旧第十話「式の後で」
沙耶はうっとりしていた。とても素敵な式だったと思っていた。特にウェディングドレスがとても綺麗だったと思った。自分も着たいと思った。想像の中のウェディングドレスを着た自分の横には圭太郎がいた。
「…………あれ?」
「どうしたの?」
首をかしげる沙耶に圭太郎は問いかけたが、沙耶はなんでもないとかぶりを振った。
沙耶はもう一度考えた。やはり横に圭太郎がいた。圭太郎が彼氏になることを考える。ぴんとこない。夫になることを考える。しっくりきた。
圭太郎は真面目だから、話に聞いたような浮気などするわけがない。世間では夫が家事を手伝ってくれないとか子育てに励まないというが、圭太郎ならそんなこともないだろう。良い夫になり良い父になるに違いない。なにより結婚相手は圭太郎しかありえないと思った。
そして沙耶は衝動的に言う。
「圭太郎、結婚して」
「……ん?」
「結婚してって言ったの!」
「ええ!?」
沙耶のまさかのプロポーズに圭太郎は唖然とした。告白して振られたのに、なぜだと心の底から思った。
「でも振られて……」
「ああ、彼氏としてはぴんとこないの」
圭太郎が動揺して言うと、沙耶は平然と返した。
「でも夫としてはすごくしっくりきたの、良いパパにもなりそうだし」
なおも続ける沙耶に圭太郎は混乱していた。そして尋ねた。
「ええと、結婚してくれるってこと?」
「そうよ」
圭太郎が尋ねると沙耶が答えた。
「じゃあ……お願いします」
「やった! じゃあこれで婚約者ね!」
まだ混乱している圭太郎が言うと、沙耶は跳びはね喜んだ。
そんな沙耶を圭太郎は呆然と見ていた。
そして時間が経つと少し冷静になってきた。結婚などまだ現実味がわかない。でも、楽しい未来が待っていそうだと思った。




