10~ウーマはどこぞの馬とはやはり違うなぁ~
拠点から出ました。
初めての人との遭遇です
今日はやっと馬車に乗って森を出る!
と、勢い込んで、やっと準備だ。
大きなクッション。
馬車の中の半分を占領する。
寝そべっても大丈夫だ。
他の荷物は、空間魔法の中に入れた。
「よし、しゅっぱーつ」
馬車はゆっくりと走り始めた。
おお、揺れない。
あの、お尻が痛くなる衝撃はないようだ。
しかも、このクッションの心地いいこと。
なにこれ。
眠くなるじゃないの。
「どこかに着いたら起こして、メイちゃん」
そのまま眠りにつく。
これこそが私の特性なんだろうし。
どれくらい寝ていたのだろうか。
きがついたら、馬車が停まっていた。
「ここは?」
「お目覚めですか、お嬢さま。森から出て、馬車で半日ほどの場所でございます」
どうやら、数時間程度ねていたようだ。
ウーマの速度なら、どこかの集落につくのに一日もかからないらしい、本来なら。
だだっ広い荒野だ。
まだ、先が見えない。
しかも夕方だ。
ウーマの休息と、途中の街道で、何かを轢いたらしいので、それをシツジローくんが、シリウス連れて確かめに行っているという。
そんなに遠くないとか。
魔獣なら、別にいいけど、食料になるし.
人なら、困ったことだ。
さすがのスレイプニル。
早すぎて何を轢いたかよくわからなかったようだ。
すぐに停めたのに、結構離れたという。
「お茶を入れました」
メイちゃんの危機感のなさにも困ったものだが、別にいいか。
私は困ってないし。
ウーマは走り出したくてうずうずしているようだけど、きちんと待っているし。
お茶を飲みながら、しーちゃんをもふる。
よくみると、ベヒーもいないようだ。
「ベヒーは?」
「ベヒーは、兄貴についていったにゃ。邪魔になるといったのに、ダメ毛玉にゃ」
しーちゃんは幾分か機嫌悪そうだ。ついていきたかったんだろうけど、シリウスに来るなと言われたそうだ。
なのに、ベヒーがついていったのが気に入らなかったようだ。
「しーちゃんはかわいいから、シリウスも心配だったんだよ」
適当なこと言っておく。
しーちゃんの機嫌が直った。
乙女だなぁ、オトコの娘だけどw
お茶に出されたお菓子をほおばっていると、シツジローくんが帰ってきた。
よくみると、人を連れている。馬車のようだ。でもぼろい?
元来の私は、ものすごい人見知りがある。
家族以外とは話したくもない。
「お嬢さま、よろしいでしょうか」
馬車の外から声をかけられた。
仕方ない。
出るか。
「・・・初めまして。この者の主人で、アイリーン・プラム・シュガーともうします。どなたか存じませんが、何か粗相でもありましたか」
一応、礼儀として、頭を下げ名乗る。
相手の見た目は、商人と護衛なんだろうか。なぜか、相手の馬車を、シリウスが引いてきた。
「い、いえいえ、とんでもない。粗相なんて。こちらこそたすけていただいて、ありがとうございます。申し遅れました、私は、王都で、商いをしています、ジューノともうします」
ジューノさんとやらが頭を下げてきた。
恰幅のいい獣人の商人さんだ。いいもの食べているんだろうな。
護衛さんたちもなかなかいい体格だ。いろんな種族の人たちがいる。
護衛だからある程度は鍛えないといけないんだろうな。
とりあえず、外で立ち話も嫌なので、メイちゃんにテーブルセットしてもらい、座ってもらう。
お茶も出した。
ジューノさんの話を聞くと、どうやら交易のために隣の国に行っていたらしい。
そして。国境の森を通って、帰る途中に、盗賊に襲われたとのこと。
護衛が何とか戦っていたが、さすがに相手のほうがおおく、何人かの護衛と、馬車を轢いていた馬が大けがを負ってしまい、、それでもと応戦していたところに、私の馬車が魔獣と盗賊だけひき殺して、去っていったそうだ。
道理でよく見るとウーマの足が赤くなっていると思ったけど、そういうことだったのか。
それより、ウーマは、盗賊とそうでないものの区別がつくのか?
やはりスレイプニルには特別な何かがあるのかもなぁ。
「お嬢さま、盗賊や魔獣はともかく、けがをした方々はこちらに連れてこられませんでしたので、ベヒーを置いてきました。なので、一度そちらにもどっていただかないといけないようです」
助けが必要ということか。
仕方ないか。
「わかりました。メイちゃん、ここ片付けて。今からそこに行きましょう」
めんどくさいことになったけど、人助けだな。
この世界で初めてのかかわりもつ人だし。
シツジローくんもメイちゃんも優しいから、見捨てないだろうし。
「護衛さんと、シリウスは、メイちゃんとここで待ってて。ジューノさんつれて、行ってくるわ。シツジローくん、案内して」
ウーマならすぐだろうし。
「し・・しかし・・・」
護衛さんが焦っている。
シリウスにおびえているようだ。別に怖くないのに。
まぁ、馬車ひかせている時点で機嫌悪いかもだけど。
「何か問題が?」
もう馬車は外されているので、シリウスは寝そべっている。
メイちゃんがブラッシングしているから、すぐに機嫌は治るだろうし。
なぜかまだぶつくさ言っているけど、さっさと行こう。
ジューノさんを馬車に乗せて、シツジローくんの御者で去る。
ジューノさんは馬車の中を見て驚いていた。
まぁそうだよね。
半分はクッションなわけだし。
揺れがほとんどないのにも驚いていたけど、聞かれても答える気はなかった。
数分もしないうちに現場へ着いた。
うん・・・
スプラッタだ…
苦手なんだよなぁ…
ベヒーが大きいサイズになっていて、盗賊やら護衛さんやらをにらみつけている。
まぁ、ベヒモスだしね。
ウーマのやったことだろう。
魔獣はつぶされ、盗賊?も大けがしている。
もしかしたら護衛の方かもしれないけど。
「ジューノ様、ご無事でしたか」
けがを負っている護衛らしき人の一人が、ジューノさんに話しかけている。
怪しい小娘を連れて戻ってきたと思っているのだろう。
おい!どういう意味だ。
うちのものが何かするっていうのか?
