お見舞い
次の日、すみれは一人で登校した。朝、蘭太郎がいつものように家の前で待っていなかったので、そのまま一人で来たのだ。
教室に入ると、雪が血相を変えてすみれに近寄った。
「すみれ!!」
「雪、おはよう。どうかしたの?」
「蘭太郎君が、蘭太郎君が!!」
「蘭がどうかした?」
「昨日、帰ってる途中で急に倒れちゃって、そのまま病院に運ばれたの。私も付き添ったんだけど、蘭太郎君のご両親に『あとは大丈夫だから』って言われて帰ったんだけど……。今日もまだ来てないみたいだし、もしかしたら入院したのかも」
「蘭が入院!? ちょ、ちょっと私、今日はこれで早退する!! どこの病院に運ばれたの?」
「若草病院」
「分かった。先生には、具合悪いから帰ったって言って!!」
すみれは雪にそう言い残すと、教室を飛び出し、若草病院へと向かった。
「蘭!!」
すみれは病院の受付で、蘭太郎の病室を教えてもらい、エレベーターを使わず階段を駆け上がって、病室のドアを開けた。
「おー、すみれ。どうした?」
蘭太郎は以外にも元気そうだった。
「どうした? じゃねーよ!! 人がどんだけ心配したと思ってんの?」
「雪ちゃんに聞いたの?」
「そうよ!! あんたが急に倒れたって言うから早退してここに来たのよ!!」
「あー、わりーわりー」
「心配損かよ」
すみれはそんなことを言いながらも、内心では安心していた。
それからしばらく、二人は病室で楽しく話していた。すみれも蘭太郎も二人きりで話すのは久しぶりだったので、いつも以上に話が弾んだ。このことによって、二人は自分にとって相手がどれだけ大切な存在なのか、再認識した……と、思われる。
「じゃあ、私そろそろ帰ろうかな」
「おう。なんか、悪かったな」
「ほんとだよ!! 蘭」
「ん?」
「本当に、何でもないんだよね?」
「……あぁ。大丈夫だ。また来てくれるよな?」
「うん。しょうがないから来てあげる」
「そりゃどーも」
「じゃあね」
「おう」
すみれは病室を出て行った。
蘭太郎は、すみれが出て行ったドアをしばらく見つめていた。
「ごめん、すみれ」
この日からすみれは、毎日のように蘭太郎のお見舞いに行く予定だった。しかし、すみれは一応、雪に蘭太郎が無事だったことを伝えた。
「そっか。蘭太郎君なんともなかったんだね。よかった」
「うん。私、毎日お見舞い行く予定なんだけど、雪も行く?」
「……毎日?」
「あ……」
すみれはこのとき、まずいことを言ってしまったと悟った。
「雪、毎日行ってあげて!! よく考えたら蘭も毎日私の顔見るのはいい加減うんざりだろうし、ある意味で雪にはチャンスだもんね」
「……うん。ありがとう、すみれ」
「……はは」
すみれは無理矢理笑顔を作っていた。