未知なる力
「あっあの。ここは何処ですか?あなたは誰?今日は何日ですか?」
先ほどの胸の感触が忘れられず少し照れくさい気持ちになり、女性を直視出来ずに挙動不審になりながらも疑問に思っていることをぶつけてみた。
「ちょっとちょっと、そんなに一気に質問されても口は1個しかないのよ?とりあえず落ち着いて!座って話しましょ?」
そういうと彼女は部屋の中央のソファに腰掛け、正面のソファに座るよう促してきた。
「は、はい。」
彼女に言われるがまま僕も立ち上がりソファに腰掛けた。
「まず、私の名前は橘 玲子、この学校の保健医よ!玲子先生って呼んでね?」
慌てていてしっかりと顔を見れていなかったが、
とても綺麗な顔立ちをしていて年は20代半ばといったところだろうか?
黒く長い髪を後ろで纏めていて首元のホクロが見え、
それがまた色気をだしていてもうすぐ高校生とはいえ
まだまだ若い僕には少し刺激的な印象の女性だった。
「そして、今は3月の2日!あなたが事故に巻き込まれた日からは、約3ヵ月は経ってるわね!寝てる間に新年も迎えちゃったわね♪」
迎えちゃったわね♪っじゃないよー!
えぇー?!
まさか僕は3ヶ月間もひたすらに眠り続けていたのか?!
それじゃあ高校受験も受けられない・・いや!今はそれより大事なことがある!
「嘘でしょ?!僕は猛スピードで突っ込んできてたトラックに跳ねられたはずですよ?でも今僕はなんともなく体はピンピンしている。どういうことですか?!」
今自分の中で1番不思議でならない疑問をぶつけてみる。
「それは私が治したの!まあ相当大変だったわよ〜!ほぼ即死並にズタボロだったから、今の医療技術では到底救うことは出来ないレベルだったもの」
わけの分からないこの状況に動揺を隠せない僕とは裏腹に彼女は素っ頓狂な顔でたんたんと話していく。
「そんな絶望的な状況だった僕をどうやってあなた1人で治したって言うんですか!全く信じられません!」
「それはねー!・・・才の力よ♪」
「え?・・才?」
そういえば寝た振りをしていた時も、そんな様なことを言っていたけど、
何を意味の分からないことを言っているんだこの人は。
「才っていうのはね。人間の内に持ってる精神エネルギーっていうのかな?まあ中国の気功とかあるじゃない?そんなような物だと思ってくれたらいいわ。その私の才の力であなたを治したのよ」
才?気功?精神エネルギー?バカを言うな
僕が中学生とは言え、そんな中二病みたいな設定を信じる程お子様ではない。
この現実にそんな都合の良さそうな超能力的なものが存在するわけがない。
完全に馬鹿にされている。
「あぁ!その顔は信じてないでしょ!まあ今まで知らなかった非現実的な事をすぐに受け入れろって方が無理なのかもしれないけどね」
彼女は僕の表情を敏感に読み取り、思った事に的確に答えてくる。
まあ僕がわかりやす過ぎるのかもしれないが。
「じゃあ見せてあげるわよ!ちょうどさっき転んだ時にあなた怪我してるでしょ?」
彼女は僕の膝を指差し言った。
確かにさっき彼女を庇おうと滑り込んだ時、少し膝をぶつけて軽いアザが出来ていた。
「まあこのくらいの怪我なら普段は才なんか使わずに、ただの治療しかしないんだけど、今回は特別ね?」
そう言って彼女は僕の傍に寄り、僕の膝に手を添えるように当てた。
すると、彼女の手が急に発光して眩い光を放った。
「な・・なんだ?!」
あまりの非現実的な状況にかなりビビった。
「動かないで。すぐ終わるから」
優しげに放たれた彼女の言葉に少し安堵し、様子を見ることにした。
彼女の手から放たれた光は、僕の膝を包み込む様に発光し、それはとても暖かく心を癒される様だった。
この感覚・・・確か・・夢でも感じた暖かさだ。
てことはあれはこの光だったのか。
そんなことを考えている内にアザは薄れていき、それとともに痛みも無くなっていった。
「はい!終わり!これくらいちょちょいのちょいよ!」
手の光は消えていき、彼女は僕の膝から手を離した。
確かに怪我が治っている。
光を放ったが、彼女がした行動は僕の怪我に触れただけだ。
こんなことがありえるのか?!
ただ触れただけで怪我を治せるなんてそんな事ができたらもう医療もクソもあったものではない。
「言っとくけど、さっき説明した通り才っていうのは精神エネルギーを使っているの!むやみやたらに使うと疲れるし酷いと・・・死に至る事もあるわ」
さっきとは打って変わってとても真剣な眼差しで僕を見つめそう言った。
「まっこんな怪我くらいじゃどうってことはないけど、あなたの事故で死にかけてた体を元に戻すのには相当な才を要したわ。危うく私がぶっ倒れるところだったんだから」
僕は現実を目の当たりにしてどう反応して良いのが分からず、戸惑っていたが、夢の時の感覚・・今治してもらった感覚。それにアザが治るのを目の前で見た現実。これらを考えると信じざるおえないだろう。
「確かに、今のを見せられたら信じるしかないですね。僕を助けて頂きありがとうございます。」
「あら?えらく物分りがいいわね?もしかして元々超能力とかが本当にあれば良いのにな〜って思ってた系男子?」
彼女はまたイタズラな顔で微笑みからかってきた。
「いや違いますよ!ただ現実主義なだけです!見た事のないものは信用できないですが、見た物は信じる!それだけです!」
その彼女のイタズラな微笑みに少し照れつつ彼女の意見を否定した。
「ふ〜ん!まあなんでもいいけど、とにかく信じて貰えて何よりだわ」
才という存在は半信半疑なものの信じざるおえないのが現状。ひとまずそれは考えても仕方ないから置いておこう。そして次の問題だ。
「それはいいとして、ここは学校と言いましたが、何故僕が知らない学校に連れてこられて、その学校の保健室の先生に助けられてるんですか?」
そうだ!才の事を置いても不可解なことはまだたくさんある!事故を起こしてから、かろうじで生きていたとしても普通なら病院にいるはずだ。
それが学校にいる。公共の病院ならともかく僕はこんなとことはなんの接点もないし助けられる覚えがない。
助けてもらっといて不謹慎かもしれないが、怪しすぎる。
「そうね。ここからが話の本題ね。まずこの学校は普通の学校じゃないわ。」
彼女は再びおふざけしていた表情から真面目な表情に代わり真剣に話しだした。
「この学校は世界中の才ある子供達を集めて教育する為に作られた極秘機関。才能学園よ!」
「才能学園?!」
またもや極秘機関やら才能学園やら謎すぎる単語が出てきた。
「そうよ。この学園は才を操れる可能性のある人間だけが厳選され集められる学校よ。元々才というのは人間誰しも持っている物ではあるけれど、それを意識的に使い、能力として発現させられる人間はごく限られた人間のみ。そしてその才の存在は公にされていないわ」
「ちょ、ちょっと待ってください!才を操れる人間を集めた極秘の学校?!って、そんなところがいったい僕になんの関係があるんですか?!」
あまりに突拍子のない話が続けて放たれるのについていけず、動揺してしまう。
「それが大ありなのよ。関係あり過ぎて、私はこの忙しい中で必死であなたを助ける事になったわけ」
彼女は軽くため息を吐きながら言った。
「だってあなた・・・この学園の学園長の息子なんだもの」