有望な星を見つけました。でもそこには知的生命体が居ました
「この星は有望そうだな」
「大当たりという訳ね」
その星系に入って、その星を見つけた当初は、私とサラは明るい会話を交わしていた。
最近、私達はM86星雲内の人類の移住可能な星の探査に専念していた。
人類が宇宙に進出して、1000年近くが経つとはいえ、全ての銀河系内の星の探査が終わった、とはとても言えない。
それなのに、銀河系を遠く離れたといってよいM86星雲にまで、私達が赴いているのには訳がある。
そもそも、人類の保有する超光速航法は、開発当初から数千万光年跳ぶことが可能だった。
そして、もしも人類に敵対的ないわゆる異星人と人類が接触し、星間戦争という事態が起きたら。
星間戦争においては、人類がこれまでに考えていたような戦争とは違う戦争になると想定された。
これまでの戦争だったら、敵と味方の間に、いわゆる戦線が形成され、その戦線が移動して、最終的には勝敗がつくのが当然だった。
だが、超光速航法を持つ異星人との戦争では、そのようなことは考えにくい。
敵の本国ならぬ本星を発見すれば、そこに対して大量の戦力を急襲、投入しての戦争になる公算が高い、と想定されたのだ。
そのために人類の恒星間宇宙の探査の主目的は、人類の避難先、移住先を追い求めるものとなった。
従って、地球から目視可能な主な恒星系には、さすがに探査隊が幾つか送られたが、それ以上に多くの探査隊が派遣されたのは、地球のある太陽と性質が似ている恒星系ということになった。
つまり、銀河系内であっても赤色巨星や白色矮星、連星といった最初から人類の移住先に向いていない公算が高いと判断された恒星系には、探査隊は赴かなかったのだ。
それに、超光速航法の能力から考えれば、人類の移住先を銀河系に限る理由は全く無い。
そういったことから、我が仏や日は、銀河系外の星雲、アンドロメダ銀河等にまで、探査の手を最初期から延ばしていた。
本来のサラの出身星、ヌフ・オルレアンはそういった経緯から発見され、移住が進められた星だ。
太陽と極めてよく似た恒星を持ち、重力が地球よりもやや大きい(といっても垂直跳びの記録が1割近く下がるくらいだが)のが欠点だが、大気組成等もほぼ完璧に近かった。
そして、もっとも魅力的だったのが、生物の進化が地球で言えば中生代段階(そのために、ヌフ・オルレアンでは、地球で言えば恐竜に似た生物が存在している)であり、知的生命体が近々誕生する気配が無いということだった。
こうしたことから、ダヴー家が音頭を取って、移民が始まり、今では人口1億を超える星となっている。
そして、似たような感じで地球と似た星に、人類は移民を進めている。
昔のSFだと、テラフォーミングといって、人類が移住しようとする星を、ある程度は人類が住みやすいような環境に変えるのが、稀な設定では無かったが、実際に恒星間宇宙に人類が進出したら、そんなことをするくらいなら住みやすい環境の星を探した方が良かった、という訳だ。
しかし、これが常に上手く行く訳が無く。
私達は、その星に近づいて、探査を行ううちに、渋い顔をお互いにせざるを得なかった。
「この星はダメみたい」
「そうだな、ダメだな」
実際問題として、重力や大気組成等、外的環境としては、この星は人類の移住先として理想的だ。
だが、この星には。
念のためにこの星の夜間に、無人探査機を投入している。
万が一、空を見上げる人がいても、流れ星等と思う程度だろう。
または、UFOと想像心豊かな人には思われるかもしれない。
そう、この星には人、異星人というか知的生命体がいた。
それも、それなりの文明を築きつつあるようだ。
細かい姿は、人類とは違うが。
手は4本、それぞれの手に指が3本あるように、画像解析では見受けられる。
異星人が建てている建物を詳細に観察すると、木や石、レンガが用いられているようだ。
その建物には、明らかに大小がある。
ということは、おそらく身分がある社会が成立してるのだろう。
蒸気機関が実用化されている気配はなく、6本脚の地球で言えば、馬のような動物が車を引いたり、荷物を載せて、物を運んでいる。
田畑らしきものも目に付くので、農業や牧畜が行われているのは間違いない。
産業革命以前の地球で言えば、中世から近世程度の社会、と私は見立てた。
「知的生命体がいる星は、手を出さずに観察を行うというのが、国際ルールだったよね」
サラの無念そうな声が上がる。
「その通りだ。この星のレベルからすれば、次の探査を100年以内には行うべきだろうな」
私はそう答えた。
知的生命体がいる星には手を出さない。
黙って観察を行い、その星の文明の進歩を見守ろう。
それが現在の(人類間の)国際ルールだ。
こうなるまでには、幾多の激論があったと私は聞いている。
過激な意見の中には、文明のある知的生命体を見つけたら、その星に巨大隕石を落とし、その文明を滅ぼすべきだ、というものまで昔はあったと私は聞く。
要するに、予防戦争を仕掛けるべきだ、という主張だ。
中には勝手にやった国まであったという噂まである。
とはいえ、幾ら何でも、という声が強く、結局、それは行われなかった。
また、人類が介入することで、お互いの文明の進歩を助けるべきだ、という理想論的意見も、昔はそれなりにあったという。
それによって、友好関係を強め、知的生命体同士が仲良くしていこうというのだ。
だが、どんな知的生命体なのか、接触してみないと、本当の所は分からない。
その知的生命体が、余りにも好戦的で、後で人類に牙をむく可能性がある。
そういった様々な意見が出た末に、現在の国際ルールが出来ている。
もし、知的生命体がいる星を見つけたら、黙って観察していき、その文明の進歩を見守る。
それが人間の良識として、異星の知的生命体に対して取るべき態度ではないか、という主張が多数となって、このような国際ルールができた。
これは単なる問題の先送りだ、という批判が浴びせられることもある。
早急にどちらの方針を取るか、決めて行動すべきだ、と批判者は言うのだ。
しかし、だからといって、場合によっては、人類ではない異星の知的生命体を殺戮するようなことが許されるのだろうか。
なお、実際問題として言うならば、私とサラの2人だけで、この星の文明を崩壊させることは、容易に可能な話なのだ。
別に、私達の宇宙船が強力な武装を持っている訳ではない。
だが、無人探査機として使用される、この船に搭載された人口惑星。
これは最大で直径20キロ程度までの小惑星等の天体なら、それに取り付けることで、その天体の軌道を少しずつとはいえ、容易に変えて、この星への直撃ルートに乗せることができる。
ちなみに恐竜を絶滅させたと言われる隕石の大きさが、最大で直径15キロとされている。
そして、この星系内に、ざっと2人で探査しただけで、そういった天体は複数が見つかった。
その内の1つを使えば1年以内に、この星は文明が崩壊した星と化すだろう。
ともかく人としてやってはいけないことだ。
そう自分に言い聞かせ、サラに聞かせるために言う。
「この星はそっとしておくべきなのだ。人口惑星を念のために遺して、この星から去り、祖国仏に、現状を報告しよう」
「そうよね。そうすべきよね」
サラもいろいろと想うところがあるのだろう、複雑な内心を秘めたような声でそう私に言い、私達は地球へ、更に祖国への帰途に就くことにした。
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