110~二年目の夏~
いつもお読みいただきありがとうございます。
稲むいろんな主人公、最初のほうは寝てます。
季節変わりました。
今回長文になってしまいました。
布製。
スライムグローブ、作っていく。
編み物じゃないよ?
回数無制限が作れるようになればほんと楽なんだけど、やっぱり、運営さんじゃないから、作れないんだよね。
劣化品になっちゃう。
それでも数作れば、何回でも使えるわけで。
使い切る前に自分たちで作れるようになってくれるといいよね。
ちなみに、スライムの核を取るので一回、という回数制限じゃなくて、はめて取る、の行動で一回なんだよね。
だから、300回くらい使えるのは、三百匹のスライムから核を取ると壊れるのではなく、取りに行くときにつけて、外したら一回を、三百回繰り返されるわけ。
それができるくらいまでスライム核石を取って使うようになれば、錬金術師として一人前になるから。
このプラム郷のみんなが、錬金術に向いているとは限らないけど、基本は知っていてほしい。
技術だけでも継承されて行ってほしいから。
指の形だけある手袋型を、ミシンで縫う。
手縫い?
そんなのは面倒だから。
手縫いしないといけないのは、魔法陣の部分だけ。
だから、メイちゃんとシツジローくんにも作ってもらう。
飽きてきたな。
魔法陣を刺繍していくのが。
これだけは、ミシンではできないんだよね。
刺繡ミシン、どんなものだったんだろう。
私は使ったことがないから、テレビのコマーシャルでしか知らないし、大体それがこの世界にはないのは知っているし。
このミシンだって、私の記憶になるものだからな。
「お疲れ様です、一息入れましょう」
メイちゃんがいつの間にかお茶を持ってきてくれた。
けっこうな時間がたったようだ。
外を見るとすっかり暗い。
「ごはん食べてない」
作業に夢中になって、朝食も昼食もおやつもしてなかった。
でもようやく、このプラム郷分が終わりそう。
あとは、ギルドができたら、スライム核石を冒険者に持ってきてもらううための依頼で、貸し出すくらいかな。
もちろん返されることが条件だな。
その分も少しずつ作っていかないとね。
「今日は誰も来なかったのね」
伸びをする。
関節がぽきぽきなってる。
疲れたー。
「お嬢さまが作業中だということで、皆様には来ないように伝えておきました」
さすができるシツジローくんだよ。
根回し早い。
「ごはんにしますか?」
「うーん・・・いいや。お風呂入って寝るよ」
疲れたし、ご飯より休みたいな。
起きたら、ちみっこたちともなって、森に行くかな。
ついでに、スズランとジャムさんも連れて行こう。
夏になる前にギルドが完成してほしいな。
・・・夏にはまたあれが出てくるし。
目が覚めたら、夏に入ってた。
おかしいよね。
そんなに寝ていた覚えないんだけど。
私が長く寝ていたせいで、プラム郷ではなく、拠点の寝室だった。
乾季がすぐに来てくれれば、まだ時間あったのにな。
この世界の季節がよくわからないわ。
久しぶりに訪れたプラム郷には、なぜかサカイがいた。
プラム郷の家にだ。
「なんであんたがいるの」
「祖父やミュゲが帰っていったからですよ」
え?
