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ワールド・ガイア  作者: 水野青色
21/281

21~森にだって通れる道はあるんだね~

くだらないトラブルは避けましょう。

宿というか酒場はもうにぎやかだった。

まだ夕方も早いよね?

そんなに早く飲みに来るものなのか…

私が仕事してた時は…飲み会なんていく暇なかったな。

あれはブラック企業の実態だったと思うよ。


そそくさと部屋に戻る。

大事なのは、からまれないことだ。


「で?何があったの?」


椅子に座って、お茶を飲みながら聞く。

どうせ大したことないんだろうけど、トラブルがあるならねぇ。

ウーマはおうちに帰らせたしね。


「ちょうど馬車馬を預けに来た貴族が、ウーマを譲れといってきました」


断ったそうだが、しつこかったと。

そして貴族に逆らうなら主人を呼べということらしい。


「無視して明日にはここを出ましょう」


面倒ごとはお断りだわ。

どうせ、馬車馬を預けるところには寄らなくてよくなったし。

道の途中ってわけでもないものね。

この宿でジューノさんたち待とうと思っていたけど、やめておいたほうがいいみたいだし。


「承知しました」


シツジローくんもメイちゃんも、出る支度を始める。


「もう出るのか」

「運営さんだけ残っててもいいよ?」

「いやいやいや、ひどいな。一緒に行くに決まっているだろう」

「でも明日から馬車なしだよ?大丈夫?」


って、私が大丈夫じゃないなぁ。この街出たら、ウーマを連れてくればいいかぁ。

運営さんは体力には自信があるそうだ。

当たり前か。


階下に降りると、受付は恰幅のよいおばさん。


「どうしたんだい」

「明日の朝にはもう出ますので」

「もうかい?まだ何日分も宿代があるじゃないか」

「返さなくていいですよ。急になのでご迷惑おかけしました」


よし。

これで明日の朝出発だ。

今から寝れば起きられると思いたい。




朝は早かった。

起きましたよ、きちんと。

朝市が始まった時間らしいけど、見ている暇はない。


中央に向かって歩く。

守衛長さんにも挨拶しておけばよかったなぁと思ったけど、仕方ないよね。

時間にして二時間ほど歩くと、だんだんと家がなくなってきた。

田園風景だ。

王都って、町ばかりだと思っていたけど、中央まで行くには何日もかかるらしいから、ここは大きいのだろう。


トラブルは避けられたと思ってもいいという感じだ。

まぁどこに泊まっているかとか、相手が誰だとか、お互いわからないと思うし。


人目の付かない場所で馬車を出す。

シツジローくんが中に入って、少ししたらウーマと一緒に出てきた。

ウーマをつなぎ、今度こそ出発だ。


王都の中では馬車の使用に速度制限がある。

伝令用の早馬以外は守らなければいけない。

ウーマには物足りない速さでも、ぽっくりぽっくりと歩かなければならない。

このまま田園風景が続くのかなと思ったら、森に入った。

大きな都には、どうやら森があるらしい。

地図を浮かべてみると、王都自体が、北海道と同じくらいある。

これなら森も田園風景も納得できる、

中央が遠いのも頷ける。


森の街道は、ところどころに魔物除けが施してある。

魔物がいるそうだ。

でもウーマがいるし、馬車の中には高レベルの使役獣がいるからなのか、魔物に襲われる気配がない。

中の魔物はそんなに強くないしね。


「街道から外れて、森の中で少し薬草とか取りたいわね」

「では、馬車はしまいますか」


ウーマを馬車から切り離し、馬車は空間魔法に収納。

言い聞かせたから、ウーマを含め、使役獣は走り去っていかない。

森にある街道を逸れ、森の中。

薬草をはじめ、キノコや果物などが結構ある。

手当たり次第にとると、このあたりのものが少なくなるので、自然を壊さないようにもらうものだけもらっていこう。

根っこごともらえば、家の庭で栽培できるしね。

でも、果物の木は、この木ごともらっちゃダメかなぁ。


「ねえ、運営さん」

「持って帰ればいいだろう。どうせいくつもあるものだ。一つくらいならいい」


私の考えも読んでたか。

それなら遠慮なく。


ズポッ


木の幹をつかんで、持ち上げると、いい音で果物の木が抜けた。

果物がいくつか落ちてきた。

リンゴ…に似た何か。

見た目はリンゴだけど、どうなんだろう。


「メイちゃん、むいて」


どこからかナイフを取り出してするするとむき出す。

ひとかけらをもらった。

毒などはなさそうだ。


シャリ…


「え?」


味がリンゴじゃない!

桃だ!


鑑定!


ピーチアップル

シャリシャリとした触感で甘い

子供たちのおやつに大人気だが、最近はあまり取れる木が見つからない


そのままだ。

桃なのかリンゴなのかわからないけど、リンゴだ。

パイにしたらおいしそう。

それよりも、見つからないって。

ここにこんなに生えているのに?


