ファーストミッション
久しぶりとかのレベルじゃないですね。
ボアは頭上にいる俺の顔面をめがけて激しく咆哮する。いや、顔面しかないからそこしか見るところないんだけどね。そんな軽口がこんな場面で出てしまうくらいに俺の脳内は冷静なようだ。
ブオオォオォォ!!
まあ、よく鳴くこと。…自分の体に鉛みたいなもん打ち込まれたらそりゃああなるか…ってあえあ!!?
思わず変な声が出てしまうほどに、驚愕した。
あのボアは俺を見据えてしゃがみこむような動作をしたと思うと、10mほど跳躍し落下している俺と同じ目線にまで到達してきたのだ。
「……こ、こんにちは、あ、いやここは異世界風にハロブホゥア!」
とてつもない衝撃と共に、俺の顔面は地面に撃ち落とされる。ボアが体をひねり、反動で尻尾を叩きつけてくるまでが俺の吹き飛ばされる寸前に見えた光景だ。どうやらその運動で、俺の体がボアの体から外れて落下してきたらしい。ボアも落下を始めているが、ボアの尻尾によって一足先に地面に落下した俺の顔面の横には俺の体が肩まで埋まっていた。まあそれは見事に垂直に。
「ってやばい!あいつ落ちてくる前にジョイントしねえとこのままじゃマジで潰されちまう!」
遠隔操作でなんとかあの埋まった体を外に出さねえとーーと思った矢先に、手をガバッと横に開いて万歳のような姿勢をとると、ボアの体重の足跡が軽くつくだけのような硬い足場に手をかけ、まるでプールから出るかのような滑らかな動作で体が抜け出した。
…驚いている暇なんてねえ!早くジョイントして元の体にーーー
ーーー
ズズ……ーン
ニーナは横にいる男とともに、地鳴りと、そして激しい揺れを感じた。
私が作ったロボットのくせに、あんな間抜けにこの畑から落ちていくなんて…一応人間の営みの基礎的なことはインプットしたつもりだけど、人の行動を網羅したデータは取れなかったものねえ。そもそも初期動作としては申し分ないものになり過ぎているって感じだし、贅沢は言ってられないか。それとーーー
「おいニーナ!あいつ大丈夫なのか!?あんな高さから落ちて…それに今の地響きはボアの野郎だ!嫌な想像しかできねえ…」
私の思考を遮る声が耳に届く。幼い頃から一緒に過ごしてきたとはいえ、こんなイレギュラーが起きた時に発する、ため息が出てしまうような不安な声はどうにかならないものか。
「もう、キシルったら…。私がなんであの子を連れてきたと思ってるの?」
「いや、そりゃあ人手が必要だから…ボア追い出す時はいつも村の奴ら全員で行うくらい全力で取り掛かってるくらいだし、猫の手でも借りたいだろ」
はあ…こいつは何にもわかっちゃいない。私の最高傑作をそんなみみっちいことに使うとでも思っているんだろうか。
「いい?キシル。私はボアを追い出すための駒を連れてきたわけじゃないの。あの子はね、いわば戦士かしら」
そう、あんな地響きで狼狽するような事態に陥ることはありえない。
だって、私の最高傑作があんな野蛮で本能で動いている生物に負けるはずがないじゃない!
「あの子のファーストミッションは、あのボアを退治すること。つまり殺すってことね。」