第五話「自信を持ちたい」
時がしばらく経った。
圭太郎は相変わらず沙耶にどう接すればいいのか分からず避けていた。酷くみじめだった。
圭太郎はこれではいけないと思う。まだ気まずいから沙耶を避けているが、やはり沙耶が好きなのだ。沙耶と付き合いたいのだ。沙耶の前に堂々と立つには自信を持たなくてはいけない。自分の何かを変えなくてはいけない。そして沙耶と釣り合うようになりたいと思い、そうなったらまた告白をしようと考えた。
しかしどうすればいいのかさっぱり分からなかった。誰かに相談しようかとも考えたが、自信を持つために自力で思いつきたいと思っていた。
そんなある日のことだ。
「ねえ、このブラウス可愛くない?」
「おー可愛い……うわ結構高い」
「ほんとそれ、良い物は高いよねー」
クラスの派手な女子グループが盛り上がっていた。中心にあるのは女性向けのファッション雑誌だ。
それを見た圭太郎は閃いた。自分もファッションモデルの真似をしようと思いついた。
放課後になった。
気が逸る圭太郎は素早くかばんを持って教室を出た。
沙耶はいつになく急いでいる圭太郎を不思議そうに見ていた。
そして玄関に着いた圭太郎は靴を履き替え本屋に向かった。
本屋に入り、ファッション雑誌の置いてある場所を探した。女物のファッション雑誌は目立つところに並べられていた。
辺りを見回すと、それと比べると地味な場所に男物のファッション雑誌があった。
圭太郎は、いくつかあるそれの一冊を手に取った。
どう参考にしたらいいかと思いつつページを捲る。そして流行のアイテムというページがあった。それをじっくりと見た。圭太郎の知らない物が色々とある。高い物ばかりだと思った。
圭太郎は普段から小説をよく買っている。つまりあまり小遣いとお年玉は余っていないのだ。
どうしようか悩む圭太郎は、ふとモデル達を見て気付いた。眼鏡をかけた人が一人もいないと。
眼鏡はだめなのか、じゃあコンタクトレンズにするかと自分のかけている眼鏡を触り思った。
その雑誌を買い、本屋を出た。
まぶしい日差しを見て、夏休みが近いなと思った。
夏休みに入ると、まず眼科に行った。眼鏡をコンタクトレンズにするためだ。コンタクトレンズをはめるのに最初はてこずったが、練習すると楽にはめられるようになった。
そして美容院に行って髪を切ってもらった。ヘアカタログで流行りのものを選んだ。母と妹に好評だった。
更に男らしくなるよう体を鍛えることにした。筋肉トレーニングには父の道具を借りた。倉庫の肥やしになっていたものだ。
家族の応援を受け、そうして肉体改造に励んでいるうちに、あっという間に夏休みが明けた。
夏休み明け、沙耶は登校し、教室が騒がしいと思いながら中へ入った。
そしてとても驚いた。
「圭太郎雰囲気変わったな!」
「そうかな、成果がでているみたいで良かった」
多くの人が圭太郎を囲んでおり、その圭太郎の印象が様変わりしている。
まず黒縁の眼鏡をかけていない、コンタクトレンズにしたのだ。
髪は短く爽やかになった。
体は筋肉がついて、随分たくましくなった。
沙耶は努力しただろう圭太郎に話し掛けたいと思ったが、圭太郎の頼みを思い出し、やめて席についた。いつになったらまた話せるんだろうと寂しく思った。
「松永君、結構かっこよくなってない?」
「なったねー」
そして、圭太郎をほめる女子達の言葉が随分と気になった。