「魔獣が出るからな。森の街道から中に分け入るのは冒険者だけだろう。この辺りは子供をさらうサル系の魔物が出る」

「子供をさらう?さらってどうするの?」

「子供の肉のほうが柔らかいから食べるのだろう」


さらっというけど、そういう生き物作ったの、あなただよね、運営さん…


<魔物だけじゃない、すべての生物には自然進化するように設定されている。その進化過程で何が起きても不思議ではない>


そうだけどさ…

確かに、魔物を倒すなら、倒すほうもやられることを考えないといけないよね。


「サルか…」

「どうしました?お嬢さま」

「サルの魔物って、あれかなぁと思って」


今抜いたばかりのピーチアップルの木に、二匹の猿っぽいものがくっついている。

私の知っているニホンザルじゃないなぁ。

マントヒヒみたい。大きいのと小さいの。

小さいほうが大きいほうにくっついて、おびえているな?


「キドナップバブーンだな。ふむ。使役獣たちにおびえているのだろう」

「キドナップバブーン?・・・ああ、いたね、そんなザコ」


レベルで言えば10くらいで、下級から中級冒険者が依頼を受ける魔物だ。

ただし、集団で行動しているので、倒すのには時間がかかる。

巣には上位種もいるのだ。


「逃げていいよ、倒さないし」


声をかけると、大きいほうのサルがお辞儀して小さいほうを抱えて去った。

木の上からとかなら索敵しやすそうだけど、きっと親子だろうしね。

使役したくないな。

鳥の魔物とかならいいかなぁ。


猿もいなくなったし、木を収納する。

おいしいパイを焼いてもらいたいし、落ちた木の実もきちんと回収。

またしばらく採取して、街道に戻った。


「森の中なら、少しくらいスピード出しても気づかれなさそうだよね?」

「少し先に人が乗っている馬車があるぞ。追いついたらおかしいだろう」

「確かにそうだけど…」


もうこの森には用がなさそうだしなぁ。


「む?襲われているな」

「え?なになに?」


ワクワクしちゃう。

何が襲ってきたの?


「この馬車が襲われるわけないだろう。前を行く馬車が先ほどのとは違うキドナップバブーンに襲われているんだ」

「え?子供が乗っているの?」


子供さらうんだよね?


「子供が乗っていなくても、食料品などを目当てに襲うし、子供のみじゃないからな。魔物除けがきちんと効いていなければ、街道に魔物が出現する。だからふつうは護衛を雇うんだ」

「そんなことどうでもいいから、助けに行きましょう。シツジローくん!」

「はい!」


何を言ったのか、ウーマのスピードが上がる。

数分もしないで、前の馬車に追いついた。


「シリウス、しーちゃん、ベヒー、先に行って」


馬車から三匹を下ろし、私も降りる。


前のほうでは、数十頭といえるキドナップバブーンがいた。

馬車を襲っている。

馬車の周りでは、護衛の人たちが戦っているけど、さすがにサルのほうが多いな。


「アオーン!」


シリウスが一声。威嚇だ。

キドナップバブーンが動きを止める。護衛たちもだ。

当たり前か。

この辺りで入るはずもない魔物である銀狼が、自分たちの間に現れたのだから。

どちらも数歩引く。

動かない。


「シリウス、しーちゃん、ベヒー、死なない程度にやっちゃって」


私の指示で、キドナップバブーンを蹴散らしていく。

動きが停まっていたキドナップバブーンも、急いで反撃してきた。

だけど、あんなザコじゃ、うちのコの相手になるわけない。


ふと見ると、馬車のほうに一匹のキドナップバブーン。

何か抱えてる。

・・・子供?