帰っちゃったの。
残念。
「ギルド作るのに、職人も連れてきました」
職人さんたちは、宿に泊まっているらしい。
ただ問題があって、このまま進めるのは、というところがあり、私が起きるのを待っていたのだとか。
「何があったの?」
「実は、ここの宿に泊まった冒険者が問題を起こしまして・・・」
冒険者には様々な種族がいるが、王都の冒険者は、人間至上主義のものも少なくないそうだ。
その一部の冒険者が、よりによって、スコップで遊んでいたナナに目を付け、奴隷としてさらおうとしていたそうだ。
ジャムさんとシツジローくんで対応したそうだが、住民たちがこんなことがあると、と、冒険者ギルドができるのをよく思わなくなってしまったそうだ。
確かに、そんなことがあると、冒険者が増えるのもよしとしない。
ちなみにその冒険者は、サカイが来たときに、直ちに本部に連絡して、冒険者資格はく奪と犯罪者としての投獄が行われたそうだ。
「ううーん・・・、会議所にみんなを呼んでおいて」
「かしこまりました」
住民の気持ちもわかるけど、ギルドもあったほうがいいんだけどな。
宿の仕事じゃない住民が集まってた。
子供たちも集まっている。
ナナは怖かったショックが長引いていて、母親にべったりだ。
外にも出たくなかったかもしれない。
「みんな、話は聞いたよ。ギルドの召還に待ったかかっているってことも」
「こればかりはなあ、お嬢さまでもなあ・・・」
「わかる。ナナが狙われたんだってね。そんなことがあったら、このプラム郷の中に入れたくないよね」
「子供ってのは、ここでも大切にされるべきものなんだよ」
「うん。・・・ギルド作りをやめてもいいよ。今までと変わらないだけだよ」
こればかりはね。
ここの住民のみんなが、不安な顔だもの。
もう、作りたくないに傾いちゃってるようだ。
「宿は料理がおいしいからって、来てくれる人がいるかもしれないけど、でも、いつまでも泊まってはくれないだろうし、ギルドがないから換金できないから、冒険者もほぼ来ない。今、宿屋で稼いでいる分は、この集落の税金でなくなっている。ジューノさんへの資金が無くなったら、今までのようには食糧支援が無くなるだろうから、少しでも税金とともに稼がないといけないけど、でも、ギルドができて冒険者がやってくるほうが嫌でしょう?」
ジューノさんに渡してあるお金は、このプラム郷に人が増えたら、10年どころかもっと少ない年月で終わる。
それまでには、この集落をどうにかしたいけど、やはり無理なのかな。
私には人を取りまとめることなんてできないし、新しい人は、ジューノさんやサカイ様を頼って、ほかのところに行ってもらうのがいいのかもしれない。
みんな何も言わないな。
もともとはこの集落はゆるゆるとなくなっていく場所だったのだから、仕方ない話なんだよね。
「アイリーンはさ、どうしたらいいと思うんだ?」
「ジャムさん、私はね、この集落からいずれはいなくなる人間だよ。プレイヤーだからね、明日にでもいなくなるかもしれない。それはみんなわかっているでしょう?だからせめて、みんながこの集落が残れるかもしれない未来を提示しただけ。それが無理だっていうのなら、わたしからは何も言えないんだよ」
ほかに考えるのは、集落の人たちに任せたい。
私はお金を出すだけだ。
「おじょーさまは・・・いなくなっちゃうの?」
ずっとおびえていたナナが、こちらを向いている。
「いなくなるよ。私は世界を見るためにこのワールドに来た。プレイヤーの世界はね、この大陸だけじゃないんだよ」
私たちにはいくつものワールドがあって、このガイアは、基本の場所でもあるから。
運営さんと相談して、ほかのところに行くこともできるから。
「おじょーさまがいなくなったらどうなるの?」
「いなくなっても変わらないよ。今までだって、必ずいたわけじゃなかったでしょう?」
「おじょーさまがいなくなるのやだ」
「ナナ、ありがとうね。でもここは、ナナたちが大人になった時にはもうないのかもしれないんだよ」
「どうして?」
「人がいないからだよ。もしまた誰か新しい住民が来ても、受け入れられなくなってしまうかもしれないし、旅人や冒険者が来ても、住民は歓迎できないかもしれない。また怖いことが起こるかもしれないからね。そうしたら、だれも来なくなるでしょう」
「だからなくなるの?」
