旧第九話「結婚式」
沙耶は少し焦っていた。未だに圭太郎の彼女になることがぴんとこないからだ。
圭太郎は夏休み明けと比べ更にたくましくなっていた。元々顔立ちは悪くなかったのだ。女子からの人気が上がっていた。
沙耶がその気になる前に、圭太郎が他の女子と付き合ってしまうかもしれない、沙耶はどうしようかと悩んだ。
ある日、圭太郎と沙耶が部室で昼食をとっていると、顧問の先生がやってきた。
「おう、ちょっといいか?」
「こんにちは!」
「こんにちは、どうしたんですか?」
二人は挨拶をして、圭太郎が用件を訊いた。
「ああ、次の日曜空いてないか?」
「空いてますよ、圭太郎もだよね?」
「うん。日曜に何かあるんですか?」
先生が予定を訊くと、二人が答えた。
圭太郎は一体何の用だと不思議がった。
「ああ、結婚式だ……」
「結婚式?誰のです?」
先生はなぜか気まずそうに、あるいは恥ずかしそうに言った。
圭太郎は具体的に尋ねた。
「……俺の……」
「「え!?」」
先生の言葉に二人は大変驚いた。先生と結婚などまるで繋がらないように思っていたからだ。それほど人に興味がなさそうに見えた。
「結婚するんですか!? 相手はどんな人!?」
「さ、沙耶、落ち着いて……」
興奮する沙耶を圭太郎がなだめた。
先生はやはり気まずそうだった。
話を聞くと、どうもお見合い結婚らしい。
先生は結婚に興味がなかったのだが、先生の家族はとても結婚させたがっていた。
ある日、先生が実家でのんびりしていると、いきなり親がお見合いだと言いだした。なんだいきなりと言ったら今からお見合いだと言う。今から!? と先生はとても驚いた。気はまるで乗らないが親が無理を言ったと推測し、先方に悪いとしぶしぶ行くことにした。するとそこには近所の妹分がいた。なぜこいつがここにと思っていると、こいつがお見合い相手だと言う。先生は彼女を妹のように思っていたからとても驚いた。驚いた理由はそれだけではない。長年付き合った婚約者がいたと聞いていたのだ。そのことを言うとすさまじい形相になった。別れた、と怨嗟の声をあげた。事情を聞くと、相手の浮気らしい。しかも発覚した今回の浮気だけでなく、今までも度々浮気を繰り返していたそうだ。
先生は同情した。しかしそれとこれとは話が別だというと、結婚するのは先生のような人が良いと言う。どういう意味だと問うと、絶対浮気しなさそうだからと彼女は答えた。
それから彼女の猛アタックが始まった。
先生はしばらくそれを受けていたが、とうとう陥落したらしい。
「ということなんだ」
「浮気……」
「そういうことだったんですね」
沙耶が不愉快そうに眉根を寄せた。
圭太郎は納得した。
「それで急に結婚式をという話になったんだが、俺は友達が少なくてな」
「あまり人と話すタイプじゃありませんもんねー」
先生が正直に言い、沙耶が返す。
「子供だし、ご祝儀は俺が払う、いや、来てくれるなら今渡そうか」
「はい! 行きます!」
「じゃあ僕も……」
財布を取り出そうとする先生に、沙耶と圭太郎がそれぞれ答えた。
「じゃ、これな。場所は近くの教会だ。分かるだろ?」
「はい、あそこでしょ」
「大丈夫です」
先生は財布から札を取り出し二人に渡した。
そして尋ねると、二人とも答えた。
「おう、それじゃまた日曜な」
そう言い先生は去っていった。
次の日曜、沙耶と圭太郎は沙耶の家の前で合流し、教会へ向かっていた。歩いてさして時間がかからない距離だった。
「楽しみだね!」
「そうだね」
沙耶のテンションは高かった。
圭太郎は苦笑して返した。
二人はしばらく歩き、教会が見えてきた。




