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病気

 蘭太郎が入院してから早一ヶ月。この間すみれは一度もお見舞いに行っていない。早退して病院に駆けつけて以来、一度も蘭太郎には会っていない。それでも、毎日お見舞いに行っている雪から蘭太郎の病状を聞いているので、蘭太郎の様子を知らないわけではなかった。

 蘭太郎は、実はある病気にかかっていた。だが、雪にはただの風邪だと言い張っている。それでも雪は、風邪ではないことぐらい勘付いている。そして今日も雪は蘭太郎のお見舞いに行っているところだった。

「蘭太郎君、具合はどう?」

 病室に入るなり、雪は蘭太郎に尋ねた。

「あぁ」

 最近の蘭太郎は、「あぁ」とか「おう」しか言葉を発さなくなった。

「今日は学校でね……」

「ねえ、雪ちゃん」

 蘭太郎は窓を見つめながら弱々しい声で言った。

「なに?」

「すみれは、どうしてる?」

「元気にしてるよ」

「そっか。あいつ、毎日歩いて学校行ってんのかな」

「うん。歩きで来てるよ」

「すみれ、何で会いに来てくれねーんだろう」

「……」

「すみれに、会いてー」

「蘭太郎君……」


 次に日、学校で雪はいつものようにすみれに蘭太郎の様子を話そうとしていた。

「昨日は蘭、元気だった?」

「うん……」

「雪? どうしたの?」

「……昨日はね、久しぶりに蘭太郎君が話してくれたの」

「おー、それは良かったね」

「すみれのこと」

「え?」

「すみれのこと聞いてきたよ。元気か? とか、歩いて学校来てるのかとか」

「……」

「すみれに……すみれに会いたいって」

「……」

「やっぱり、蘭太郎君はすみれしか見てないんだよ。悔しいけど、しょうがないんだって分かった。すみれ、蘭太郎君に会いに行ってあげて」

「雪……」

「すみれも、素直になりなよね!!」

 最後の言葉は涙を浮かべながらも、笑顔で言ってくれた雪だった。


 その日の放課後、すみれは一ヶ月ぶりに蘭太郎に会いに行った。

「蘭……!!」

 病室に入ると、人工呼吸器を付けて苦しそうにしている蘭太郎を、蘭太郎の両親、医者や看護婦が取り囲んでいた。

「すみれちゃん!!」

 蘭太郎の母親が泣きながらすみれに駆け寄った。

「蘭太郎が、蘭太郎が死んじゃう!!」


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