「そうだよ。ナナが大きくなったときは、違うとこで過ごしているかもしれないね」
もうそれでよいかなと思う。
王都中央部に行くまでに、あまり集落がないのも、すたれて消えていったからだろうし、違う場所が栄えているのかもしれない。
大体、王都なのに広すぎるんだ。
「・・・あ、あの・・・」
ダンゴローさんだ。ずっと何か言いたげだったけど、黙っていたし、マークもずっと下向いてたな。
「自分たち獣人が皆さんに迷惑かけるのは本意ではありません。なので、我々が出ていくほうが、この集落にはいいと思うのです。・・・ナナのことがあってから、妻や息子とも話し合いましたので」
「もし出ていくとして、どこに行く気なの」
「もともとの暮らしに戻るだけです」
もともとの暮らし。
最低なスラムじゃないの。
「馬鹿なこと言っているんじゃないよ、ダンゴローさん一家は、もうここの住民だ。住民追い出そうなんてわしらは思わないよ」
「そうですよ。ナナちゃんは、私たちにいつも笑顔くれてね、いい子じゃないの。守らせてほしいのよ」
プラム郷のおじいちゃんおばあちゃんは、死にかけたもの、死んでいったもの、数年で失ったものが大きいからね。
「で、ですが・・・」
「ナナはここにいたい。うぇーん」
「ボクもここにいたいよ・・・」
私としてもここにいてほしいけどな。
「子供の言うことが優先じゃ。ダンゴローさん、遠慮せずここに住んでておくれ」
「そうよ。ナナちゃんもマークくんも、せっかくここになじんだんだから、いてほしいわ」
おじいちゃんおばあちゃんたちが次々いう。
ほんといい人たちだ。
だからこそ、私が現実を突きつけて悪者になるんだよね。
「で、どうする?」
「僕は!プラム郷で冒険者になりたいから、冒険者ギルドがあるといい!」
「オレも!」
「ボクも!」
ビートもエイトもマークも、ここで冒険者になってくれるのか。
「ナナもぼうけんしゃになる」
うん。
やめておこうね。
危ないし。
「ナナは危ないよ?」
「ナナはおおきくなったら、メイおねーちゃんみたいになるの」
ん?
「おいしいおりょうりつくって、おじょーさまにたべてもらって、いっしょにぼうけんいくの」
何この子。
いい子だわー。
かわいいわんこだからね。
あ、オオカミだったな。
「だからここにいたいの」
ああ、癒されるわ。
だけど、現実問題、さらわれそうになっている。
ナナは守らなければいけない存在だし、今、この時点で、ギルドの話は流れると思う。
「プラム郷の冒険者になりたいか・・・」
ジャムさんがため息ついている。
「だがな。ここにギルドができなければ、それは無理なんだよ」
「作ってよ、ギルド。そしたらなれるんでしょ?」
「だがこの前のような奴が来る可能性も高いんだぞ」
住民の集落じゃなく、宿の近くで遊んでいた時のことだったようだ。
「極力宿のほうには寄らせないとか、住民以外は住宅のほうによらせないとか、できないの?」
「そこまで人員が避けないだろう」
「垣根に頼んでよ、ジェヌさん!」
「何言っているんだ?垣根に頼むって・・・エイト、そんなことできるわけないだろう?」
「できるよ」
私が口出す。
そんなの簡単だ。
垣根を広場の周りに植えてやればいいだけ。
あの垣根は言い聞かせればできる。
「ナナもむこうがわにはいかないよ」
「ほら、ナナもこう言っているし、いいだろ。おじいちゃんが子供の意見は優先だって言ってたじゃないか」
揚げ足を取るのは、もう子供じゃないぞ、エイト。
「わかった。・・・なあ、アイリーン。何かいい方法ないか?」
「ない・・・こともないけど、宿で働いている人たちの意見も聞いて、それで作ることになったら言う」
もう、ギルド召還にはそれしかないだろうから。
「わかった」
集落の人たちも子供の意見を優先するようだし、これで一応解決かな。
ナナは怖がらせちゃったけど、大丈夫なのかな。
メイちゃんがいろいろフォローしてくれてたみたいだけど。
まだまだ問題が多そう。
暑い夏はこれからなのに。
頭が回らないわ。
お読みいただきありがとうございました。毎週水曜日更新しています。
誤字脱字報告、評価も、いつもありがとうございます。
不定期連載で、違うお話も書き始めました。興味があったら読んでみてください。
「追放王子と生態系調査人」
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