15~王都までの道 その3~
ジューノさんたちとお別れです。起きてますよ。
起きましたよ。起きられましたよ、皆さん。
って誰に語っているのか自分でわけわからない突っ込みも入れるけど、町の手前で起きられました。
最近早起きじゃない?
このまま普通の生活ができるといいのだけどね。
夕方前とか言ってたけど、ほんとに早かった。
あっという間についた感じ。
ウーマは町に入るよりだいぶ手前で減速して、ここはまだ町が見えるけど人からは見えない位置だ。
外に出て、無事だったジューノさんの馬車を出す。
荷物もそのまま入っているし、馬をつなげればいい。
ついでに盗賊たちも、そちらの馬車につなげる。
馬がゆっくり歩けば、つながれた盗賊たちも冒険者さんも、歩いていくことができる。
「ここでお別れですが…、盗賊のことは本当にいいのですか?」
「いいんです。別に何か求めているわけじゃないし、そちらで処理していただいたほうが後々面倒なことがなさそうですからね。」
盗賊を引き渡した後の、何か手続きをやるのがほんといや。
事務処理なら勝手にやっててほしいものだし。
私は先を急ぎたい。
おいしいごはん生活のためには、くだらないことなんてやっていられない。
「それでは、失礼させていただきます。何のお礼もできませんでしたが、王都に行ったら必ず店にお寄りください。中央には店を構えられない若輩者ですが、それでも、門番街では一番を誇ります。門番にでも『ジューノ雑貨店』と伝えてくだされば、道を教えててくださいますから」
「わかりました。ありがとうございます」
門番街か。知らない名前だ。
王都の区画の一つかなぁ。
ほかにもきっと店はあるだろうし、色々見てみたいなぁ。
ジューノさんたちが去るのを見送り、馬車に乗り込む。
さて。
このまま王都まで行くか、もう少し先で野営するか…
ウーマなら、暗くなる前につきそうな気がするのだけどね。
でも夜は門を閉ざすとこも多いと聞いたから、王都だと入れないよね。
「ねぇ、シツジローくん」
「はい、お嬢さま」
「夜は王都に入れないと思うの。そういう時はどうすればいいと思う?」
「王都には、門が閉まる前に入れなかった方々で、専用の野営地ができているそうです。そちらにひとまず泊まることになります。」
「そんなのあるんだね。それじゃ、そうしよう。」
行先は王都手前の専用野営地だ。
あまりにも人が多そうなら、もう少し離れたとこで勝手に野営してもいいだろうし、むかってみよう。
馬車がゆっくりと動き出した。
間もなくトップスピードなんだろうけど、揺れはない。
中で冒険者さんたちがいた分の片づけなどをメイちゃんがせっせとやっている。
いなくなった分だいぶ広いから、その広い部分になぜかテーブルといすを置いていた。
どうやら夕食の準備らしい。
中で火が使えないからか、昼食時には作っていたそうだ。
馬車はウーマに任せ(といってもほとんどウーマの意思で向かってもらっているんだけど)、シツジローくんも中に入ってきた。
みんなでご飯だ。
ウーマは食べるよりも走ることのほうが好きだから、着いたらご飯あげることになる。
食べて、一息つくと、眠くなる。
クッション…
<食べて寝てばかりだと、いくらドールと同じ体でも、太るぞ>
突然の声。
久しぶりの運営さんだ。
何よ、もう。
こちらが話しかけても反応なかったくせに。
<忙しかったんだ。しかしようやく準備ができた>
準備?なんの?
<君のサポートのために、そちらにおりる>
は?
何言っているの?
降りるって何?
運営さん、この世界の神様でしょ?託宣でもする気?
<ようやくアバターができたから、君と同じプレイヤー国出身者として、世界に降りるんだ。大丈夫だ、君より常識を持っている>
失礼な。
おじいちゃんが来たって、祖父連れで冒険とか、笑われるんですけど?
<誰がおじいちゃんだ!あれはゲームの中だけだといっただろう>
確かに言っていたけども。
でもアバターなら、あのおじいちゃんでしょ、NPCの。
<年寄りでも若い頃ってあるんだ>
自分で認めているんじゃない。
それで?
いつ来るの
<すぐに行ける。野営地にもうつくだろうし、その前に帳尻は合わせておこう>
馬車の中に光が走った。
私だけじゃない。メイちゃんもシツジローくんも驚いている。
シリウスとしーちゃんとベヒーは殺気立って臨戦態勢だ。
その殺気で、外のウーマがいなないた。
慌ててシツジローくんがウーマを停まらせている。
馬車の中で臨戦態勢だった従魔三匹が、少しおびえている。
立っていたのは、20代前半の、私とそう変わらないくらいの若い人だった。
すらりと背の高い、黒髪の青年。目の色がオッドアイらしく、確かにおじいちゃんの面影がある。
「驚かせたか、すまない」
「運営さん?」
NPCではいなかったな、こんな人。
「そうだ。この世界用のアバターだ。まだ自己紹介してなかったな。デュースだ。この世界では、プレイヤー国出身のデュース・ガイアードと名乗る。身分証も作ってきた」
「運営さん・・・じゃない、デュースさん・・・」
いいにくいな。
「君からの呼び名は今まで通り、運営さんでいい。あだ名と言いうものとしておこう。後、今まで通り、念話も使えるので心配しないように」
ほんと?
それじゃこのほうが楽じゃない。
<楽とは何だ。何かの時に合わせるためのものだろう。ほかのものには聞こえないので大丈夫だ。君のことはアイリーンと呼ぶ。私と君は同じ国の出身で幼馴染としておこう。ともに旅をしているという設定だ>
わかった。
そりゃそうよね。
急にプレイヤーが二人も現れたら、周りも困るわよね。
でも、ジューノさんにはなんて言おう。
「王都で落ち合う約束をしていたといえばいい。アイリーンの後をおって来たといえばいい」
思考に対して、言葉にする。
急にやめてほしいわ。
「急に黙ったから、周りも不審な表情だろう。今までは姿も見えなかったから、気にもされていなかっただろうが、今はこうして顕現しているのだしな」
確かに。
それに説明しないとね。
いつの間にか従魔は、運営さんを畏敬の目で見つめてる。
やはりわかるのだろうし。
みんなに説明。
彼が神様で、一緒に旅する仲間になったことを。
納得できなくてもしてもらわないとね。
私は納得できてない部分もあるけどね。
「お嬢さま、出立できそうです」
外でウーマをなだめていたシツジローくんが中に入ってくる。
そのシツジローくんにも説明。
驚いていたけど、すんなり受け入れてる。
「ドールだからな」
なんだそれ。
ウーマにけられちゃえばいいのに。運営さん。
「ほんとに君はひどいことを言うな」
言ってないし。
思考に乗せただけだし。
「シツジローくん、出発して」
馬車は、専用野営地へと進む。
眠気は冷めたし、しばし運営さんと歓談だ。
ちょっと短いですが、主人公寝ないで終わりました。