「大丈夫だ。こちらの方が助けてくださったのだ。アイリーン・プラム・シュガー殿だ」
紹介されたので、名前だけ名乗っておく。
とにかく、けが人やけがをした馬をどうにかしないといけない。
護衛たちはけがをした馬はもうだめだからと、安楽死させようとしていたようだ。
護衛見捨てて、馬だけ助けようかな。
「シツジローくん、これ、馬に振りかけて」
空間魔法から、特級ポーションを取り出す。
この惨状から見て、これが一番効くだろう。
大けがも治るし、何より体力も魔力も全回復する。
死んでしまっているものは生き返すことはできないけどね。
プレイヤーの世界ではこれ以下を持っているものは、はっきり言って新人と同義語だった。
簡単に作ることができたのだ。
まぁただの在庫過剰だから、使うだけなんだけど…
というか、これより下のポーションなんて、今じゃ持ってないしね。
「ジューノさん、あなたの護衛さんってどちら?」
護衛も盗賊も同じに見える。冒険者装備だし、見分けつかないよねぇ。盗賊特有の何かがある人以外は。
そちらにも特級ポーションを振りかけた。
すぐに治ったようだ。
しかし、シリウスが引いてきた馬車以外は、馬車の軸から壊れている。
さすがの私でも、馬車は直せない。
馬に括り付けても、持っていけるようなものじゃないようだ。
シリウスが引いてきた馬車の中身は、無事だった品物だけ入れたらしい。
「命があっただけでも良かった。また取引に行けばいい」
ジューノさんは、この荷物を捨てていくようだ。
確かに、壊れた木箱の中身とか、もうだめだろうしな。
持っていけないし。
「何を取引していたんですか?」
「香辛料です。こちらの国は塩をもって向こうへ。代わりに胡椒や砂糖を手に入れてきます」
なんと!
私が求めているものがここにあると?
「そこの持っていけない荷物、私が買い取りましょう。いくらですか」
馬車三台分の、砂糖と胡椒とオリーブ油のようだ。
私は香辛料や調味料を求めて、出てきたんだしね。
「いやいやいや、そんなわけにはいきませんよ。それにこんなに多い荷物、どうにも入らないでしょう」
幌馬車にはね。
「大丈夫です、売ってください」
「そうですか…でも命を助けていただいたのです。これでよければ差し上げます。それに先ほどのポーション、あれはすごいものだとわかりますから。こちらからお題を払わねばならないくらいです」
ほんとに!
やったね。ただで香辛料とかゲットだよ。
「ポーションの代金として受け取っておきます。まだ生きている盗賊は・・・どうするんですか?」
ここで息の根止めてもいいんだろうけど、どうしよう。
「一番近い町にいる衛兵に引き渡します」
「どうやって連れていきます?」
「歩かせます。自らの罪がわかるでしょう」
なるほど。
確かにまだ先の街に、大けがのまま歩かせるのは相応な罰だろう。
でも途中で死んじゃったら困るでしょうし。
仕方ない。
「ちょっと待っててください」
馬車に入って、錬成道具を取り出す。簡易版はいつでも空間魔法に入れてあるのだ。
下級ポーションを作り出す。
下級でも、けがは治る。
体力も一割くらいは戻るのだ。
生きている盗賊分だけ持って、外に出る。
「これをどうぞ」
ジューノさんに渡して、盗賊に飲ませるように言う。
本来、ポーションは振りかけるものだ。
飲むと激マズらしい。飲んだことないけど。
ジューノさんは意味を悟ってか、生きている盗賊の口にポーションを流し込むように、護衛さんたちに言っていた。
あまりのまずさに悶絶する盗賊を見て、絶対に飲むまいと決めたよ。
荷物を壊れた馬車ごと空間魔法に突っ込んだら、さっさとこの場を去る。
盗賊たちも馬車に括り付けて連れていく。
ちょっとくらいの風の抵抗があったって、大丈夫でしょ。慈悲なんてないよ。
みんな待っているし。
すぐに合流した。
夕方になっていたので、この日はここで野営だ。
ジューノさんたちも休ませなければいけないしね。
メイちゃんの料理を、彼らにも分けつつ、いろいろと王都までのことを聞いた。
王都まではひと月以上かかるそうだ。
その間に、香辛料を売りさばきながら上京するのだという。
大変だなぁ。
それよりは私はもう眠い。
「盗賊さん、逃げようとしたらうちの仔たちが襲い掛かるよ」
とりあえず逃げないようにくぎを刺しておかないとね。
ベヒーにおびえているようだし、好都合だわ。
運営さん、今日は一日疲れた。
おやすみなさい。
グダグダしてます




