137~仕方ないこと~
お読みいただきありがとうございます。
居眠り女主人公、ダンジョンに入りました。
ようやくです。
馬車は大平原を緩やかに走っている。
緩やかっていっても、ほかの馬車の数倍。
ウーマのスピードでは半分くらいかもしれない。
本当は早く走りたいようだけど、今はこのままで。
目の前の紅茶をすすって、ほっと息をつく。
お菓子もおいしい。
「ああ、穏やかね」
これがダンジョンの中だなんて考えられないわね。
馬車のあちこちからうめき声や、外から魔獣の悲痛な叫びが聞こえるけど、関係なし。
私は先ほど起きたばかりよ。
二日ほど前、ダンジョン攻略のため、私たちは、昼頃には洞窟の前にいた。
私たちのパーティは、私、ちょうど直前に帰ってきた運営さん、メイちゃん、シツジローくん、シリウス、しーちゃん、ベヒー、王様と王妃様のリアさん、サカイ様とスズランだ。
結構な大所帯。
その見送りに、ジャムさんとクロークさんとエイトが来てた。
ダンジョンの洞くつに入ったとこまでが見送りだった。
ダンジョン洞窟は、転移ダンジョンだったからだ。
洞窟の奥に、転移陣が描かれていた。
お互いに触れていて、魔力を流さなければ、ばらばらに飛ばされてしまうというダンジョンだ。
ゲームの中にはよくあった。
なので、みんなで手をつないで、魔力を流した。
その時だった。
「やっぱり俺も行きたい」
消える寸前だったと思う。
エイトが飛び込んできた。
誰かに触れたのだと思う。
少なくとも私じゃなかった。
気が付いたら、エイトも一緒にこのダンジョンの大平原に転移していた。
「エイト!なんてことするの。危ないでしょ」
「ううう・・・ごめんなさい」
ついてすぐ、エイトがいたのを確認しておこる。
もし誰にも触れていなかったら、エイト一人、どこに飛ばされているかわかったものじゃない。
いくら冒険者になったからといって、まだ見習いだ。
危険な場所に入り込まないでほしい。
「無鉄砲さはししょーゆずりなんじゃない?」
「スズラン!転移ダンジョンのことは、入る前に説明したでしょ。なのに・・・」
「ごめんなさい、ねーちゃん。俺も行きたかったんだ」
「もう来ちゃったからには、帰れる時が来るまでは帰れないし、仕方ないわね。・・・ほら、ほかの人たちにも謝って」
もう来てしまったものは仕方ないものね。
弟のビートのほうが無鉄砲だと思ってたけど、やはり兄弟なんだわ。
エイトが誤っている間に馬車の用意。
シツジローくんが、ウーマに馬車をつなげてくれた。
馬車は車輪がないけど、収納式ステップはついているので、それで中に上がってもらう。
「これは・・・・」
「私の魔法で広く作っているだけよ。王様とリアさんは、こっちの部屋ね。サカイ様とスズランはこっち。私たちはここの部屋。エイトもうちの部屋よ」
キッチンや風呂トイレも案内して。
これで出発できる。
シツジローくんは御者台。
シリウスとしーちゃん、ベヒーは、外にいる。
ウーマと並走するそうだ。
私はもう眠さが半端ないので、寝る。
部屋に戻って、ふかふかクッション。
ほかの説明はメイちゃんがやってくれるはずだから、ゆっくり寝よ。
おやすみ。
で、二日経った今に戻る。
先ほど起きた。
なぜか周りからうめき声がする。
ゾンビでもいたのかと思ったら、どうやら、エイトたちらしかった。
「何が起きたの?」
「うん。ウーマたちが魔獣を散らしただろう。その影響だ」
紅茶を飲みながら運営さんが答えてくれる。
出発してから、平原とはいえ、ダンジョンだ。
見えているところにも見えないところにも魔獣が潜んでいたらしい。
それを片っ端から、ウーマは踏みつぶすし、シリウス、しーちゃん、ベヒーも、攻撃して倒していったらしい。
ドロップアイテムは、馬車に乗ってそれに気づいた運営さんが、馬車に引き寄せの魔法陣を描いたそうなので、そこに引き寄せられ、四方にマジックバッグをくっつけて、その中に収納するようにしてみたそうだ。
そして、その経験値が、パーティメンバーには振り分けられるのだけど、エイトはパーティ登録していない。
つまり、全員分の経験値が一気に入ってきた。
最初に倒れたのはエイトだったそう。
レベル低いしね。
次はスズランで、リアさん、サカイ様と王様の順だったという。
つまり、レベル酔いだ。
急激なレベルアップに、体がついていけなかったということだ。
効き目は少ないけど、特級ポーションを飲ませ、寝させているそうだ。
まあ仕方ないよね。
私たちなら関係ないけど、みんなは二けただものね。
エイトなんて、まだ一桁だったしねえ。
体が慣れるまでは、このままだと思う。
「でももう二日経つのに、次の転移陣はまだなのね」
「ずいぶん広いようだな」
ほんと広い。
転移陣には独特の魔力があって、そこに向かうようにウーマには指示しているから、進行方向は間違ってない。
なのに二日経ってもまだ次に行かないなんて。
なかなか嫌なダンジョンに入り込んだようだわ。
「まだ半分ほどかな。・・・レベリングも、一定の数値になったら大丈夫よね」
「最初に起きるのはあの王とサカイだろう。エイトはかわいそうだが一週間はうなされるかもしれんな」
ちらりとクッションのほうを見る。
うなりながらも寝ているエイトは、ずいぶん苦しそうだ。
まあ仕方ない。
みんなが起きられるころには次の階に行けるかなあ。
ダンジョンに昼夜があるのは驚いたけど、もうすぐ日が暮れるし、ここで野宿だわ。
ああ、メイちゃんのご飯が楽しみ。
お読みいただきありがとうございました。毎週水曜日更新しています。
誤字脱字報告、評価も、いつもありがとうございます。
不定期連載で、違うお話も書き始めました。興味があったら読んでみてください。
「追放王子と生態系調査人」
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