11~ポーションは高いもののようです~
おやつタイムで、グダグダ。まだ集落には尽きません。
目覚めたのは、揺られている幌馬車の中だった。
わかっている。
翌朝に起きなかったんだね、私。
ほんとによく寝る体だよ…トホホ・・
シリウスのモフモフした体と、しーちゃんとベヒーも一緒に寝ている状態だ。
クッションは、私たち独占状態だ。
メイちゃんは、シツジローくんと一緒に御者台にいるようだ。
「んんー」
伸びをした声で、気が付いたようで、メイちゃんが中を覗き込む。
「お目覚めですか、お嬢さま」
いつもの、目覚めたときのセリフだ。
「・・・うん、今って、いつ?」
「お昼過ぎにございます。ジューノさまの馬車に合わせておりますので、ゆっくりと集落に向かっているところでございます」
そうか。
そういえば、道連れがいるんだった。
もうしばらくしたら休憩に入るという。
それまで寝ていようかと思ったけど、また起きられないと困るから、起きておこう。
「おなかすいたな」
「では、お茶休憩にでも致しましょうか」
メイちゃんがシツジローくんに声をかけている。
ウーマがゆっくりと停まった。
頭のいい子だ。
外でも同じように馬車が停まる音がするから、ジューノさんたちも止まったのだろう。
「ジューノさまがたにお声をおかけしてまいります」
一礼をしてメイちゃんが去る。
外に出ないといけないよなぁ・・・
水魔法で、小さい水の球を作り出して、顔を突っ込む。
洗顔終了。
近場に置いておいたタオルでふいて、髪の毛も整える。
ああ・・・お風呂入りたい…
せっかく家ができたのに、また入浴しない生活だよ…
服装を整えて外に出たら、テーブルセットが出てた。
メイちゃんが優雅にお茶を入れているところだ。
お茶のお供はスコーンだった。
「アイリーン殿、おはようございます」
「おそくなりまして、すみません。朝が苦手なものですので」
お互い余分なことは聞かない。それが社交辞令というものだ。
「お茶休憩にするところでしたので、どうぞ」
椅子をすすめる。テーブルと椅子をほかにも出して、護衛さんたちにもだ。
座れば、メイちゃんがお茶を出してくれる。
スコーン、おいしいよねぇ。紅茶に合うわ。
森の中はほんとにいろんな植物があるようだ。
メイちゃんが炊事スキルでいろいろ料理してくれるし。
「「うぉー、うまーい」」
野太い声が聞こえた。
護衛さんたちがスコーンやお茶に感激したらしい。
うるさいな。
「これはほんとにおいしいですね。特にこのお茶。この国ではありませんよ」
「そうですか」
しらんがな。
森の中にあった葉っぱなんだから。
「どこの国のものですかな?これはいい。この国で流行るでしょう」
「うちの庭みたいな森から取れたはっぱを乾燥させたものですので、何かは存じ上げません」
静かに飲んでてほしいものよ。
人嫌いの私としては、あまり話とかしたくないんだ。
「この菓子もおいしいですね、お茶によく合う」
「ありがとうございます。メイちゃんの特製ですから。メイちゃんに聞けば、教えてくれますよ」
ああ・・・
ミルクほしいなぁ。
ミルクティーがいいなぁ、これ。
ん?
視線を感じる。なんだ?
目を向けると、盗賊たちが物欲しげにみてる。
まぁそうだよね。
目の前でおいしそうなもの食べられていたら、さすがに食べ物にくぎ付けだよね。
食べにくいなぁ、もう。
「メイちゃん、あちらにもお茶とお菓子」
「かしこまりました」
武器は取り上げてあるし、足と体は魔法で縛ってあるから、逃げられないし、そこから動けないからね。
しかし多いな。
残念ながら命を落とした盗賊を抜かして(ウーマがひき殺しただけだけど)、まだ8人もいるよ。
手が届くギリギリのところにお茶とお菓子を置かせる。
菓子一つ、お茶は木のコップ一杯だけど、充分だろう。
やはり、感動したような声が上がった。
こちらも野太いな。
「盗賊にそのような慈悲をかけるとは…。アイリーン殿は何という懐の深さですか」
ジューノさんが感心したように漏らした。
慈悲かどうかは知らないけど、見られてたら食べにくいし、飢え死にされたくないしね。
私の馬車に括り付けてあるんだから。
三食だって与えている。
確かに普通よりは少ないのかもしれないけど、食べられるだけいいと思ってほしい。
メイちゃんの食事はおいしいからな。
おやつタイムはゆっくりさせてほしいわ。
「メイ殿、こちらのお茶には何が使われているのですかな?」
一息ついた後、ジューノさんの関心はやはりお茶に向いていたようで、メイちゃんに尋ねる。
「こちらは森でとれた癒し草を乾燥させて作ったものでございます」
「癒し草ですと!?」
なんだ。ただのポーションの材料だったんだ。
あの森、癒し草、生えていたんだなぁ。
「なんと、なんと。そんな貴重な薬草を…」
え?
