第四話「どうしよう」
「圭太郎、お昼だけど一緒に食べない?」
「……ごめん。俺、部室で食べるから……」
「……分かった」
午前の授業が全て終わり昼休みに入った。
沙耶は登校時と同じように避けられると思ったのか、不安げな表情で圭太郎を昼食に誘った。
普段は二人で昼食をとっているのだが、圭太郎はその誘いを断った。
沙耶が不満気に返事をする。
気まずくて沙耶と離れたい圭太郎はかばんから弁当を取り出し、クラスメイト達の好奇の視線を浴びながら、入部している文芸部の部室へ向かった。
圭太郎が部室へ入った。部室には他に誰もいない。
文芸部には部員が圭太郎を含め五人いる。しかし四人は幽霊部員だった。
席についた圭太郎は弁当箱を開けた。その中にはふりかけご飯やから揚げ、アスパラのベーコン巻きやサラダなどが入っている。自分の好物が多い、しかしあまり食欲は沸かなかった。だが食べなければ母に悪いし、ちゃんと食べると言ったのだから食べなければと箸を進める。
そして弁当を食べ終わった。
食後のコーヒーを飲むことにする。
ここには紙コップや電気ケトル、インスタントコーヒーや紅茶や緑茶などのティーバッグもあった。顧問はこのぐらい別にいいかと黙認しているどころか、自分も偶にこれらを飲んでいる。
圭太郎はふと、寂しいと思った。
沙耶は朝と昼にショックを受けた。圭太郎が自分を避け始めたからだ。
しかし時間が経つにつれ沙耶は腹が立ってきた。圭太郎の告白を断ったことに罪悪感はある。だが恋人の関係になるなど考えたことがなかったし、仕方ないだろう。今までずっと一緒に過ごしてきたのに、幼馴染の縁はあれだけで切れるのかと憤慨していた。
授業が終わると帰りのホームルームがある。それが終われば放課後だ。
沙耶は圭太郎としっかり話をしなければと意気込んでいた。机の中の物をかばんに入れている圭太郎の元に大股歩きで向かう。
「ちょっと圭太郎。話があるわ。一緒に帰りましょう」
「……分かった」
沙耶の提案に圭太郎は頷いた。一度しっかり話をするべきだと思ったのだ。
二人は帰路についた。
「あのさ、昨日のことは悪かったと思うけど、露骨に距離を取りすぎでしょう!」
「……ごめん」
怒鳴る沙耶に圭太郎は謝った。
「いいじゃない、幼馴染で」
詰め寄る沙耶に、圭太郎は考えて言う。
「……沙耶」
「なに?」
「ほんとに気まずいんだ。しばらく話し掛けないでくれ、ごめん!」
「あ! ちょっと!」
圭太郎は沙耶に告げると自宅へ駆け出した。
翌朝、圭太郎は支度をして自宅を出た。
少し歩くと沙耶の家が見えてきて、通り過ぎた。
「おはよう」
「おはよ」
圭太郎は教室に入り友人と挨拶を交わした。
そして自分の席へ向かい、かばんを掛けイスに座った。
少し時間が経つと沙耶が教室へ入ってきた。頼み通り圭太郎に話し掛けない。しかし圭太郎をにらんでいる。
圭太郎はそんな沙耶から目をそらした。
昼食は昨日と同じように部室でとった。一人静かに弁当を食べた。
今日ずっと沙耶は不機嫌で、偶に圭太郎をにらんだ。
その度に圭太郎は顔をそらした。
ようやく放課後になった。
圭太郎は自分をにらむ沙耶を尻目にそそくさと教室を出て、今日は部活に行かないことにし帰宅した。これからどうしようと考えながら。