母さん、乱暴はしちゃだめよ。まだキドナは子供だから」
だからこその最初が肝心の、しつけなんだろうけど。
キドナが触手の檻にいれられた。
ベヒーは手を出さない。
シリウスもしーちゃんもだ。
あれはみんなの苦手なものだ。
顔の近くに持って行って、何やら言い聞かせているようだ。
キーキーないていたキドナも静かになった。
檻から出してもらえたようだ。
そのとたんに。キドナがプラント母さんによじ登った。
「キドナ!」
驚いていると、プラント母さんの触手が、大丈夫だと差し出された。
私は従魔の言葉はわからないけど、キドナと母さんは仲良くなったということでいいのかな。
心臓に悪いわ…
あとは運営さんを紹介して終わりなんだけど、運営さんを見たとたん、プラント母さんが平伏した。
・・・なんで?
「何者だかが分かったのだろう。魔のものとはいえ、日を浴び、水を吸い、植物として生きているものなのだから」
なるほど。
でもね、そんな平伏しているプラント母さんを滑り台のようにキドナが遊んでいるのよ。
どうなのよ、それ・・・
「プラント母さん、今度、母さんが雨宿りできる場所を作りましょうね。あまり雨が多いときついでしょ」
平伏をやめさせ、窓から見上げる。
なんだろう。
また成長したかな。
でもこのサイズは難しいかな。
プラント母さんの返事は、いらない、だった。
時々休める場所があればいいのだそうだ。
「キドナも、もうはいりなさい。濡れていると風邪ひくわよ」
外は雨なのに、子供ははしゃぐなぁ。
魔獣だって風邪ひいたらどうするのかしら。
デッキのところに卸されたキドナは、体から水を払う。私も魔法で乾かしてあげた。
「母さん、しばらくみんなを置いておくのでよろしくね」
手での返事だけはわかる。
プラント母さんは物分かりがいい。
それよりも、プラント種、増えてないかな?
この森、大丈夫かな…
私の使役獣ではないけど、母さんの眷属だから、私たちには何もないけど、この森にやってくる冒険者には危険になりそうだけどなぁ。
まぁいいか。
冒険て、そういうものだしね。
母さんに成長魔法かけて、紹介は終わり、使役獣のおやつとご飯を置いて、馬車に戻る。
まだ、ぽっくり、ぽっくり。
これで憂いなくいけるかな。
「プレイヤー自体が化け物としていわれているのに自覚ないのか」
「自覚ありますー。それを言うなら、運営さんだってプレイヤーとしてここにいるじゃない」
小さな集落じゃ怖がられるってことはわかっている。でも、だからと言って、行かないのじゃ何もできない。
まだまともにこの世界見てないんだし。
「もうすぐつきますよ」
シツジローくんの声がした。
集落。
楽しみだ。
そんなに長くないです。まだまだ続きます。




