透明になったカラス
昔、昔、ある森に「クロスケ」というカラスが住んでいました。クロスケは思いました。
「もし僕の羽根がまっ白になったら、どんなにいいだろう。みんなから注目されるし、白い羽根を売れば大金持ちになれるし、カラス集団のリーダーにも選ばれるだろう」
クロスケはカラスの神様にお願いしました。
「カラスの神様。僕の羽根をまっ白に変えて下さい。お願いします」
カラスの神様がクロスケの前に現れて、言いました。
「おまえの羽根をまっ白に変えてやろう」
その晩、クロスケはすやすやと眠りました。
そして、次の朝、クロスケは目をさまして、自分の体を見て、びっくりしました。まっ黒だった体が全身、まっ白になっていました。
クロスケは巣を飛び出し、みんなのところに飛んでいって、言いました。
「僕はまっ白なカラスだ。名前は、ハクタロウだ」
カラスたちがクロスケのまわりを取り囲んで、言いました。
「ハクタロウ。君の白い羽根はかっこいいね」
みんなからちやほやされて、クロスケは人気者になり、いばるようになりました。
それから、クロスケは体から白い羽根を五本抜いて、売りました。クロスケは大金持ちになりました。クロスケは、おいしいものを食べて、大きな巣を買いました。
カラスたちがクロスケをとりかこんで、言いました。
「ハクタロウ。君はかっこいいし、金持ちで、うらやましいな。僕達にも少しお金をちょうだい」
クロスケは自分を取り巻くカラスたちにお金をくばりました。そして、クロスケのまわりには、がめついカラスたちが集まるようになりました。
それから、クロスケはカラス集団のリーダーに立候補しました。クロスケは羽根が白いために人気が出て、リーダーに選ばれました。
カラスたちがクロスケを取り囲んで、言いました。
「ハクタロウ。世間のカラスは君のことを『すごいカラスだ』とほめているよ」
そして、クロスケのまわりには、特別扱いを要求する、ずるがしこいカラスたちが集まるようになりました。
ある日、クロスケはなつかしい友達カラスたちと話をしたいと思って、友達カラスたちの前に行きました。
「僕は本当はクロスケだ。僕の羽根は今、まっ白になっているけれど、僕の羽根は本当はまっ黒なんだ。久しぶりに話をしよう」
友達カラスたちは笑いました。
「ハクタロウ。嘘をつかないで。僕たちが知っているクロスケは、君みたいにいばらないよ。それから、僕たちが知っているクロスケは、君みたいにお金にこだわらないよ。それから、僕達が知っているクロスケは、みんなに公平で、親切だったよ。君みたいに、ずるいことはしなかったよ。さようなら」
クロスケは悲しくて泣きました。
クロスケは神様に祈りました。
「神様。僕の羽根を黒色に戻してください」
カラスの神様は答えました。
「クロスケ。お前の美しいところは、目には見えないものなんだよ。お前の羽根が黒色でも白色でも、そんなこと、大切ではないんだよ。お前が心のやすらぎを感じることができるかどうかは、お前の羽根の色など関係のないことなんだよ。大事なのは、お前が身に付けている品格や性質だよ。それは、目には見えないものなんだよ」
クロスケは友達カラスたちの前に出て、あやまりました。
「ごめんなさい。僕は羽根がまっ白になって、心はまっ黒になってしまいました。僕は、心をまっ白にしていきます」
それから、クロスケはいばらなくなりました。そして、お金にこだわらなくなりました。また、賢く親切で勇敢なカラスになり、友達カラスたちと仲良く暮らしました。
それを見た神様はクロスケに尋ねました。
「さて、クロスケ。お前はまっ黒にもどりたい? それとも、まっ白のままでいたい?」
クロスケは目をつむって、考えました。そして、目をあけて、言いました。
「僕は黒でも白でもないカラスになります」
「黒でもないし、白でもないカラス?」
クロスケはニコッと笑ってうなずきました。
「つまり、外側の色なんかどうだっていいっていうことです。だって、僕の美しいところは、目には見えないものだから」
まっ白なクロスケは毎日、最善を尽くして笑顔で頑張り続けました。すると、少しずつクロスケの体は色が抜けて透明になっていきました。透明になったクロスケは笑顔で空高く飛んでいきました。そして、ピカッと光って消えました。