第八話「告白」
沙耶は自室で考えていた。告白しようかという女子の言葉だ。本気には聞こえなかったが、圭太郎はかっこいい。これからもっとかっこよくなるだろう。いつ女子が告白してもおかしくない。そうしたら、気が弱くて優しい圭太郎は告白を断りきれずに付き合ってしまうかもしれない。真面目だからしっかりと彼氏役をするよう努力するだろう。そうなったら大変だ。
圭太郎が自分に話し掛けないよう言ったのは、自分が嫌いだからではない。振られたことが気まずくて、何を話せばいいのか、どういう態度でいればいいのか分からないといった理由だろう。
しかし自分のことがまだ好きだろうか? 圭太郎の告白をあっさりと袖にしてしまったことを思い出す。時間も経った。他に好きな相手が出来てもおかしくない。
だがとにかく、他の女子が告白する前、圭太郎と他の女子が付き合う前に、私が告白しなくてはならない。
それに、自分の気持ちを自覚した沙耶は圭太郎に伝えたくて仕方なかった。だめでも仕方ない、しかしどうかうまくいきますようにと祈りながら、スマホを手に取った。
圭太郎が自宅に帰り日課のトレーニングをしていると、スマホが震えた。誰かから連絡でもきたかとそれを手に取った。確認をする。
『ちょっと公園に来て。大事な話があるの』
沙耶からの連絡だ。
圭太郎は前と随分変わったという自覚がある。しかし沙耶とはまだまだ釣り合っていないと考えていた。
しかし、こうして自分を呼び出したのなら行くのが礼儀だろう。なにか面と向かって言いたいことがあるのだろうと思い、公園に向かった。
圭太郎が公園に行くと、ベンチに沙耶が座っていた。真剣な表情をしている。立ち上がってこちらに向かってきた。
圭太郎は沙耶の雰囲気に、なんの話だろうと怖がった。
「来てくれてありがとう」
「ああ……それで話って?」
礼を言う沙耶に恐る恐る尋ねた。
すると沙耶の顔はみるみる赤くなった。態度はそわそわとして落ち着きがない。
一体どうしたんだと圭太郎は不審に思う。
「あのね、振ってごめん!」
申し訳なさそうな表情を浮かべた沙耶の謝罪に、振られたことを思い出した圭太郎の胸が痛んだ。そして思い出させた沙耶に少し腹が立った。
沙耶は続けて言う。
「でも私! やっと自分の気持ちに気付いたの!」
圭太郎は沙耶の勢いに気おされた。自身の怒りを忘れ、沙耶の気持ちとはなんのことかと思った。
そして沙耶が圭太郎を見てはっきり言う。
「圭太郎のことが好き! 私と付き合って!」
「…………」
思いもよらぬ沙耶からの告白に、圭太郎の思考は止まった。
公園には他に誰もいない。
圭太郎も沙耶も喋らない。
静かな時間が流れた。
「ちょっと、返事してよ」
ますます沙耶の顔は赤くなっていた。
それを見て、はっと圭太郎は正気に戻った。夢ではないだろうなと疑った。
「俺でいいのか……?」
未だ自信が足りていない圭太郎が言う。
「圭太郎じゃないとだめなの!」
沙耶が心から叫んだ。どうかこの気持ちが伝わってくれという気持ちを言葉に込めながら。
「……ああ、付き合おう!」
圭太郎は沙耶の言葉の意味をしばらく考えた。その後、感激し叫んだ。そしてあまりの嬉しさに思わず沙耶を抱き寄せた。
沙耶は驚いた、そして非常に照れながらも圭太郎に身を任せた。
それから二人はベンチに隣り合って座り、距離があった時のことを喋り合っていた。
沙耶が寂しかったと言えば圭太郎も寂しかったと言い、圭太郎が避けたんだろうと沙耶が責めると圭太郎は素直に謝った。付き合えて機嫌の良い沙耶はすぐに許した。そして明日から一緒に学校に行こうと提案し、圭太郎は家に迎えに行くと言い快諾した。
時間が経ち、空が暗くなってきたのを見た圭太郎は、沙耶を家まで送ることにした。
普通に歩けば、公園から沙耶の家まで数分もかからない。
二人は手をつなぎ、名残惜しむようにゆっくりと歩いていく。
そして沙耶の家の前に着いた。
唐突に沙耶はなにか企んでいそうな顔で圭太郎に言う。
「圭太郎、まつげに埃ついてるよ。目閉じて」
「ああ……」
圭太郎が素直に言われた通りにすると、自分の唇になにか触れる物があった。
「また明日ね!」
目をみはり驚く圭太郎を置いて、再び顔を赤くした沙耶が家に駆け込んでいった。
圭太郎はそれを呆然としながら見送った。少しして、明日から楽しくなりそうだと思った。