第七話「悩み」
沙耶の心中は複雑だった。圭太郎と一緒にいたあの女は一体どこの誰なのか。後をつけようか。いやばれたら嫌われるかも、ストーカーみたいだしいけないことだ、などと考え帰路についた。
沙耶は自宅に着き自室へ行くとかばんを放り、ベッドに寝転んだ。とても落ち着かない気分だった。メールを送ろうか、いや電話にしようか。ああでもほんとにデートなら邪魔しちゃ悪いかも。悩みぬいて、うまく喋れない気がするからメールにしよう。邪魔しないように夜送ろう、そう決めて夜までもどかしい時間を過ごした。
夕食をとった圭太郎は自室で休んでいた。そして部長がプレゼントを無事買えて良かったと思っていると、スマホが振動した。
圭太郎はスマホを手に取り確認した。久しぶりの沙耶からの連絡だ。スマホ越しならそう気まずくもない。
『あの女誰? デート?』
沙耶にしては文が短い気がする。いやそんなことを考えている場合ではない。これは部長と付き合っていると誤解されたのか? 沙耶に見られる可能性を考えるべきであったと悔やみながら返事を考える。
『文芸部の部長だよ。彼氏のプレゼント選びを手伝ったんだ』
「これでいいはず……」
返事を送り一言こぼすと返信を待つことにした。
そして少ししてまたスマホが振動した。
誤解が解けていますようにと祈りながら、恐る恐る返事を見る。
『そうだったんだ! じゃあいいわ。また明日ね』
俺の返事は正解だったらしい。心底安堵してほっと息をついた。
そして、ひょっとして沙耶は嫉妬したのだろうかと考え、嫉妬ならいいなと思いながら挨拶を返した。
一方沙耶は、圭太郎の回答を読んで安心した自分に困惑していた。なぜ安心したのか。デートではなかったから? あの女に彼氏がいたから?
デートかと考え苛立ったのだから、自分はあの女に嫉妬したのだろうか? それではまるで、私が圭太郎を好きみたいじゃないか。いや好きだけども幼馴染として好きなのであって恋愛感情ではないはず。
悩み更に考える。自分はどうしたいのか。どうすればいいのか。他の女が圭太郎の彼女になるのを避けるには、自分が圭太郎と付き合えばいい。でも圭太郎の彼女? …………いいかも。彼女になったらそのままお嫁さんになったりして。その後は母親かな。圭太郎となら幸せな家族になれそう。
「…………あれ?」
沙耶はようやく自分の気持ちに気付いた。
そして圭太郎を振ったことを思い出し愕然とした。
次の日、沙耶は教室へ着くと、複雑な気分で圭太郎を見た。
話し掛けないよう言われてから随分と経ったが、圭太郎は未だに自分を避けている。
なんであの告白を断ってしまったんだろう。もっと早く自分の気持ちに気付いていれば、と酷く後悔していた。
圭太郎は夏休み明けと比べ更にたくましくなっていた。
元々顔立ちは悪くなかったのだ。女子からの人気が上がっていた。
圭太郎が他の女子と付き合ってしまうかもしれない、沙耶はどうしようかと悩んだ。
放課後、圭太郎がいつものように一人で帰っていった。
それを見た沙耶が同じように帰ることにした時、ある女子の集団から冗談じみてはいるが聞き捨てならない声が聞こえた。
「松永君ほんとかっこよくなったよね。告白しようかなーなんてね」
沙耶は激しい危機感を覚えた。