貴重?
各種ポーションの基本材料だよ?
「ポーションの材料ですよね?」
ポーションの使い方知っているんだから、どこにでもありそうだし。
「ポーションのことは、あまりご存じないのですか?あんな貴重なものを盗賊にすら使ってくださっていたのに」
驚かれてもどうにも言えないです。
自作できるものだしねぇ。
「本来のポーションは、癒し草から抽出した成分と何かを混ぜたものだと聞きます。それはけがを治すだけでなく、体力も魔力も回復するものです。もちろん下級でもです。出回っているポーションは、偽癒し草と呼ばれるものから抽出した汁と、何らかのものが混ぜられてできているという話です。体力が戻るか、けがが治るか、魔力が戻るかは、使わないとわからないのです」
なんだそれ・・・
偽ポーションてことかな?
「本物のポーションはとても高く、貴重なのです」
ええ・・・
特級使っているんだけど?
「ちなみに、下級でもおいくらくらいなんですか?」
「金貨一枚です」
高っ!
金貨一枚?
ゲームの中じゃ、石貨5枚だったよ?
この世界は、硬貨しかない。
一番下が、石貨。
石貨10枚が、鉄貨。
鉄貨10枚が、銅貨。
銅貨100枚が、銀貨。
銀貨100枚が、金貨。
金貨100枚が、白金貨。
ゲームの中で使っていた価値そのままだった。
え?
石貨で売っているのではないの?
金貨?
「俺たちが普段使っているポーションもどきは、下級でも銅貨5枚だぜ」
護衛さんたちが言う。自腹らしい。
は?
そんな欠陥品が銅貨5枚?騙されていないかな?
「あんた・・・あー・・お嬢さん、が使ってくれたのは本物だろう。けがも体力も魔力も回復したし。しかも最大まで。あれは・・・上級とかなんだろ?」
使ったことないから知らないけど、という。
「あれは特級です。私は特級以外は持ってないんで。盗賊には作った下級あげただけだし」
「と・・・特級!!!そんな貴重品…」
なんでか真っ青だ。
なんだ?
「やはり、あんな荷物だけでは足りないようです。特級なんて、王族が持っているようなものですよ。白金貨10枚はするのです」
「だから?私はあの荷物でいいって言いましたよ」
いっぱい持っているものに対してそんなこと言われてもなぁ
「貴重なものをほんとにありがとうございます」
ジューノさんに深々と頭を下げられた。
気分良くないな。あれくらいで。
「そんなのより、ジューノさん、ほかにも香辛料とか調味料とか扱っているんでしょう?」
私の目的はそれだ。
おいしいごはん生活に欠かせないものだ。
「食料品なら、いろいろと取り扱っております」
「それなら王都?行ったときにお店に顔出したら、いろいろかいたいんだけど」
「お任せください。王都に来たときは必ず顔をお出しください。すべてお譲りいたしますから」
いや、そんな話じゃないから…
「あと、おコメって売ってる?」
「コメですか」
「そうです」
ジューノさんの表情が険しい。
売ってないのかな?
「申し訳ありませんが。うちでは専門外の商品でして…」
え?
米って食料品だよね?食べ物屋さんじゃないの?やっぱり、日本じゃないからあまり普及してないとか?
「お力になれず…」
「ああ、いいんです。聞いてみただけです」
そうか・・・残念だけどないのか。
米…
「お嬢さま」
考え込んでしまった私に、シツジローくんが話しかけてきた。
「そろそろ休憩も終わりにいたしましょう」
「・・・そうだね。少しでも進まないと夕方になっちゃうしね」
ここは野営には向かない場所だし。
メイちゃんがてきぱきと片付ける。
私は馬車に乗り込んだ。
ゆっくりと馬車が動き出した。
そうか…
米がないんだ…
仕方ない。
家に帰ってから考えよう。
今は、集落へ向かうことだけだ。
少しおなかがくちくなっているので眠い。
野営場所に着くまでは寝させてもらおう。
「おやすみなさい。」
ああ・・・
クッションがいい感じで眠りを誘う。
短いです




