旧第四話「昼食」
「圭太郎、お昼だけど一緒に食べない?」
「……ごめん。俺、部室で食べるから……」
「……分かった」
午前の授業が全て終わり昼休みに入った。
沙耶は登校時と同じように避けられると思ったのか、不安げな表情で圭太郎を昼食に誘った。
普段は二人で昼食をとっているのだが、圭太郎はその誘いを断った。
沙耶が不満気に返事をする。
気まずくて沙耶と離れたい圭太郎はかばんから弁当を取り出し、クラスメイト達の好奇の視線を浴びながら、入部している文芸部の部室へ向かった。
「あ……部長、こんにちは」
「あら、こんにちは。松永君も今日はここでお昼ご飯?」
圭太郎が部室へ入ると、そこには三年の先輩であり部長でもある女子生徒がいた。
圭太郎は不思議に思う。いつも同じクラスの彼氏と食事をしていると聞いたことがあったからだ。
「部長、彼氏さんはどうしたんです。ケンカしたんですか?」
「いいえ、彼は今日休んでいるの。風邪だってさ」
部長は尋ねる圭太郎に答え、彼氏の体調が心配だと沈鬱な表情を浮かべた。
「クラスに友達は……ああ、ここに来た俺が言うことじゃないですね」
「その通りね」
圭太郎は自分の発言を反省し、それを見た部長は苦笑し答えた。そして話を戻す。
「友達はいるわよ。でも普段いないのにグループに混ざるのって、少し気まずいじゃない。相手にも気を使わせそうだし……、そう思って部室へ来たの」
「なるほど……」
沙耶と離れたい一心だった圭太郎は、部長の言葉に納得した。そして沙耶のことが大丈夫か、一人ぼっちになっていないかと心配になった。しかし改めて考えてみると、沙耶は気が強いし、社交的で友達が多い。問題ないだろうと思い、その心配はすぐに失せた。
今度は部長が圭太郎に聞く。
「松永君はどうして部室に?」
「いやー、ちょっと……」
「……? 言いたくないなら別にいいけれど」
言葉を濁す圭太郎に部長は不思議そうな顔で言った。
席についた圭太郎は弁当箱を開けた。その中にはふりかけご飯やから揚げ、アスパラのベーコン巻きやサラダなどが入っている。自分の好物が多い、しかしあまり食欲は沸かなかった。だが食べなければ母に悪いし、ちゃんと食べると言ったのだから食べなければと箸を進める。部長も会話をやめ、自分の弁当を食べている。
そして二人は弁当を食べ終わると言う。
「ごちそうさま。私はコーヒーを飲むけど、松永君は何にする?」
「俺もコーヒーで……ああ俺がいれますよ」
ここには紙コップや電気ケトル、インスタントコーヒーや紅茶や緑茶などのティーバッグもあった。顧問はこのぐらい別にいいかと黙認しているどころか、自分も偶にこれらを飲んでいる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
圭太郎はコーヒーを部長の前に置き、自分の席にも置いてイスに座った。
そして、圭太郎は以前した部長との話をふと思い出した。
「部長」
「何?」
「前言ってた、彼氏さんのプレゼントはもう買いました?」
「いえ、まだよ。なんかぴんとこなくて……」
圭太郎の質問に部長は眉根を寄せた。
「よかったら買い物付き合いますよ」
「え? 前無理って言ってたじゃない」
不思議そうにいう部長は言った。前部長が一緒に買い物をしてくれと頼んだ時に、圭太郎は好きな人に誤解されたくないと断ったのだ。
「……振られました……」
「あー……」
落ち込みうつむいて言う圭太郎に部長は気まずそうな顔をした。
「えっと、それじゃ頼むわね。早速、今日の放課後でいいかしら?」
「はい、いいですよ」
「教室に、いえ、校門で待ち合わせをしましょう」
「分かりました」
気を取り直し頼む部長に、圭太郎は快く承諾した。