第三話「登校」
「あんた大丈夫? 今日は休んだら?」
「そうだよお兄ちゃん」
母と妹が心配そうに圭太郎に言った。
圭太郎は二人に億劫そうに返事をする。
「いや、大丈夫……。行くよ……」
「そう? 大丈夫ならいいけど……」
なおも心配そうに見てくる母に圭太郎は言う。
「それより弁当頂戴……」
「ああ……はい、お弁当。残してもいいわよ」
そういう母に手を振って答える。
「ちゃんと食べるよ……。それじゃ行ってきます……」
圭太郎は二人に挨拶をして出掛けた。
「本当に大丈夫かしら?」
「うーん……、多分?」
残された二人は圭太郎の体調を心配し、どうしたら元気付けられるか悩んだ。
出掛けた圭太郎が数分歩くと、沙耶の家が見えてきた。
いつもはインターホンを押し沙耶を待つが、昨日振られた今日はとてもそんな気分になれなかった。ゆえに沙耶の家を通り過ぎて通学路を進んだ。
「おはよう……」
「おう圭太郎。おはよう。……どうした?元気ないな」
圭太郎は挨拶をしながら教室へ入った。
友人が挨拶をして、心配そうに言った。
「ちょっとな……。でも大丈夫だから……」
「そうは見えないが……。あれ、そういえば松田は?」
友人が返事をした圭太郎に更に質問する。
「今日は……、いや、今日から別……」
「そうなのか……? ああ、まさか……」
気まずそうに言う圭太郎を見て、友人は何かを察した様な表情になる。
圭太郎はそんな友人を置いて自分の席へ向かう。机にかばんを掛け、イスに座った。
「おはようー」
「「「おはようございます」」」「おはようございます……」
担任の教師が教室に入りながら挨拶をし、生徒達が挨拶を返した。
そしてチャイムが鳴った時、沙耶が教室へ駆け込んだ。
「セーフ!」
「……まあセーフでいいだろう、明日は気をつけろよ」
「あはは……はーい」
叫んだ沙耶に教師は返事をして注意すると、沙耶は困ったように笑いながら自分の席へ向かった。圭太郎の近くの席だ。机にかばんをかけ席につくと圭太郎を睨んだ。そして圭太郎に小声で文句を言う。
「ちょっと、今日はどうしたのよ。先に行くんなら連絡入れなさいよ」
そこで初めて圭太郎は連絡を入れるべきだったと気付いた。
「ごめん……。でもこれからは別々で登校しよう」
「え?……あー、うん、分かった……」
沙耶は圭太郎の提案に初めは困惑したものの、少し考え納得したように、しかし釈然としない様子で返事をした。