とっさに剣を抜きはらう。

抜きはらった時の衝撃だけで、子供を抱えてたキドナップバブーンが真っ二つだった。


「またつまらぬものを切ってしまった」


某剣士のように言ってみるけど、だれも反応なかったよ…


子供は、キドナップバブーンだった。


思考が一瞬止まりかけたけど、すぐに戻った。

この人間たちがキドナップバブーンの子供をさらったんだ。

そのせいで、仲間意識の強い集団だから取り返しに来たんだ。

この子供を抱えたのは取り戻しに来た親だったのだろう。

なのに・・・

切り殺してしまった。

手加減できればよかった。そうすれば治して子供と一緒に群れに帰してあげられたのに。


「運営さん…」

「見えにくかったのだから仕方ないだろう。全部が助けられるわけじゃないんだ。それはわかっているだろう?」


わかってる。

運営さんは神様だから、全部平等の命。

助けようといったのは私で、その時点でどちらかが犠牲になるのもきちんとわかってた。

でも・・・


「メイちゃん、シツジローくん、この人たちを捕まえるのを手伝って」

「「はい!」」


数分もしないで、馬車の者たちを捕まえた。

猿轡をかませ、手足も拘束する。


キドナップバブーンは、動けないものばかりだ。

キドナップバブーンの上位種っぽいのが群れのボスだろう。


「あなたが群れのボス?私たちの言葉わかる?」


群れのボスに語り掛ける。

魔物でも上位種になると人間の言葉を理解するものがいる。

うなずくキドナップバブーン。


「あなたたちを動けるように治すから、何もせずに巣にお帰り。あの仔の親を倒してしまってごめんなさいね」


うなずくキドナップバブーン。

理解したようだ。

中級ポーションで治すと、キドナップバブーンの群れは、森の奥に去っていく。

ボスらしきものも、子供のキドナップバブーンを連れて帰る。


今度はこの馬車の人間たちだ。


「このままここにおいてったらどうなるの?」

「先ほどのキドナップバブーンはもう来ないかもしれんが、この辺りは魔物除けが薄くなっているし、この馬車自体、魔物寄せの香を焚いているから、ほかの魔物が来るだろう」

「そうなの?それならそのままにしておけばいいかな?」

「助けないのか?」

「魔獣とはいえ誘拐犯を助ける義理はない。拘束だけといて、あとは自力で戻ってもらうわ。」


馬はかわいそうだから、もらっていこうかな。

馬車はいらないなぁ。

この中にはもうほかに魔物もいないようだし。


シツジローくんが、猿轡を外していく。


「たすか・・・いや・・商品が・・・」

「命とどっちが大事か考えてから言葉にしてほしいわね。何なの、あなたたち」


奴隷商と同じ、従魔を売買している商人がいる。

赤ん坊や子供の従魔をさらって、しつけて、テイマーや道楽主義の金持ちに売るのだ。

道楽主義の中には、その獣と奴隷を戦わせて笑っているような胸糞悪い奴らもいる。

ゲームの中ではそういう者たちは処罰対象。イベントではなく、無限わきの魔物と一緒だった。


「命があるだけよかったと思ってほしいわね。そうでないならこのまま置き去りだわ。馬車は、馬が襲われたらかわいそうだから、馬は逃がしてあげるわね。あなたちは歩いてこの森から出なさいよ。…この魔物寄せのお香も、服に焚いておいてあげましょうか?」


にっこり笑うと、なぜか馬車の持ち主?と護衛らしきものたちが引きつった顔をしている。

無益な殺生をさせた罪を思い知れというのよ。


「す・・・すみません、この商売をやめますから、どうかご勘弁を」

「一度や二度、死にかけたからって、甘いんじゃないの?あんたのせいで、あのキドナップバブーンの子供は親を失ったのよ!」


いまだに馬車のそばでまっぷつのキドナップバブーン。

子供は追いすがって泣いていたけどボスに連れていかれた。

せめて毛皮だけでも持って帰ってほしかった。


「埋めてあげて、弔ってから、森を出なさいね。このお香も、処分するから」


馬車についている香を外し、魔物除けの香を入れる。

ほんとに、魔物商とか奴隷商とか、ろくでもなさそうね。


「もういいのか?」

「いいわ。手の拘束外せば自分で足は外せるでしょ。もう行きましょう」


馬車に乗り込み、出立する。

気分悪いわ。


「お嬢さま、先ほどの木の実で、何かおつくりしましょう」


むすっとしてたら、メイちゃんがやさしく話しかけてくれた。

なんて優しいお姉さんでしょう。


「パイが食べたい」

「承知しました」


この馬車の中では作れないから、拠点に戻って作ってくるらしい。

確かにここでは作れないものも、家だったらできるし、いつでも帰れるものね。


森の出口に差し掛かった時、ウーマが停まった。


「お嬢さま、先ほどのキドナップバブーンが・・・」


シツジローくんの言葉に外をのぞくと、ボスが先ほどの仔を連れてきていた。


「どうしたの?むれと巣にかえったんじゃないの?」


ボスがこどもを差し出してくる。


「まさか使役しろというの?」


その言葉にボスがうなずく。


<このキドナップバブーンの子供が、アイリーンについていきたいと願ったそうだ>


そうなの?運営さんは言葉がわかるのか。


「ほんとにいいの?」


キドナップバブーンのボスがうなずき、子供もうなずく。


「わかった。預かるね。ごめんね、ありがとう」


受け取った子供は小さい。

ベヒーがひょいとつかむと、馬車のほうに飛んで持って行った。

今のベヒーより大きいのになぁ。


キドナップバブーンのボスは静かに去った。

私たちの馬車も、ゆっくり走りだす。


新しい仲間をのせて、馬車が森を抜けたころには、もう夕方になっていた。

もう少ししたら、ここに馬車を置いて、野営だ。


「あなたの名前は何にしようかなぁ」


持ち上げるとうれしそうだ。

ベヒーが運んでくれるのがうれしいようで、ベヒーとべったりだ。


「キドナにしようかな」

「相変わらずのネームセンスだな・・・」


なんだかあきれた声がしたけど、キドナに決定。

身分証にもいつの間にかキドナップバブーンが使役獣に追加されていた。

何この便利なカード。


「お嬢さま、パイが焼けましたよ」


焼きたての桃リンゴパイと、新しい仲間に乾杯だね。


晩御飯も用意されてたし、今日はゆっくり寝よう。


「おやすみなさい」

「おやすみ」


いやなこともあったけど、かわいい仲間ができた。

明日は起きられるといいな。























まだまだ続きます。

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