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旧第八話「釣り合うために」

 沙耶が文芸部に入部してからしばらく経った。

 圭太郎の生活は以前とあまり変わらなかった。違いは部室に沙耶もいて、部活がある日も沙耶と一緒に帰るようになったことだけだ。

 圭太郎はこれではいけないと思う。自分の何かを変えなくては、沙耶と付き合うために沙耶と釣り合うようになりたいと思った。しかしどうすればいいのかさっぱり分からなかった。誰かに相談しようかとも考えたが、自信を持つために自力で思いつきたいと思っていた。



 そんなある日のことだ。


「ねえ、このブラウス可愛くない?」

「おー可愛い……うわ結構高い」

「ほんとそれ、良い物は高いよねー」


 クラスの派手な女子グループが盛り上がっていた。中心にあるのは女性向けのファッション雑誌だ。

 それを見た圭太郎は閃いた。自分もファッションモデルの真似をしようと思いついた。


 放課後になった。

 気が逸る圭太郎は素早くかばんを持って本屋に行こうとした。


「圭太郎、今日部活行く?」


 そんな圭太郎に沙耶が話しかけてきた。


「いや、行かない」

「じゃあ一緒に帰ろ」

「今日は無理だ」


 まさか断られるとは思っていなかった沙耶は非常に驚いた。


「なんか用事?」

「ああ、本屋に行こうと思って」


 珍しいと不思議そうに訊く沙耶に圭太郎は答える。


「本屋……いつも土日に行ってるのに?」

「ちょっと買いたい物を思いついて」


 沙耶はなおも不思議がった。圭太郎は隠すことでもないと正直に言った。


「私も行く」

「え? ああ、それじゃあ行こうか」


 沙耶の言葉に少し驚いた圭太郎は、別に問題はないと一緒に行くことにした。



 二人は本屋に着き中に入った。


「何買うの? 小説の新刊?」

「ファッション雑誌」

「えっ?」


 予想外の答えに沙耶は驚いた。今まで圭太郎がファッション雑誌を読んでいるところなど見たことがないのだ。


「どうしたの? ファッションに目覚めたの?」

「いや、なんというか……」


 沙耶に釣り合うためにファッションを勉強すると言うのは恥ずかしくてためらわれた。


「言いにくそうね。まあいいけど」

「ああ……」


 また不思議そうに言う沙耶に、圭太郎は気まずそうに返す。

 そしてファッション雑誌の置いてある場所を探した。女物のファッション雑誌は目立つところに並べられていた。

 辺りを見回すと、それと比べると地味な場所に男物のファッション雑誌があった。

 圭太郎は、いくつかあるそれの一冊を手に取った。

 沙耶も隣に立ち、圭太郎が取った物とは別の雑誌を手に取った。

 どう参考にしたらいいかと思いつつページを捲る。そして流行のアイテムというページがあった。それをじっくりと見た。高い物ばかりだと思った。

 圭太郎は普段から小説をよく買っている。つまりあまり小遣いとお年玉は余っていないのだ。

 どうしようか悩む圭太郎は、ふとモデル達を見て気付いた。眼鏡をかけた人が一人もいないと。

 眼鏡はだめなのか、じゃあコンタクトにするかと自分のかけている眼鏡を触り思った。


「なんかいいのあった? うわ、たかー」


 沙耶がこちらの雑誌を覗き込んできた。


「いや、モデルが誰も眼鏡かけてないから、コンタクトにしようかなと思って」

「へえ、いいんじゃない?」


 沙耶は軽く言った。軽いが悪くはない反応だ。やはりコンタクトにしようと圭太郎は決めた。

 圭太郎はその雑誌を買い、本屋を出た。

 まぶしい日差しを見て、夏休みが近いなと思った。



 夏休みに入ると、まず眼科に行った。眼鏡をコンタクトレンズにするためだ。コンタクトレンズをはめるのに最初はてこずったが、練習すると楽にはめられるようになった。

 そして美容院に行って髪を切ってもらった。ヘアカタログで流行りのものを選んだ。母と妹に好評だった。

 更に男らしくなるよう体を鍛えることにした。筋肉トレーニングには父の道具を借りた。倉庫の肥やしになっていたものだ。


 家族の応援を受け、そうして肉体改造に励んでいるうちに、あっという間に夏休みが明けた。



 夏休み明け、圭太郎は沙耶と一緒に登校し教室へ入った。

 以前の圭太郎を知っている者は圭太郎の変化にとても驚いた。


「圭太郎雰囲気変わったな!」

「そうかな、成果がでているみたいで良かった」


 多くの人が圭太郎を囲んでおり、その圭太郎の印象が様変わりしている。

 まず黒縁の眼鏡をかけていない、コンタクトレンズにしたのだ。

 髪は短く爽やかになった。

 体は筋肉がついて、随分たくましくなった。


 沙耶は圭太郎がほめられて機嫌が良くなった。


「松永君、結構かっこよくなってない?」

「なったねー」


 そして、圭太郎をほめる女子達の言葉が随分と気になった。

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