道標 3
温めてあった下書きをくらえばかやろお
まだ早朝だというのにすっかり疲労しきった体を引っ張って、職場へ行くために電車に乗った。
金がないので車は買えないしそもそも免許持ってない。なので日々満員電車の餌食になっている。ただ、自宅が若干郊外のため、都会のターミナル駅ではなく、路線の最初のほうの駅で乗るからたいていの場合は座ることができる。しかし、今日はいつもよりも疲労が濃い。仕方ないと思う。非現実的なことが現実で起こってしまったのだから。だから、そのショックの療養のために仕事に行かなくてもいいと思う。まあ現実さんはそう甘くないらしい。はあ、仕事だるいなあ~。しかし…
「道標」
電車の中で小声でささやくと視界の右上に非現実さんが現れた。そうステータスボードである。どう考えても、昨日の夢だよなこれ。あの夢の中で、どうせ夢だしいいかって感じで自称神のおっさんから引き受けた例の悟空みたいな仕事どうしよっかなあ。だるいなあだるいなあ。稲川淳二かよ。電車が駅で止まり、次々と学生と通勤中のおっさんが入ってくる。
「あ先生だ」
なんか今先生って言われたような…。
うつむいていた顔を上げて見渡すと、もう学校の一つ前の駅だった。ああ、まずいなもう降りる準備をしなければならないのに、体が言うことを聞かない。くそ、おれのからだよ、動いてくれえええ!
「おいこら、気付いてて無視してるだろ」
ぴょこんと跳ねたツインテールが冷たい声で話しかけてきた。
「目上の人には敬語をつかえ、蒼井」
「まじすんませんです。許してクレメンスです。何でもしますからです。」
「煽ってんのか」
「やだなあ先生、ひぐらしリスペクトですよ!」
「リカちゃんぜって―そんなネット民みたいな話し方しねー」
「にぱー」
「うぜー」
こいつの名前は蒼井牡丹。成績優秀な高スペック美少女で実は俺に片思いを寄せている…てことはなく、金髪ツインテのツンデレでもない、ただのそこそこ顔が整った、そこそこな学力の俺の持つクラスの生徒である。先生に自ら話しかけてくるなんて結局お前好かれてるだろとお思いのそこのあなた!それは大間違いだ。




