ニーナの野望
僕も覚えてない内容を思い出しながら書いた
ボアが俺の頭に落ちてきた。それはただの落下ではあるが、不可避の致命的な一撃でしかなく、ただの人間ならばそのまま圧死していただろう。
しかし、俺の体は思ったよりも頑丈だったようで。
俺の両手は肩までボアの腹にめり込んでいた。
ブオオォォオ!!!
ボアは怒りと悲鳴が混じった声を上げるが、そもそもこれって君が悪いわけでね?俺はただ回避しきれそうもないから君を受け止められないか試しただけでね?こんな深々と両手が刺さるなんて思うわけないじゃん!
「ええ…これどうしよう」
思わず漏れ出た思いが言葉となるが、ここで返事をしてくれるものは誰もいない。もちろんボアはそんなことを呟いている間も暴れているが、俺の体に振動がくる程度で、体自身は全く倒れるそぶりを見せない。自分の体だというのに何か不気味さを感じるな…
とりあえず冷静にこのボアをどうするか考えよう。
まず、このボアは村の畑を荒らす悪いやつだ。そして、こいつはこの村の住人たちを吹き飛ばしてもしゃもしゃと美味しそうにここらの作物を食べていたわけだ。
つまり、お仕置きが必要だな…でも俺って動物殺せるほど肝も据わってないしなあ…
…とりあえずこのままだとボアがかわいそうだな。
ずっと俺の両手刺さってたら落ち着くわけがない。俺の体も負担すごそうだし。
俺はボアを支えていた両手を、遠くに倒れている村人らしき人たちとは真逆の森に勢いよく倒した。
それと同時にボアの巨体は水平投射されたかのようにまっすぐと森へと投げ出され、メキメキボキィ!という木々が倒れる音とともに森の奥へと姿を消した。
「…………え?」
俺の想像としては、少し乱暴だが両手はボアからスポッと抜け、綺麗なでんぐり返しを決める程度のつもりの威力で投げたつもりだった。
俺の体、強すぎませんか?
俺はボアの行き先である森を見たが、そこには倒れている木々と目を凝らしても見えない暗闇しかなかった。
うおおおおおおあああ!!!!
村人たちの歓声でようやく我に帰った俺はとりあえず頭を拾って胴体と接合した。
そうして感触を確かめているときにニーナとキシルがいつの間にか段々畑の下まで降りてきていた。
「お疲れええ!!!どうだった!?その体強いでしょ!?なんたってマナノイバーに魔素クリスタルを編み込んで」
「そんなことはどうでも良い。なあ、ニーナ…お前は一体俺で何をしようとしているんだ?」
正直、俺のこの体はただのロボットにしてはオーバースペック過ぎる。段々畑から落ちたにも関わらず俺の体は全く傷ついていない。ボアに吹き飛ばされた時も凹みすらない。そして、力だ。自分よりもはるかに大きいボアを楽々と持ち上げ、木なんてものともしない速さで投げつけられるこの力。単なるロボットに求める性能としては大き過ぎる。この力を持って正直、恐怖を覚えた。一体この女は俺で何をさせようとしているのか。
「ふふふ…よくぞ聞いてくれたわ。ロボットにこんな質問されるなんて、心が踊るわね!」
「どうしてだ?」
「まず、ロボットはそんな思考普通できないわよ。自分で自律行動するロボットができて一番困惑してるのは私よ。まあ、ある程度は自分で判断して行動ができるような構造になるようプログラムは組んだけれど…私の予想を上回ったってレベルじゃないわね。正直。」
それはその通りなのだろう。
神様によって俺という人格がニーナのロボットにインストールされたのだから。
「まあ、嬉しい誤算ってやつかしら。私の計画も一気に進めやすくなったし!」
「そうだ。その計画ってやつを俺は聞きたい」
「えーとその前に、あなたの名前を決めてなかったわね。別にロボ男とかでも私は構わないけど…まあ露骨に嫌そうな顔するよね。せっかく良い頭持ってるんだから自分でつける?」
「…『ケイ』にしてくれ、それが一番馴染む。」
「『ケイ』ね。ん、悪くない。それで、私がケイに何をさせたいかだけど」
俺は一生この時のニーナの顔を忘れることがないだろう。
小さい頃に夢見たことを思わず思い出すような、あの笑い顔を。
「男の子なら誰でも一度は夢見る、『世界征服』よ!」
こうしてケイとニーナを中心とした物語は、今ここで初めて幕を開けた。